紳士服チェーン業界 売っているのは紳士服でも、職場環境は「非紳士的」 2013年3月25日 企業徹底研究 ツイート 4月1日は多くの企業で入社式が行われる。夢や希望に胸をふくらませる新入社員も多いことだろう。 新入社員の真新しいスーツは、昔はデパートであつらえることが多かったが、今では、AOKIやコナカ、洋服の青山といった紳士服チェーンの既製服で済ませることがほとんどだろう。会社の先輩達も大抵そんな店で買っており、デパートで買うなんてもはや贅沢。 ファッション評論家は「日本のサラリーマンのファッションは没個性だ」などとボヤくが、その方がサイフにはやさしい。 矢野経済研究所の「国内アパレル市場に関する調査結果2011」によると、「メンズスーツ」の売上規模は2007年の3099億円をピークに年々低下し、2011年は2100億円まで落ち込んだ。4年で約1000億円も縮小し、市場規模は約3分の2になった。 市場規模が4年で3分の2に減っても しっかり利益は出している 総務省統計局の家計調査によると、1世帯当たりの「スーツ」に対する年間支出額は、バブルピーク時の1991年には2万円を超えていたが、2011年には3分の1の約7000円にまで低下している。 原因については、「団塊の世代の大量リタイア」や「少子化」によるホワイトカラーの減少、職場におけるカジュアル化やリーマンショック不況後のスーツに対する予算の低下など、いろいろあるだろう。 だが、紳士服チェーンが、「売れ残り」や「ワケアリ品」の特売だけでなく、いつ来ても品質の良いものが安く買える「エブリデイ・ロープライス(EDLP)」などに注力し、商品全体のコストパフォーマンスの向上に努力してきたこともにも留意すべきだ。 逆に言えば、これまでの価格が高すぎたのだ。 その証拠に、紳士服チェーン業界の大手各社は、市場が縮小してもしっかり利益を上げている。売上高のランキングは、現在以下の通りだ。 1~4位は通称「紳士服4強」と呼ばれ、それぞれ全国各地の中小チェーンを傘下におさめながら業績を拡大してきた。 上場企業らしからぬ報酬 でも我慢するしかない? 「4強」が大きく伸びたのは平成バブルが崩壊した後だ。青山などは「1着2500円」の特売でサプライズ好きのメディアを上手く宣伝に利用したが、戦略の中核は、デパート製品にも見劣りしないEDLPで、品揃えが悪く色や柄やスタイルが偏り、すぐ型崩れするような製品を売るチェーンは淘汰されていった。 4強は、海外生産にも積極的で、「ユニクロ型」のSPA(製造小売)企業のはしりのような形で業界を変革したとも言える。 その意味で、4強とオンリーを支える社員の質は決して悪くないはずだ。 しかし、口コミを見ると、その報酬のほうは、淘汰されていった「安かろう」「悪かろう」チェーンの「安かろう」に近い。 「報酬額は残業代も付いていたが、日の売上が悪いと自腹で自社商品を購入して、売上に乗せていた。これが毎日、毎月続くと結局、残業代はもとより月々の給料からも切り崩していた」(青山商事、20代前半の男性社員、年収401万円) 「店長になれば満足な額をもらえるが、縦社会なため実力があるにも関わらず10年程待たされることがある。賞与は店舗の計画に関係してくるのでスタッフしだいでは良い。しかし、計画達成しないときは社員が自腹を切って商品を購入しなくてはならないことがある」(AOKI、20代前半の男性社員、年収300万円) 「まずボーナスはないといってもいい。しかも査定の仕方が無茶苦茶すぎる」(コナカ、20代前半の男性社員、年収260万円) 「基本的にボーナスに関しては1か月分の給料にも満たないと考えて問題ない。給料の額もお世辞にも高いとは言えない。というか明らかに低い方だろう。全体的に、一部上場企業とは思えない」(はるやま商事、30代前半の男性社員、年収400万円) 「4年間社員で勤め交通費等も含め280万程度。賞与は一応出るが0.5ヵ月分を二回。インセンティブ・残業代はほぼなし。社割なし」(オンリー、20代後半の男性社員、年収290万円) ◇ 売れて忙しいのも地獄 売れないのもまた地獄 小売業でも外食業でも、店舗のある業種には勤務時間の悩みは宿命的につきまとう。紳士服チェーンも例外ではない。有給休暇が取れない、それで人がやめると人手が足りなくなってさらに勤務シフトがきつくなるといった悪循環だ。 