マナー講師に告ぐ! 「過剰なビジネスマナー」は就活生に必要ない 2014年5月30日 採用担当者が斬る「シューカツの迷信」 ツイート 以前、ある女子大から「企業の採用担当者の立場から指導をしてください」という依頼を受け、就職に向けた単発の講座をしたことがあります。会場には100名近くの学生さんが集まっていました。私の講座の前には、マナー講師が授業をしていたようです。 講座開始までに時間があったので、私は何人かの学生さんたちと雑談をしていました。みんな和やかに談話していて、とても楽しそうな雰囲気でした。私は「この雰囲気のまま、講座を始められたら私も喋りやすいなぁ」と喜んでいました。 しかし、チャイムが鳴り、マナー講師がマイクで喋り始めると、空気は一変したのです。突然、会場に厳しい声が響き始めました。 「みなさん、講師の方が登壇されます。先ほどの練習通りにいきますよ! 全員起立!」 「キチョハナ」も不要。質問だけで十分 マナーを知らないのは誰か 学生さんたちは、先ほどとは打って変わって厳しい表情ばかりです。私はただただあっけにとられていました。マナー講師は、知ってか知らずか、そのままの調子で続けます。 「私に続いてご挨拶しましょう! 手は前で重ねて、お辞儀の角度を意識して! それでは、よろしくお願い致します!」 「よろしくお願い致します!」 私はとまどいながら、「よ、よろしくお願いします」と返すしかありませんでした。この日ほど、話しにくい空気は未だに経験していません。 学校でこのような指導をしていると、当然学外でも就活生は教え込まれたことを実践します。例えば、会社説明会の質疑応答の時です。 「本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。〇〇大学△△学部の□□です」 毎年、何度も聞かされる前置きです(就活生の間では「キチョハナ」と呼ばれているようですが)。言われる度に、「そんなに硬くならずに、質問だけで大丈夫ですよ」とお伝えしますが、その直後に別の学生からも言われることも何度となく経験しています。 質疑応答の時は、簡潔に質問だけをしてほしいのが採用担当者の本音です。「質問をする時に名前を言えば覚えてもらえる」ということもありません。 過剰なマナーこそ「マナー違反」だ 本来のビジネスマナーは、相手と良好な人間関係を紡ぐためにあるはずです。しかし、上記の例は必要以上にマナーに縛られて、逆に相手との距離をおいてしまっています。こうなるとせっかくのご縁もつながらなくなってしまいます。 他に、マナーについて就活生から相談を受けたことがあるものをご紹介します。 「面接会場への入室の際、ノックは何回したらいいですか?」 「椅子に座る時は右からか左からかどちらがいいですか?」 「お辞儀の角度は練習した方がいいですか?」 ノックの回数など、2回でも3回でも構いません。面接時に見たいのは、人柄です。ノックの回数なんて全く気にしていません。椅子への座り方も同様に見ていませんし、覚えてもいません。お辞儀の角度なんて、社会人でもきちんとしているのは、マナー講師の方々くらいでしょう。それで全く問題ありません。 採用担当者の本音なのですが、ビジネスマナーの出来不出来くらいで合否は決まりません。こんなものは必要であれば、入社後に教えれば済むことです。私たちが見ようとしているのは、「教えた時に素直に吸収する人かどうか」という点です。 にもかかわらず、就活生がビジネスマナーに過敏になるのはなぜなのでしょう。それは、彼らに過剰なマナーを教え込む人たちがいるからです。大学のキャリア課を始め、資格の学校や就職支援塾などで、やたらとビジネスマナーを喧伝している方々です。 彼らが採用においてビジネスマナーの重要度が低いことを知らないのか、大事だとカン違いしているだけなのかはわかりませんが……。そして、不思議なことに、なぜか女子大ほど過剰なビジネスマナーを教え込む傾向にあります。 ビジネスマナーが全く必要ないとは言いませんが、あまりとらわれる必要はありません。それより、採用担当者との自然なやりとりを優先してください。過剰なマナーこそ「マナー違反」です。(河合浩司) あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー 【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。
マナー講師に告ぐ! 「過剰なビジネスマナー」は就活生に必要ない
以前、ある女子大から「企業の採用担当者の立場から指導をしてください」という依頼を受け、就職に向けた単発の講座をしたことがあります。会場には100名近くの学生さんが集まっていました。私の講座の前には、マナー講師が授業をしていたようです。
講座開始までに時間があったので、私は何人かの学生さんたちと雑談をしていました。みんな和やかに談話していて、とても楽しそうな雰囲気でした。私は「この雰囲気のまま、講座を始められたら私も喋りやすいなぁ」と喜んでいました。
しかし、チャイムが鳴り、マナー講師がマイクで喋り始めると、空気は一変したのです。突然、会場に厳しい声が響き始めました。
「キチョハナ」も不要。質問だけで十分
学生さんたちは、先ほどとは打って変わって厳しい表情ばかりです。私はただただあっけにとられていました。マナー講師は、知ってか知らずか、そのままの調子で続けます。
私はとまどいながら、「よ、よろしくお願いします」と返すしかありませんでした。この日ほど、話しにくい空気は未だに経験していません。
学校でこのような指導をしていると、当然学外でも就活生は教え込まれたことを実践します。例えば、会社説明会の質疑応答の時です。
毎年、何度も聞かされる前置きです(就活生の間では「キチョハナ」と呼ばれているようですが)。言われる度に、「そんなに硬くならずに、質問だけで大丈夫ですよ」とお伝えしますが、その直後に別の学生からも言われることも何度となく経験しています。
質疑応答の時は、簡潔に質問だけをしてほしいのが採用担当者の本音です。「質問をする時に名前を言えば覚えてもらえる」ということもありません。
過剰なマナーこそ「マナー違反」だ
本来のビジネスマナーは、相手と良好な人間関係を紡ぐためにあるはずです。しかし、上記の例は必要以上にマナーに縛られて、逆に相手との距離をおいてしまっています。こうなるとせっかくのご縁もつながらなくなってしまいます。
他に、マナーについて就活生から相談を受けたことがあるものをご紹介します。
ノックの回数など、2回でも3回でも構いません。面接時に見たいのは、人柄です。ノックの回数なんて全く気にしていません。椅子への座り方も同様に見ていませんし、覚えてもいません。お辞儀の角度なんて、社会人でもきちんとしているのは、マナー講師の方々くらいでしょう。それで全く問題ありません。
採用担当者の本音なのですが、ビジネスマナーの出来不出来くらいで合否は決まりません。こんなものは必要であれば、入社後に教えれば済むことです。私たちが見ようとしているのは、「教えた時に素直に吸収する人かどうか」という点です。
にもかかわらず、就活生がビジネスマナーに過敏になるのはなぜなのでしょう。それは、彼らに過剰なマナーを教え込む人たちがいるからです。大学のキャリア課を始め、資格の学校や就職支援塾などで、やたらとビジネスマナーを喧伝している方々です。
彼らが採用においてビジネスマナーの重要度が低いことを知らないのか、大事だとカン違いしているだけなのかはわかりませんが……。そして、不思議なことに、なぜか女子大ほど過剰なビジネスマナーを教え込む傾向にあります。
ビジネスマナーが全く必要ないとは言いませんが、あまりとらわれる必要はありません。それより、採用担当者との自然なやりとりを優先してください。過剰なマナーこそ「マナー違反」です。(河合浩司)
あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー
【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)
上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。