「留学経験」は飽和状態 もう「就活」のアピールにならないと思った方がいい 2014年8月7日 採用担当者が斬る「シューカツの迷信」 ツイート 最高学府である大学できちんと学びを深めた学生との出会いは、採用の仕事の醍醐味です。特に海外で実体験から学びを得ている人は、就活にも大きなアドバンテージになることでしょう。 しかし残念ながら、有意義な留学経験のある学生に出会うことは極々まれです。どう聞いても「単なる海外旅行じゃないか」と思ってしまう就活生が多く、面接時の自己紹介で「大学で力を入れたことは留学です!」と言われても、いつの頃からか「それは全くアピールにならないのに」と思うようになってしまいました。(河合浩司) 「短期の語学留学」には食傷気味 有意義な留学を 最もよく聞くパターンが、短期の語学留学の経験です。 「1か月の留学経験をしました。その中で、語学力の向上に力を入れました。その結果、日常生活はこなせるようになりました」 この手の話を聞く度に、「1か月もいたら、そりゃ多少は話せるようなるでしょうに…」と思わざるをえません。決して安くない旅費を使ってまで行った海外で得た学びが、日常会話程度の語学だけなら旅費を出した親も報われません。英会話スクールで真剣に学んだのと、そう変わらない効果です。 もう一つよく聞くパターンが「価値観の違いを学びました」というもので、それも「それくらい日本にいても、ある程度想像がつくではないか」という程度のものです。ちゃんとした本を読み、海外のニュースを聞くだけでも、価値観が違うことくらい分かります。わざわざ留学してまで得た学びが「価値観が違っているのだと知りました」では、感性の鈍さを露見しているに過ぎません。 これが「留学」をアピールする学生に対する、採用担当者の実感です。もちろん、とりあえず外国に行ってみたという経験は、長い人生の中でまったく無駄ではないと思います。しかし「就活で有利になるから」という理由なら考え直すべきです。 確かに大学や留学支援業者は、口を揃えて「企業はグローバル人材を求めているから、留学は良い」と言います。しかし彼らもホンネでは、単なる短期留学に何の意味もないことを知っています。いい加減な「○○が就活に有利」という言葉を、鵜呑みにしてはいけません。 留学先のインターンで1位を獲得した女子学生 とはいえ、極々稀に、頭が下がる想いになるような留学経験を積んでいる学生さんにお会いすることがあります。私がお会いしたのは、過去にたった1人だけです。 彼女は3年生になってから、1年間台湾に留学していました。そのために1年生の頃から中国語の勉強に励み、留学前から日常会話ができたそうです。 留学先で行っていたのは、自身が志望する企業が海外出店する1店舗目のオープニングスタッフでした。高校生の時からこの会社の社長のことを知っていて、ずっと一緒に働きたいと思っていたそうです。 念願叶って仕事に励む機会をもらえた彼女は、持てる力を全て注いだのでしょう。店舗販売員の中で売上1位になるだけでなく、接客マニュアルの確立、企業の海外展開の留意点をまとめたレポートまで残してきたそうです。 実際に資料の一部を見せてもらいましたが、学生という枠組みを遥かに超えたでき栄えで、一次面接でお会いした時点で、私はすぐに役員を会わせました。 当然、すぐさま内定となったのですが、当社の魅力が足りず他社に取られてしまいました。若くして自身の進路を熟慮し、行動を続ける彼女と会って、心から尊敬したことを今でも覚えています。 「留学経験ないの?」で落とす会社はない もちろん、すべての学生にこんなスーパーウーマンの真似をしろといっても、無理だということは重々承知です。私だって、そんなハイレベルのことを学生に要求できるほど立派な人ではありません。 しかし、そのような学生も実際にいるということを知っていただき、「留学でもするか」と考えたときに是非思い出してもらいたいのです。 留年をした学生さんに理由を聞いた時、「留学経験がないと就活で苦労するのだと感じ、留学をするために留年しました」と説明されたことがあります。苦し紛れだったのかもしれませんが、採用担当者の目から見て、彼が苦戦する理由は全く別のところにありました。 留学は合否とは全く関係がないことだったのですが、彼はそこに力を注いでしまっていました。正しい努力の方針を教えてくれる人に、彼が出会えることを願うばかりです。 「留学を就職活動でアピールに使おう」という人には、立ち止まって深く考えてみることをおすすめします。「いまどき留学経験がないの?」という理由で落とす会社はありません。 大事なことは、就活に有利不利などという些末なことに囚われず、「こういう人生を歩みたい」という気持ちを持ち、行動を続けることでしょう。そのことが、自分に合った企業とのご縁をつなげてくれることと思います。 あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー 【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。