「明らかに人員が不足している店舗もありますが、目が行き届かないようで」(コナカ、20代後半男性社員) 「中堅社員の離職者が多く、人が足りないので役職が上にいく程休みが消化しにくい環境。どんな仕事でも同じ部分はあると思うが、スタッフ(特に店長)に恵まれないと仕事がしにくい」(はるやま商事の20代後半の女性社員) だが、反対に集客が厳しい日は、それはそれで地獄だ。 「開店しても1~2時間は客が来ない平日や、週末でも集客が伸び悩むと、現場の雰囲気も悪くなり、店長の八つ当たりが始まる。社員はせいぜい、店舗に店長と社員が一人。相談しようにも誰にも相談できなかった。」(青山商事、20代前半男性社員) そんな境遇に耐えている社員たちが経営陣を見る目はシビアだ。 「優秀な人材を失い過ぎ。乗ってる企業との差はココでしょう。パワハラ体質が昔からあり、数字を出さない人間は脅迫まがいなことを受ける。そして消えてゆく。この歴史が繰り返されている。民間企業であるから仕方ないとは思うが、それであるならばはっきりと戦力外通告を出してくれた方がよほどの親切ではと思う」(AOKI、30代前半の男性社員) 「ワンマン社長のオペレーションはお世辞にも良いとは言い難く、社員一人一人が目標達成のためにモチベーションを上げられない、一丸となれないマネジメントには辟易させられる。これでは社内で人は育たない。ハッキリ言って、あまり将来性は感じられない」(はるやま商事、30代前半男性社員) どうやら、組織マネジメントとスタッフ評価の双方にかなり問題がありそうだ。 ◇ 「商売人の青山」対「組織のAOKI」 この業界で何かにつけてライバル関係が取り沙汰される青山商事とAOKIは、社内の雰囲気がかなり違っているようだ。青山商事はとにかく数字、数字と口にする商売人の会社。 「個人売上に非常にうるさいため、店舗の雰囲気が悪い店は『私が、私が』という意識が強くギスギスしています。一店舗が少数体制のため、店舗の中で仲が悪い店は非常に居心地が悪いと思います」(青山商事、20代後半男性社員) 「販売がメインなので、周りの評価など気にせず売って売って売りまくる人間が上にあがれる。仲間とうまくやっていきたいならほぼ出世は見込めない」(青山商事、20代後半男性社員) 一方、AOKIは個人プレーよりも組織重視の社風のようだ。 「とてもマニュアル重視です。マニュアル通りに動くので、機転が利かないというイメージがあります。とにかく、入社するとマニュアル、マニュアルとうるさく言われます」(AOKI、20代前半女性契約社員) 「2年で努力せず店長になれました。昇進はライセンス制度ですが、ライセンス試験はいつも口実を作り受けた事がありません。なのに店長になれました。適度にさぼるほうがかえって出世します」(AOKIHDの30代前半の男性正社員) 青山、AOKI以外の企業はどうだろう。 「ずばり、力のある上司と親しくなるのが一番の出世の近道です。サッカー・野球など、スポーツの社外活動もあるので、運動部に在籍していた方は参加して顔見知りになるといいです。ほとんどの方は活動にいらっしゃいます。親しくなると、人事異動の際に年間予算の大きい店舗に配属していただくことができ、年間の個人の成績も大幅にアップします」(コナカ、20代後半男性社員) 「上司に気に入られた人が出世しやすい。基本的にはマネージャーに気に入られて、転勤で出世コースに乗っていくパターンが多い。その場合、転勤する店はいい成績の出やすい店に意識的に配属される。出世する人間は、平社員・主任時代に営業成績を上げてなおかつ上司に気に入られるパターンが多い」(はるやま商事、30代前半男性社員) ちなみに、京都が本社のオンリーでは、独特の要素が出世を左右する。 「関西人、特に京都人。もちろん営業成績がいい人は言うまでもありませんが、京都人は最速です。ちなみに関東人は出世は諦めてください」(オンリー、30代前半男性社員) ◇ 「サラリーマンに背広を売る」部分はどんどん縮小していく方向 各社の今後の事業戦略の方向性は、M&Aによる買収や系列化を別にすれば、「女性市場への注力」や「第二、第三ブランドショップの展開」、「カジュアル進出」や「異業種への進出」あたりになる。 