そんなインターンに「教育効果」なんて本当にあるのか? 超短期間でお客様扱い… 2014年7月31日 採用担当者が斬る「シューカツの迷信」 ツイート 前回も説明したとおり、今夏のインターンシップは、各社とも人材の早期獲得のために色めきだっています。しかし、どの会社も「就業体験」とは名ばかりで、会社の仕事をきちんと体験させることはまずありません。 この現状は学生、企業双方にとって、とても不幸なことなのではないかと思います。本格的な就業体験を、ある程度の期間をかけてじっくり行い、双方が納得する形でお互いを知る機会になる日が来るのを、心から祈らざるをえません。(河合浩司) 素人にでもできる作業をわざわざ作る会社も 業務をしなきゃ分からない 現状のインターシップが「就業体験」になっていない理由には、大きく2つあります。1つは、期間の短さです。「長期」と名がついていても、せいぜい2週間から1か月くらいしかないのです。 本当の意味で仕事を体験するなら、日常業務の何かを経験する必要があります。しかし、そんな短期間に会社に来る素人に任せられる仕事なんて、ほとんどありません。 あるのは、誰にでもできる単純な作業程度です。場合によっては、素人にでもできる作業をわざわざ作る必要すら出てきます。実際、私が知っているとある企業では、データ入力の作業をインターンシップのためだけに作り出していました。 この会社では、日頃はコンピューターが自動的に読み込んでくれるデータを、わざわざ1週間かけてインターンシップ生に入力させていました。そうでもしないと、1週間会社にいる間、させておくことがないからです。 2つ目の理由は、どうしても起こりうる「学生がお客様扱いされる状況」です。企業は採用のためにインターンシップをしているので、参加してくれる学生さんたちの満足度が高いものにしなければなりません。 必然的に、会社は学生さんたちに気を配り、お客様のように接する必要があります。例えば「作業ばかりでは飽きるだろう」と考え、合間にグループディスカッションを取り入れたり、業界に関する内容の講義を入れたり、先輩社員との懇談会を企画したりします。 このように、インターンシップで自社に興味を持ってもらうために、あの手この手を尽くしますが、普段は若手社員にだって、ここまで気を遣うことは普通ありえません。何もかもお膳立てするのは、明らかに過保護です。 1年以上の「完全歩合制」インターンの効果 こういった「日常業務ではありえない状況」の中にしか存在できないのが、今のインターンシップなのです。これでは、就業体験などできるはずもありません。 「短期であること」「お客様扱い」という特殊な環境で経験することに、全く意味がないとは言いません。ですが、本当の意味で就業体験をさせるなら、社員と同じような仕事をさせるしかないはずです。 本当に業務を経験させるインターンシップを実施しているITベンチャーを知っています。採用担当者が知り合いなのですが、内容を聞いて驚きました。1年間以上の「完全歩合の営業インターンシップ」だというのです。 ウェブ上の広告を飲食店などに売るという、正社員が日々取り組んでいる仕事に学生たちがそのまま取り組んでいるのだとか。勤務時間は自由で、交通費は会社が支給。一定額の固定奨励金のほか、自分が営業して契約をとってきた分だけ成果報酬があるそうです。 1年参加すれば、業務をひと通り経験できます。成功すれば大きな報酬があるとはいえ、このようなインターンシップに「やりたい!」と挑んでいく学生さんに頭が下がります。実際、参加した学生の中から、毎年1人以上は採用できているそうです。 しかも、入社した後も即戦力になってくれて、企業側・学生側にとってお互いに良い関係が生まれていると聞いています。インターンシップの本来のあり方からしても、私にはこのやり方の方が正しいと思えてなりません。 今後は「企業側の魅力」が問われる場になる ただ、気をつけなければならないのは、インターンシップの名の下に学生を若い労働力として使ってはならないということです。極めて安い給料で、場合によっては無給で学生を使うケースが一部で問題になっていますが、これは搾取といっていいでしょう。 なお、上記のITベンチャーは、固定奨励金や成果報奨金、交通費を支給するほか、業務に使用するPCは無償貸与、地方からのインターン生に社員寮を無料で提供するなど「タダ働き」とならない配慮をしていました。 「実際の仕事をするなら、アルバイトで十分なのでは?」という人もいるかもしれません。しかし、即戦力を採用したいのであれば、普段から社員が行っている業務に携わらせることが大事です。アルバイトレベルの雑用をやらせるのであれば、会社の雰囲気は分かるかもしれませんが、本来の就業体験にはならないでしょう。 とはいえ、例にあげたITベンチャーのようなインターンシップは、参加する側にとっても非常にハードルが高いものです。それでもなお「この会社のインターンシップに挑戦したい!」と思ってもらえる魅力が、企業側に求められるようになるのかもしれません。 あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー 【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。