「留学経験」は飽和状態 もう「就活」のアピールにならないと思った方がいい
最高学府である大学できちんと学びを深めた学生との出会いは、採用の仕事の醍醐味です。特に海外で実体験から学びを得ている人は、就活にも大きなアドバンテージになることでしょう。
しかし残念ながら、有意義な留学経験のある学生に出会うことは極々まれです。どう聞いても「単なる海外旅行じゃないか」と思ってしまう就活生が多く、面接時の自己紹介で「大学で力を入れたことは留学です!」と言われても、いつの頃からか「それは全くアピールにならないのに」と思うようになってしまいました。(河合浩司)
「短期の語学留学」には食傷気味
最もよく聞くパターンが、短期の語学留学の経験です。
この手の話を聞く度に、「1か月もいたら、そりゃ多少は話せるようなるでしょうに…」と思わざるをえません。決して安くない旅費を使ってまで行った海外で得た学びが、日常会話程度の語学だけなら旅費を出した親も報われません。英会話スクールで真剣に学んだのと、そう変わらない効果です。
もう一つよく聞くパターンが「価値観の違いを学びました」というもので、それも「それくらい日本にいても、ある程度想像がつくではないか」という程度のものです。ちゃんとした本を読み、海外のニュースを聞くだけでも、価値観が違うことくらい分かります。わざわざ留学してまで得た学びが「価値観が違っているのだと知りました」では、感性の鈍さを露見しているに過ぎません。
これが「留学」をアピールする学生に対する、採用担当者の実感です。もちろん、とりあえず外国に行ってみたという経験は、長い人生の中でまったく無駄ではないと思います。しかし「就活で有利になるから」という理由なら考え直すべきです。
確かに大学や留学支援業者は、口を揃えて「企業はグローバル人材を求めているから、留学は良い」と言います。しかし彼らもホンネでは、単なる短期留学に何の意味もないことを知っています。いい加減な「○○が就活に有利」という言葉を、鵜呑みにしてはいけません。
留学先のインターンで1位を獲得した女子学生
とはいえ、極々稀に、頭が下がる想いになるような留学経験を積んでいる学生さんにお会いすることがあります。私がお会いしたのは、過去にたった1人だけです。
彼女は3年生になってから、1年間台湾に留学していました。そのために1年生の頃から中国語の勉強に励み、留学前から日常会話ができたそうです。
留学先で行っていたのは、自身が志望する企業が海外出店する1店舗目のオープニングスタッフでした。高校生の時からこの会社の社長のことを知っていて、ずっと一緒に働きたいと思っていたそうです。
念願叶って仕事に励む機会をもらえた彼女は、持てる力を全て注いだのでしょう。店舗販売員の中で売上1位になるだけでなく、接客マニュアルの確立、企業の海外展開の留意点をまとめたレポートまで残してきたそうです。
実際に資料の一部を見せてもらいましたが、学生という枠組みを遥かに超えたでき栄えで、一次面接でお会いした時点で、私はすぐに役員を会わせました。
当然、すぐさま内定となったのですが、当社の魅力が足りず他社に取られてしまいました。若くして自身の進路を熟慮し、行動を続ける彼女と会って、心から尊敬したことを今でも覚えています。
「留学経験ないの?」で落とす会社はない
もちろん、すべての学生にこんなスーパーウーマンの真似をしろといっても、無理だということは重々承知です。私だって、そんなハイレベルのことを学生に要求できるほど立派な人ではありません。
しかし、そのような学生も実際にいるということを知っていただき、「留学でもするか」と考えたときに是非思い出してもらいたいのです。
留年をした学生さんに理由を聞いた時、「留学経験がないと就活で苦労するのだと感じ、留学をするために留年しました」と説明されたことがあります。苦し紛れだったのかもしれませんが、採用担当者の目から見て、彼が苦戦する理由は全く別のところにありました。
留学は合否とは全く関係がないことだったのですが、彼はそこに力を注いでしまっていました。正しい努力の方針を教えてくれる人に、彼が出会えることを願うばかりです。
「留学を就職活動でアピールに使おう」という人には、立ち止まって深く考えてみることをおすすめします。「いまどき留学経験がないの?」という理由で落とす会社はありません。
大事なことは、就活に有利不利などという些末なことに囚われず、「こういう人生を歩みたい」という気持ちを持ち、行動を続けることでしょう。そのことが、自分に合った企業とのご縁をつなげてくれることと思います。
あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー
【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)
上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。