どのショップでも、昨年あたりから女性用スーツの取り扱いが目立ってきた。「働く女性の戦闘服」という位置づけで、剛力彩芽、武井咲、佐々木希などの女性タレントをイメージキャラクターに起用し、女性誌ともコラボして売場を拡大。男性仕様の丈夫な仕立てや洗いやすさといった機能性とコストパフォーマンスを武器に、デパートや婦人服専門店などからシェアを奪うつもりだ。 「第二、第三のブランド」について言えば、青山商事は「ザ・スーツカンパニー」「ユニバーサルランゲージ」、コナカは「スーツセレクト21」「OSV」、はるやま商事は「PSFA」「ゴールドビズ」といった第二、第三ブランドショップを、大都市圏を中心に展開している。共通しているのは徹底的に「社名隠し」をやっていること。それだけ「青山」「コナカ」といった社名からくるイメージを払拭したいのだろうか。 「カジュアル」に関しては、青山商事などが20年以上も前から「次はこれだ」と言ってきた分野。同社が「キャラジャ」、AOKIが「M/X」、はるやま商事が「モリワンワールド」を展開しているが、この分野は「ユニクロ」のようなモンスターと、「GAP」も「しまむら」といった大規模人気カジュアルが堅調で、見込みは厳しそうだ。 ところが、あまり知られてないが「異業種進出」については、各社の業績にしっかり貢献している。同じ広島が本社ということで手を結んだ100円ショップ「ダイソー&アオヤマ」(青山商事)、ブライダル業界4位の「アニヴェルセル」やカラオケボックスの「ヴァリック」(ともにAOKI)、レディースのシューズやバッグを揃える「フィットハウス」(コナカ)などがある。コナカは、レストランチェーン「サンマルクカフェ」のFCにも加盟、はるやま商事も、100円ショップ「セリア」のFCに加盟している。高級有料老人ホームの運営まで手がけるAOKIは、今や非ファッション部門の売上が全体の3分の1を超えている。 こうして見てくると、アベノミクスで景気が改善しても、紳士服チェーンの「サラリーマンに背広を売る」という部分はどんどん縮小していく方向だとわかる。 これによって、業界各社の過酷な職場が減り、待遇も大幅に改善するかどうかは、今後の事業の多角化の成否を見守るしかなさそうだ。
紳士服チェーン業界 売っているのは紳士服でも、職場環境は「非紳士的」
4月1日は多くの企業で入社式が行われる。夢や希望に胸をふくらませる新入社員も多いことだろう。
新入社員の真新しいスーツは、昔はデパートであつらえることが多かったが、今では、AOKIやコナカ、洋服の青山といった紳士服チェーンの既製服で済ませることがほとんどだろう。会社の先輩達も大抵そんな店で買っており、デパートで買うなんてもはや贅沢。
ファッション評論家は「日本のサラリーマンのファッションは没個性だ」などとボヤくが、その方がサイフにはやさしい。
矢野経済研究所の「国内アパレル市場に関する調査結果2011」によると、「メンズスーツ」の売上規模は2007年の3099億円をピークに年々低下し、2011年は2100億円まで落ち込んだ。4年で約1000億円も縮小し、市場規模は約3分の2になった。
市場規模が4年で3分の2に減っても しっかり利益は出している
総務省統計局の家計調査によると、1世帯当たりの「スーツ」に対する年間支出額は、バブルピーク時の1991年には2万円を超えていたが、2011年には3分の1の約7000円にまで低下している。
原因については、「団塊の世代の大量リタイア」や「少子化」によるホワイトカラーの減少、職場におけるカジュアル化やリーマンショック不況後のスーツに対する予算の低下など、いろいろあるだろう。
だが、紳士服チェーンが、「売れ残り」や「ワケアリ品」の特売だけでなく、いつ来ても品質の良いものが安く買える「エブリデイ・ロープライス(EDLP)」などに注力し、商品全体のコストパフォーマンスの向上に努力してきたこともにも留意すべきだ。
逆に言えば、これまでの価格が高すぎたのだ。
その証拠に、紳士服チェーン業界の大手各社は、市場が縮小してもしっかり利益を上げている。売上高のランキングは、現在以下の通りだ。
1~4位は通称「紳士服4強」と呼ばれ、それぞれ全国各地の中小チェーンを傘下におさめながら業績を拡大してきた。
上場企業らしからぬ報酬 でも我慢するしかない?
