• 釣り具店チェーン バス釣りバブル後の市場縮小にピリオドは打てるか

     今年もそろそろ秋本番を迎える。スポーツはもちろん、アウトドアレジャーを楽しむなら、気温や気候も穏やかで絶好の季節だ。そして、数あるアウトドアレジャー中で、最も歴史が古くポピュラーなのが「釣り」だろう。

     「釣り」は、季節、年齢を問わず、一人でもグループでも楽しめる。ビギナーでも大きな魚が釣れることもあり、場所も海、川、湖と幅広い。釣り方もバラエティに富んで奥が深く、釣った魚を食べる楽しみもある。

     費用の面でも、道具に凝らなければ旅行や他のアウトドアレジャーより費用は安く済み、近場でも短時間でも楽しめる。「安・近・短」な手軽なレジャーといえる釣りは、激しい運動もなく、ケガの心配もあまりない。

     こう聞くと、その手軽さから「釣りは今後、人口の高齢化とともに大きく成長するレジャー」と思われるかもしれない。しかし、現実は、まったく逆だ。

     社会経済生産性本部の「レジャー白書」によると、2010年の釣りの参加人口は940万人。ここ最近で人気の本格的な登山の1070万人よりもさらに少ない。

     登山は、数年前から中高年の登山ブームが到来し、2009年には参加人口が前年の590万人の2倍以上の1230万人に急増。また、登山よりも軽い山歩きのハイキング、野外散歩などの参加人口は同じ年、一気に1220万人も増えた。

     しかし、中高年の釣りブームは来ていない。1998年に記録した2020万人をピークに、参加人口は1000万人の大台を割り込み、半分以下になってしまった。

     また、1998年は、「バスフィッシング」だけに偏ったブームだった。当時、木村拓哉さんなどの有名芸能人が趣味でブラックバス釣りをする様子がメディアで盛んに取り上げられた。

     その姿を見て、「イケてる」と思った若者を中心にブラックバス釣りが流行ったが、数年であきられた。これは「キムタクバス釣りバブル」とも呼べるブームだった。

     釣具メーカーも釣具店もそのバブルの恩恵に浴した。釣具店チェーンは九州や北海道など地域ブロック規模に成長。一部は全国規模に拡大した。日本釣用品工業会の「釣用品の国内需要動向調査報告書」によると、釣用品の小売市場は1997年、3431億円にも膨らんだ。


     しかし、「キムタクバス釣りバブル」が崩壊した後の「失われた10年」の間に市場はピークの47.2%、1620億円もの需要が消失した。2010年の市場規模は1811億円まで縮小。日本の釣り人口も釣具店の市場規模も10年余りでほぼ半減してしまったのだ。

     バブルと、その後の低迷に苦しむ釣具業界。今回は、その中で釣り具店チェーンに注目し、キャリコネに寄せられたの口コミなどを基に、その動向について、分析していこう。


    大規模な経営統合が起きる一方、成長したベンチャーも

     まず、釣り具店チェーンには、どんな会社があるのか、売上高ランキングを見てみよう。


     縮小する市場で起きることといえばリストラや倒産や撤退だ。200店舗以上の上州屋、60店舗以上のポイントのような大手釣具店チェーンは店舗の統廃合を行い、余剰人員を整理した。

     一方、いくつかの中小チェーンは経営破綻や撤退で消えていった。同時に、バス釣りバブルの頃に参入した米国かぶれの気取ったショップ、市街地や漁港で昔から釣り人に愛された釣具店も姿を消した。

     また、こうした市場環境では生き残りをかけた大型合併や大規模な経営統合も起きる。

     3位のワールドスポーツはシマノと並ぶ釣具メーカー最大手のグローブライド(旧ダイワ精工)の関連会社だ。

     今年、関東の「キャスティング」、関東・東北の「フィッシャーマン」、九州の「フィッシングワールド」の3つのチェーンの経営母体を統合。業界3位に浮上した。

     5位のタックルベリーは、やや異色な釣具店チェーンだ。新品も売るが、「中古釣具の買取・販売」のリサイクル業態が基本。フランチャイズシステムで出店している。

     同社は2000年設立のベンチャー企業。中古釣具を掘り出して流通に乗せるというビジネスモデルが当たり、創業12年にもかかわらず、全国で約140店舗を展開するまでに成長した。

     縮小市場では、事業の多角化で生き残りを図るケースもよく見られる。北海道の釣具店チェーン「フィッシュランド」は宝石・貴金属の販売、メガネの販売に進出し成功。現在では95億円の売上高のうち釣具の小売以外の事業が大部分を占めている。


