いい加減、採用担当者は就活生に「挫折経験」を聞くのをやめませんか? 2014年8月22日 採用担当者が斬る「シューカツの迷信」 ツイート 「就活生に挫折経験を聞くのは、もうヤメにしませんか?」――以前、採用担当者の勉強会に参加した時、たまりかねた私が思わず言ってしまった言葉です。場が一瞬凍りついたのは言うまでもありません。しかし、どうしても見過ごせませんでした。 この時、話題に上がっていたのは、学生が話す挫折経験についてです。面接やエントリーシートで「挫折経験を教えてください」という問いが使われていることがあります。しかし、この問いはあまりにも答えにくい悪質なものです。(河合浩司) 答えたのに「こんなことくらいで挫折」とは何だ! 大半の就活生はこの問いに対して、困り果てていることでしょう。実際に何人かの就活生に聞いたことがあるのですが、「挫折経験と言われても…。何も思いつかないですよ」と話してくれました。私自身も「挫折経験はありますか?」と問われたら答えられません。 そもそも「挫折」とはどういうことなのでしょうか。辞書には「仕事や計画などが、中途で失敗しだめになること。また、そのために意欲・気力をなくすこと」とあります。しかし私自身、計画がダメになるだけならいくらでも経験し、一時的に落胆することはあっても、意欲・気力までなくしたことはありません。 しかも、いろいろ課題はあるにせよ、これだけ裕福な平成の日本にいて、挫折経験を持っている学生は滅多にいないでしょう。かわいそうなのは、持ってもいない挫折経験を聞かれる就活生です。何も思いつかないものですから、むりやりにでも「挫折っぽい経験」をひねり出します。 「高校の時、バスケ部に所属していて、最後の大会で入賞できなかった」 「大学入試で失敗して、第一志望校に行けなかった」 「自分が立ち上げたサークル内で、メンバー同士の意見が合わず挫折を感じた」 就活生の答えから、彼らの苦心が見て取れるようです。しかし、これらの答えに対し、その場にいた多くの採用担当者がこのように言っていました。 「最近の学生は弱いね。こんなことくらいで挫折するんだ」 「入試の失敗で挫折されたら、仕事なんてできないよね」 社会人にだって挫折経験を話せる人は多くない 私は思わず「お前らがわざわざ聞いたからだろうが!」と怒鳴りそうになりました。これは明らかに設問を作った側が悪いのです。 相手は20歳そこそこの若者。それもこのご時世に四大まで行けるような家庭環境で育ってきている人ばかりです。経済的にも恵まれている環境の人が多いでしょう。彼らの中で「大人も納得するような挫折経験」をしている人は、ごく少数なのは目に見えています。 もっと言えば、設問を作った採用担当者自身も、挫折なんて経験していない人がほとんどです。実際、この時も私は「じゃあ、みなさんにはどんな挫折経験がありますか?」と聞いてみたのですが、彼らは「そう言われても…」と口ごもるだけでした。社会人も挫折経験なんて、そうそう持っていないのです。 自分達も経験していなくて、しかも相手が経験してないことを分かっているのにもかかわらず、答えにくい問いを投げかけるのは、あまりにも配慮が無さすぎます。その上、聞かれたから無理にでもひねり出した答えを鼻で笑うなど、言語道断です。「いや、これは圧迫面接だから」という、取ってつけた言い訳も不毛です。 就活生のみなさんは、挫折経験を聞かれたら「挫折というほどではありませんが、困ったことや大変だった経験談でもいいでしょうか?」と聞いてみてください。質問してきている採用担当者自身も挫折経験なんてないでしょうから、きっとOKしてくれます。 採用コンサルのマッチポンプ商法に乗るな! この質問は、大方どこぞの採用コンサルが教えているのでしょう。実際、私の会社にも「挫折経験を持っている人は、逆境に強い傾向にあります」と提案してきたコンサルがいました。 もちろん、彼らの意図は分かります。単なる「挫折経験」ではなく、「そこから立ち直ったストーリー」とか「だからこの会社で頑張りたいという決意」につなげる話をする学生を採れと言いたいのですよね。そして学生にも、そのような話をしろと、同じアドバイスをしているのでしょう。典型的なマッチポンプ商法です。 実際に華々しい復活エピソードを持っているかどうかは重要ではなく、そのくらい事前に作っておけというのでしょうが、私には意味があるように思えません。採用担当者のみなさん、就活生に尋ねることが思いつかないからといって、安易に挫折経験を聞くのをやめましょう。少なくとも、私はやめて困ったことはありませんよ。 あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー 【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。
いい加減、採用担当者は就活生に「挫折経験」を聞くのをやめませんか?