そんなインターンに「教育効果」なんて本当にあるのか? 超短期間でお客様扱い…
前回も説明したとおり、今夏のインターンシップは、各社とも人材の早期獲得のために色めきだっています。しかし、どの会社も「就業体験」とは名ばかりで、会社の仕事をきちんと体験させることはまずありません。
この現状は学生、企業双方にとって、とても不幸なことなのではないかと思います。本格的な就業体験を、ある程度の期間をかけてじっくり行い、双方が納得する形でお互いを知る機会になる日が来るのを、心から祈らざるをえません。(河合浩司)
素人にでもできる作業をわざわざ作る会社も
現状のインターシップが「就業体験」になっていない理由には、大きく2つあります。1つは、期間の短さです。「長期」と名がついていても、せいぜい2週間から1か月くらいしかないのです。
本当の意味で仕事を体験するなら、日常業務の何かを経験する必要があります。しかし、そんな短期間に会社に来る素人に任せられる仕事なんて、ほとんどありません。
あるのは、誰にでもできる単純な作業程度です。場合によっては、素人にでもできる作業をわざわざ作る必要すら出てきます。実際、私が知っているとある企業では、データ入力の作業をインターンシップのためだけに作り出していました。
この会社では、日頃はコンピューターが自動的に読み込んでくれるデータを、わざわざ1週間かけてインターンシップ生に入力させていました。そうでもしないと、1週間会社にいる間、させておくことがないからです。
2つ目の理由は、どうしても起こりうる「学生がお客様扱いされる状況」です。企業は採用のためにインターンシップをしているので、参加してくれる学生さんたちの満足度が高いものにしなければなりません。
必然的に、会社は学生さんたちに気を配り、お客様のように接する必要があります。例えば「作業ばかりでは飽きるだろう」と考え、合間にグループディスカッションを取り入れたり、業界に関する内容の講義を入れたり、先輩社員との懇談会を企画したりします。
このように、インターンシップで自社に興味を持ってもらうために、あの手この手を尽くしますが、普段は若手社員にだって、ここまで気を遣うことは普通ありえません。何もかもお膳立てするのは、明らかに過保護です。
1年以上の「完全歩合制」インターンの効果
こういった「日常業務ではありえない状況」の中にしか存在できないのが、今のインターンシップなのです。これでは、就業体験などできるはずもありません。
「短期であること」「お客様扱い」という特殊な環境で経験することに、全く意味がないとは言いません。ですが、本当の意味で就業体験をさせるなら、社員と同じような仕事をさせるしかないはずです。
本当に業務を経験させるインターンシップを実施しているITベンチャーを知っています。採用担当者が知り合いなのですが、内容を聞いて驚きました。1年間以上の「完全歩合の営業インターンシップ」だというのです。
ウェブ上の広告を飲食店などに売るという、正社員が日々取り組んでいる仕事に学生たちがそのまま取り組んでいるのだとか。勤務時間は自由で、交通費は会社が支給。一定額の固定奨励金のほか、自分が営業して契約をとってきた分だけ成果報酬があるそうです。
1年参加すれば、業務をひと通り経験できます。成功すれば大きな報酬があるとはいえ、このようなインターンシップに「やりたい!」と挑んでいく学生さんに頭が下がります。実際、参加した学生の中から、毎年1人以上は採用できているそうです。
しかも、入社した後も即戦力になってくれて、企業側・学生側にとってお互いに良い関係が生まれていると聞いています。インターンシップの本来のあり方からしても、私にはこのやり方の方が正しいと思えてなりません。
今後は「企業側の魅力」が問われる場になる
ただ、気をつけなければならないのは、インターンシップの名の下に学生を若い労働力として使ってはならないということです。極めて安い給料で、場合によっては無給で学生を使うケースが一部で問題になっていますが、これは搾取といっていいでしょう。
なお、上記のITベンチャーは、固定奨励金や成果報奨金、交通費を支給するほか、業務に使用するPCは無償貸与、地方からのインターン生に社員寮を無料で提供するなど「タダ働き」とならない配慮をしていました。
「実際の仕事をするなら、アルバイトで十分なのでは?」という人もいるかもしれません。しかし、即戦力を採用したいのであれば、普段から社員が行っている業務に携わらせることが大事です。アルバイトレベルの雑用をやらせるのであれば、会社の雰囲気は分かるかもしれませんが、本来の就業体験にはならないでしょう。
とはいえ、例にあげたITベンチャーのようなインターンシップは、参加する側にとっても非常にハードルが高いものです。それでもなお「この会社のインターンシップに挑戦したい!」と思ってもらえる魅力が、企業側に求められるようになるのかもしれません。
あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー
【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)
上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。