    「ブラック店長が多い」という上州屋、「趣味が仕事の喜び」のタカミヤ

     日本最大の釣具店チェーン、上州屋については「上州屋クレーム情報局」というブログが存在し、多くの社員、元社員がその内情を赤裸々に語っている。

     それによると、バス釣りバブルの頃に大量出店したために、一時は「誰でも店長になれる」ような状況になった。

     すると、店長のスキルにバラつきが出た。さらに、異動が何年もないために「お山の大将」のような独裁的な店長が生まれやすい土壌になったという。

     実際、自分の提案がことごとく却下され、店長の好き嫌いで最低の評価をつけられた店員がストレスで体調を崩してやめたり、パワハラが暴力沙汰に発展し本部に知られて店長がやめさせられた例がブログでは報告されている。

     こうして見ると、上州屋はブラック企業と言うより、「ブラック店長が多い会社」といった方が正確なのかもしれない。

     一方、「ポイント」や「ポイント&ペグ」を出店するタカミヤの口コミを見ると様子は違ってくる。

     そこからは「釣りが好きだから多少の安月給や辛い出来事は我慢できる」というニュアンスが伝わってくる。

     「平社員の給料は結構安い。しかしながら釣りが好きだったりアウトドアに興味がある人であればやり甲斐を見つけられる会社。一般的な同世代のサラリーマンより給料は低い。給料よりもやり甲斐のある仕事に就きたい方は向いていると思う」(タカミヤ、20代前半の男性社員)

     「サービス業という職種柄、なかなかまとまった休暇等は取りづらい。特に役職が上がるにつれて、連休は少なくなる傾向かと思います。小型店舗の場合、一人あたりの仕事量がかなり増えてくる。まぁ逆に多くの仕事を覚えるチャンスとも言えますが」(タカミヤ、20代後半の男性正社員)

     口コミでは「釣れたよ。ありがとう」と店までわざわざやって来て釣れた魚を見せてくれた時、大きなやりがいを感じたという声あった。趣味を仕事にできる喜びとは、こういうことなのだろう。


    どうすれば団塊の世代が釣りをする気になるのか?

     2011年3月に起きた東日本大震災では、漁港の釣具店が被災したり、釣船が津波で壊されたり、原発事故や災害復旧工事で海岸が立入禁止になり、特に海釣りは大打撃を食らった。

     西日本の人も、津波が海岸を襲う映像を繰り返し見せられると海釣りに行く気がそがれたことだろう。

     日本釣用品工業会の「釣用品の国内需要動向調査報告書」では、震災の影響で2011年の釣用品の小売市場は前年の8.3%減の1660億円と見込んでいる。

     2012年は、その反動もあって前年比6.1%増の1762億円に回復すると予測。それでも震災前の水準には戻らず、長期低落傾向は続くとみている。

     今後、釣り人口や売り上げの回復は、ありうるのだろうか?

     まず、言えるのは「AKB48に湘南海岸でキスの投げ釣りをさせて新ユニット『投げキッス』結成」といった、バス釣りブームのようなバブルなことを期待してはいけないということだ。

     一方で、業界では登山で「山ガール」が話題になったのを横目に、「釣りガール」が増えていると熱心に喧伝している。しかし、その内容は「釣りガールたちは楽しく釣りをして、魚をおいしく食べます」と、目的の半分はグルメのような的外れなアピールでしかない。

     仮に、そうした狙いであれば、年齢を重ねて食の嗜好が変化し、肉よりも魚のほうが好きになった人が多い「団塊の世代」をターゲットにした方が有望なのではないだろうか。

     団塊の世代は人口のボリュームが大きい。リタイアしたら趣味にかけるおカネも持っている。しかし、現状では登山や山歩きや旅行のほうに目が向きがちだ。だからこそ、彼らが、「自分も釣りをやってみよう」という気にさせるかがカギになる。

     そのためには、釣りが持つ「安・近・短」の手軽さ、この先も長く楽しめる身体への負担の軽さ、安全性、釣魚グルメなどをアピールすることが大切だ。釣具市場再浮上のポイントは、ここにある。

     一方で、釣りに少しは興味を持って釣具店までやって来た団塊の世代の人に、店頭で通ぶる常連客やマニアの客と、店員とのマニアックな会話をモロに聞かせたらアウトだ。釣りが三度のメシより好きで商品知識や、釣り方のアドバイスは合格点が高い店員ほど、こうしたことは、なかなかできない。

     この世代はプライドが高く、専門用語がわからないなど少しでも劣等感を持ったら二度と店にやってこない。そのあたりについては、接客というよりは客のあしらい方を上手に行う必要がある。

     それをカバーするために、店に「ナビゲーター」や「コンシェルジュ」的な女性店員を配置して案内させるのも一つの手だろう。その程度の経営努力は、家電量販店など、他の小売業ではとっくにやっている。

     生活必需品と違い、趣味の店は、その趣味を嗜む人を増やす努力をしなければ、売り上げは伸びない。

     そんな当たり前のことを改めて認識し、人材の育て方や使い方で他業界の良いところは進んで取り入れるなど、打つべき手を打っているかが重要になる。釣具店チェーンは、どん底の今こそ、その点を再点検すべきなのだ。

     

    *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年9月末現在、45万社、20万件の口コミが登録されています。

     

     

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