「スキルアップ」も「安定」もない IT下請け・孫請け企業の悲哀 2013年2月1日 企業徹底研究 ツイート 就活解禁を受けて、最近は「ブラック企業」があらためて注目を集めているが、その割合が特に高いのがIT業界だ。官公庁からの発注を寡占する大手SIer(システムインテグレーター)の「ITゼネコン」はまだいいが、そこから仕事を発注される下請けや孫請け会社の労働環境は、相当劣悪だ。 「ブラック企業」問題は、ピンハネ問題でもあり、末端の中小零細企業の経営者だけのせいだけにしていては、根本的な解決にはならない。逆に言うと「ホワイト企業」は、取引先の会社や社員、エンドユーザーや国民の税金から、カネを搾取することで維持している側面もある。 多重請負の具体例として、オウム真理教の関連会社が警視庁のシステム開発を200万円で請け負っていた問題で、二次下請けが359万円、一時下請けが700万円、元請けの日本IBMは1100万円以上で受注していたことがわかっている。 仮に下流の会社が仕事を首尾よく済ませたとしても、クライアントから評価を受けるのはITゼネコンであり、下請け以下の会社が大きな貢献をしても、元請けに食い込むことはできない。これは発注側の官公庁の問題もあるだろう。 あるIT企業で働く社員は、このような構造の中で働く悩みをこう嘆いている。 「孫請け以下のIT系請負会社なので、いい仕事をしても客先などから評価されるのはより上の請負会社となる。その(上の)会社がわざわざ一番下の請負会社に報告してくれるはずもないので、現場での仕事は一切評価にはつながらない」(トライアンフコーポレーション、20代後半の男性社員) 万年プログラマーに甘んじるしかない 孫請け会社は末端の作業レベルの仕事にしか携われないこともあり、働く人たちのスキルアップにつながりにくい場合もある。 資本関係はないのに、なぜか富士通の孫請けの仕事をすることになった会社のプログラマーは、上位工程に関わることができないので「万年プログラマーもしくは下流SE(システム・エンジニア)に甘んじるしかない」と自嘲とも思える声を寄せている。 「社員教育も、ほぼゼロと思って差し支えないです。社員のキャリアパスも全く考えてないと思われます」(穴吹カレッジサービス、30代後半の契約社員) 下流工程ならではの問題もある。クライアントからの注文が伝言ゲームで届き、行き違いが生じた時は、しわ寄せの犠牲となりやすい。 「発注元によっては、最初に聞いていた話と全く状況が異なってくる場合もある。仕様を確定するときには何も言っていなかったのに、実際に出来上がってきたタイミングで、ここはこうなるはずではなかったと文句を言われることがある」(富士ソフト、30代前半の男性) IT業界では官庁から元請けがもらった仕事を、下請け、孫請けが取り合うため、価格競争になる。厳しいコスト削減は当たり前で、構造的にサービス残業も起こりやすい。 元請けの依存のままでは先行きが厳しい ある会社のプログラマーは、稼働した分の残業代がきちんと支払われていないと訴えている。発注元に作業を依頼して行っているのに、上司から「その残業は自分のミスによる後戻り作業ではないのか?」と疑われるというのだ。 会社によっては、元請け会社との関係がよく、仕事を安定的に供給してもらえたので、あまり苦労せずに済んだというところもあるだろう。ただし、「親亀がこけたら…」の例えのように、元請けがリストラをすれば、下請けや孫請けも大きな影響を受けることになる。 「NEC関連の会社に依存する傾向がかなりあるため、業績もかなり依存してしまう」(東京システムエージェンシー、20代後半の男性社員) 大手電機メーカー系元請けの経営を危惧する声もある。下請けや孫請けのIT企業は、新たな顧客の開拓や自力での案件獲得を強いられる状況が、これからかなり増えるだろう。
「スキルアップ」も「安定」もない IT下請け・孫請け企業の悲哀
就活解禁を受けて、最近は「ブラック企業」があらためて注目を集めているが、その割合が特に高いのがIT業界だ。官公庁からの発注を寡占する大手SIer(システムインテグレーター)の「ITゼネコン」はまだいいが、そこから仕事を発注される下請けや孫請け会社の労働環境は、相当劣悪だ。
「ブラック企業」問題は、ピンハネ問題でもあり、末端の中小零細企業の経営者だけのせいだけにしていては、根本的な解決にはならない。逆に言うと「ホワイト企業」は、取引先の会社や社員、エンドユーザーや国民の税金から、カネを搾取することで維持している側面もある。
多重請負の具体例として、オウム真理教の関連会社が警視庁のシステム開発を200万円で請け負っていた問題で、二次下請けが359万円、一時下請けが700万円、元請けの日本IBMは1100万円以上で受注していたことがわかっている。
仮に下流の会社が仕事を首尾よく済ませたとしても、クライアントから評価を受けるのはITゼネコンであり、下請け以下の会社が大きな貢献をしても、元請けに食い込むことはできない。これは発注側の官公庁の問題もあるだろう。
あるIT企業で働く社員は、このような構造の中で働く悩みをこう嘆いている。
万年プログラマーに甘んじるしかない
孫請け会社は末端の作業レベルの仕事にしか携われないこともあり、働く人たちのスキルアップにつながりにくい場合もある。
資本関係はないのに、なぜか富士通の孫請けの仕事をすることになった会社のプログラマーは、上位工程に関わることができないので「万年プログラマーもしくは下流SE(システム・エンジニア)に甘んじるしかない」と自嘲とも思える声を寄せている。
下流工程ならではの問題もある。クライアントからの注文が伝言ゲームで届き、行き違いが生じた時は、しわ寄せの犠牲となりやすい。
IT業界では官庁から元請けがもらった仕事を、下請け、孫請けが取り合うため、価格競争になる。厳しいコスト削減は当たり前で、構造的にサービス残業も起こりやすい。
元請けの依存のままでは先行きが厳しい
ある会社のプログラマーは、稼働した分の残業代がきちんと支払われていないと訴えている。発注元に作業を依頼して行っているのに、上司から「その残業は自分のミスによる後戻り作業ではないのか?」と疑われるというのだ。
会社によっては、元請け会社との関係がよく、仕事を安定的に供給してもらえたので、あまり苦労せずに済んだというところもあるだろう。ただし、「親亀がこけたら…」の例えのように、元請けがリストラをすれば、下請けや孫請けも大きな影響を受けることになる。
大手電機メーカー系元請けの経営を危惧する声もある。下請けや孫請けのIT企業は、新たな顧客の開拓や自力での案件獲得を強いられる状況が、これからかなり増えるだろう。