「4強」が大きく伸びたのは平成バブルが崩壊した後だ。青山などは「1着2500円」の特売でサプライズ好きのメディアを上手く宣伝に利用したが、戦略の中核は、デパート製品にも見劣りしないEDLPで、品揃えが悪く色や柄やスタイルが偏り、すぐ型崩れするような製品を売るチェーンは淘汰されていった。
4強は、海外生産にも積極的で、「ユニクロ型」のSPA(製造小売)企業のはしりのような形で業界を変革したとも言える。
その意味で、4強とオンリーを支える社員の質は決して悪くないはずだ。
しかし、口コミを見ると、その報酬のほうは、淘汰されていった「安かろう」「悪かろう」チェーンの「安かろう」に近い。
「報酬額は残業代も付いていたが、日の売上が悪いと自腹で自社商品を購入して、売上に乗せていた。これが毎日、毎月続くと結局、残業代はもとより月々の給料からも切り崩していた」(青山商事、20代前半の男性社員、年収401万円)
「店長になれば満足な額をもらえるが、縦社会なため実力があるにも関わらず10年程待たされることがある。賞与は店舗の計画に関係してくるのでスタッフしだいでは良い。しかし、計画達成しないときは社員が自腹を切って商品を購入しなくてはならないことがある」(AOKI、20代前半の男性社員、年収300万円)
「まずボーナスはないといってもいい。しかも査定の仕方が無茶苦茶すぎる」(コナカ、20代前半の男性社員、年収260万円)
「基本的にボーナスに関しては1か月分の給料にも満たないと考えて問題ない。給料の額もお世辞にも高いとは言えない。というか明らかに低い方だろう。全体的に、一部上場企業とは思えない」(はるやま商事、30代前半の男性社員、年収400万円)
「4年間社員で勤め交通費等も含め280万程度。賞与は一応出るが0.5ヵ月分を二回。インセンティブ・残業代はほぼなし。社割なし」(オンリー、20代後半の男性社員、年収290万円)
◇
売れて忙しいのも地獄 売れないのもまた地獄
小売業でも外食業でも、店舗のある業種には勤務時間の悩みは宿命的につきまとう。紳士服チェーンも例外ではない。有給休暇が取れない、それで人がやめると人手が足りなくなってさらに勤務シフトがきつくなるといった悪循環だ。
「明らかに人員が不足している店舗もありますが、目が行き届かないようで」(コナカ、20代後半男性社員)
「中堅社員の離職者が多く、人が足りないので役職が上にいく程休みが消化しにくい環境。どんな仕事でも同じ部分はあると思うが、スタッフ(特に店長)に恵まれないと仕事がしにくい」(はるやま商事の20代後半の女性社員)
だが、反対に集客が厳しい日は、それはそれで地獄だ。
「開店しても1~2時間は客が来ない平日や、週末でも集客が伸び悩むと、現場の雰囲気も悪くなり、店長の八つ当たりが始まる。社員はせいぜい、店舗に店長と社員が一人。相談しようにも誰にも相談できなかった。」(青山商事、20代前半男性社員)
そんな境遇に耐えている社員たちが経営陣を見る目はシビアだ。
「優秀な人材を失い過ぎ。乗ってる企業との差はココでしょう。パワハラ体質が昔からあり、数字を出さない人間は脅迫まがいなことを受ける。そして消えてゆく。この歴史が繰り返されている。民間企業であるから仕方ないとは思うが、それであるならばはっきりと戦力外通告を出してくれた方がよほどの親切ではと思う」(AOKI、30代前半の男性社員)
「ワンマン社長のオペレーションはお世辞にも良いとは言い難く、社員一人一人が目標達成のためにモチベーションを上げられない、一丸となれないマネジメントには辟易させられる。これでは社内で人は育たない。ハッキリ言って、あまり将来性は感じられない」(はるやま商事、30代前半男性社員)
どうやら、組織マネジメントとスタッフ評価の双方にかなり問題がありそうだ。
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「商売人の青山」対「組織のAOKI」
この業界で何かにつけてライバル関係が取り沙汰される青山商事とAOKIは、社内の雰囲気がかなり違っているようだ。青山商事はとにかく数字、数字と口にする商売人の会社。
「個人売上に非常にうるさいため、店舗の雰囲気が悪い店は『私が、私が』という意識が強くギスギスしています。一店舗が少数体制のため、店舗の中で仲が悪い店は非常に居心地が悪いと思います」(青山商事、20代後半男性社員)