「就活生に挫折経験を聞くのは、もうヤメにしませんか?」――以前、採用担当者の勉強会に参加した時、たまりかねた私が思わず言ってしまった言葉です。場が一瞬凍りついたのは言うまでもありません。しかし、どうしても見過ごせませんでした。
この時、話題に上がっていたのは、学生が話す挫折経験についてです。面接やエントリーシートで「挫折経験を教えてください」という問いが使われていることがあります。しかし、この問いはあまりにも答えにくい悪質なものです。(河合浩司)
答えたのに「こんなことくらいで挫折」とは何だ!
大半の就活生はこの問いに対して、困り果てていることでしょう。実際に何人かの就活生に聞いたことがあるのですが、「挫折経験と言われても…。何も思いつかないですよ」と話してくれました。私自身も「挫折経験はありますか?」と問われたら答えられません。
そもそも「挫折」とはどういうことなのでしょうか。辞書には「仕事や計画などが、中途で失敗しだめになること。また、そのために意欲・気力をなくすこと」とあります。しかし私自身、計画がダメになるだけならいくらでも経験し、一時的に落胆することはあっても、意欲・気力までなくしたことはありません。
しかも、いろいろ課題はあるにせよ、これだけ裕福な平成の日本にいて、挫折経験を持っている学生は滅多にいないでしょう。かわいそうなのは、持ってもいない挫折経験を聞かれる就活生です。何も思いつかないものですから、むりやりにでも「挫折っぽい経験」をひねり出します。
就活生の答えから、彼らの苦心が見て取れるようです。しかし、これらの答えに対し、その場にいた多くの採用担当者がこのように言っていました。
社会人にだって挫折経験を話せる人は多くない
私は思わず「お前らがわざわざ聞いたからだろうが!」と怒鳴りそうになりました。これは明らかに設問を作った側が悪いのです。
相手は20歳そこそこの若者。それもこのご時世に四大まで行けるような家庭環境で育ってきている人ばかりです。経済的にも恵まれている環境の人が多いでしょう。彼らの中で「大人も納得するような挫折経験」をしている人は、ごく少数なのは目に見えています。
もっと言えば、設問を作った採用担当者自身も、挫折なんて経験していない人がほとんどです。実際、この時も私は「じゃあ、みなさんにはどんな挫折経験がありますか?」と聞いてみたのですが、彼らは「そう言われても…」と口ごもるだけでした。社会人も挫折経験なんて、そうそう持っていないのです。
自分達も経験していなくて、しかも相手が経験してないことを分かっているのにもかかわらず、答えにくい問いを投げかけるのは、あまりにも配慮が無さすぎます。その上、聞かれたから無理にでもひねり出した答えを鼻で笑うなど、言語道断です。「いや、これは圧迫面接だから」という、取ってつけた言い訳も不毛です。
就活生のみなさんは、挫折経験を聞かれたら「挫折というほどではありませんが、困ったことや大変だった経験談でもいいでしょうか?」と聞いてみてください。質問してきている採用担当者自身も挫折経験なんてないでしょうから、きっとOKしてくれます。
採用コンサルのマッチポンプ商法に乗るな!
この質問は、大方どこぞの採用コンサルが教えているのでしょう。実際、私の会社にも「挫折経験を持っている人は、逆境に強い傾向にあります」と提案してきたコンサルがいました。
もちろん、彼らの意図は分かります。単なる「挫折経験」ではなく、「そこから立ち直ったストーリー」とか「だからこの会社で頑張りたいという決意」につなげる話をする学生を採れと言いたいのですよね。そして学生にも、そのような話をしろと、同じアドバイスをしているのでしょう。典型的なマッチポンプ商法です。
実際に華々しい復活エピソードを持っているかどうかは重要ではなく、そのくらい事前に作っておけというのでしょうが、私には意味があるように思えません。採用担当者のみなさん、就活生に尋ねることが思いつかないからといって、安易に挫折経験を聞くのをやめましょう。少なくとも、私はやめて困ったことはありませんよ。
あわせてよみたい:採用担当者が斬る「シューカツの迷信」バックナンバー
【プロフィール】河合 浩司(かわい・こうじ)
上場企業のメーカーで人事課長を務める、採用業務15年超のベテラン。学生たちの不安を煽って金を儲ける最近の就活ビジネスを批判し、ペンネームでのツイッター(@k_kouzi7)やウェブコラムを通じて「自然体の就活」を回復するよう呼びかけている。