「販売がメインなので、周りの評価など気にせず売って売って売りまくる人間が上にあがれる。仲間とうまくやっていきたいならほぼ出世は見込めない」(青山商事、20代後半男性社員)
一方、AOKIは個人プレーよりも組織重視の社風のようだ。
「とてもマニュアル重視です。マニュアル通りに動くので、機転が利かないというイメージがあります。とにかく、入社するとマニュアル、マニュアルとうるさく言われます」(AOKI、20代前半女性契約社員)
「2年で努力せず店長になれました。昇進はライセンス制度ですが、ライセンス試験はいつも口実を作り受けた事がありません。なのに店長になれました。適度にさぼるほうがかえって出世します」(AOKIHDの30代前半の男性正社員)
青山、AOKI以外の企業はどうだろう。
「ずばり、力のある上司と親しくなるのが一番の出世の近道です。サッカー・野球など、スポーツの社外活動もあるので、運動部に在籍していた方は参加して顔見知りになるといいです。ほとんどの方は活動にいらっしゃいます。親しくなると、人事異動の際に年間予算の大きい店舗に配属していただくことができ、年間の個人の成績も大幅にアップします」(コナカ、20代後半男性社員)
「上司に気に入られた人が出世しやすい。基本的にはマネージャーに気に入られて、転勤で出世コースに乗っていくパターンが多い。その場合、転勤する店はいい成績の出やすい店に意識的に配属される。出世する人間は、平社員・主任時代に営業成績を上げてなおかつ上司に気に入られるパターンが多い」(はるやま商事、30代前半男性社員)
ちなみに、京都が本社のオンリーでは、独特の要素が出世を左右する。
「関西人、特に京都人。もちろん営業成績がいい人は言うまでもありませんが、京都人は最速です。ちなみに関東人は出世は諦めてください」(オンリー、30代前半男性社員)
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「サラリーマンに背広を売る」部分はどんどん縮小していく方向
各社の今後の事業戦略の方向性は、M&Aによる買収や系列化を別にすれば、「女性市場への注力」や「第二、第三ブランドショップの展開」、「カジュアル進出」や「異業種への進出」あたりになる。
どのショップでも、昨年あたりから女性用スーツの取り扱いが目立ってきた。「働く女性の戦闘服」という位置づけで、剛力彩芽、武井咲、佐々木希などの女性タレントをイメージキャラクターに起用し、女性誌ともコラボして売場を拡大。男性仕様の丈夫な仕立てや洗いやすさといった機能性とコストパフォーマンスを武器に、デパートや婦人服専門店などからシェアを奪うつもりだ。
「第二、第三のブランド」について言えば、青山商事は「ザ・スーツカンパニー」「ユニバーサルランゲージ」、コナカは「スーツセレクト21」「OSV」、はるやま商事は「PSFA」「ゴールドビズ」といった第二、第三ブランドショップを、大都市圏を中心に展開している。共通しているのは徹底的に「社名隠し」をやっていること。それだけ「青山」「コナカ」といった社名からくるイメージを払拭したいのだろうか。
「カジュアル」に関しては、青山商事などが20年以上も前から「次はこれだ」と言ってきた分野。同社が「キャラジャ」、AOKIが「M/X」、はるやま商事が「モリワンワールド」を展開しているが、この分野は「ユニクロ」のようなモンスターと、「GAP」も「しまむら」といった大規模人気カジュアルが堅調で、見込みは厳しそうだ。
ところが、あまり知られてないが「異業種進出」については、各社の業績にしっかり貢献している。同じ広島が本社ということで手を結んだ100円ショップ「ダイソー&アオヤマ」(青山商事)、ブライダル業界4位の「アニヴェルセル」やカラオケボックスの「ヴァリック」(ともにAOKI)、レディースのシューズやバッグを揃える「フィットハウス」(コナカ)などがある。コナカは、レストランチェーン「サンマルクカフェ」のFCにも加盟、はるやま商事も、100円ショップ「セリア」のFCに加盟している。高級有料老人ホームの運営まで手がけるAOKIは、今や非ファッション部門の売上が全体の3分の1を超えている。
こうして見てくると、アベノミクスで景気が改善しても、紳士服チェーンの「サラリーマンに背広を売る」という部分はどんどん縮小していく方向だとわかる。
これによって、業界各社の過酷な職場が減り、待遇も大幅に改善するかどうかは、今後の事業の多角化の成否を見守るしかなさそうだ。