イオン ダイエー子会社化で6兆円グループへ 「スーパー1強」なるか 2013年4月9日 企業徹底研究 ツイート スーパー最大手のイオンは、大手商社の丸紅が保有するダイエー株約29%の8割強を買収、ダイエーを子会社化する。イオンはすでに保有しているダイエー株と合わせ、約44%を保有することになる。買収額は130億円前後とみられている。 スーパー業界1位と同4位の連結売上高合計は6兆円を超え、同2位のセブン&アイHDの約4兆8000億円を大きく引き離し、圧倒的業界トップになる。 多角化路線があだとなり経営不振に陥っていたダイエーは、2004年に産業再生機構の支援を受けて、丸紅がダイエー株の44.6%を取得。07年にはイオンがスポンサーに加わり、共にダイエーの経営再建をサポートしてきた。 しかし、丸紅主導の経営再建は遅々として進まず、イオン主導で進めることになった。イオンは01年に経営破綻したマイカルを子会社化し、短期間で経営再建した実績がある。 都内で記者発表したイオンの岡田元也社長は、「大株主が2社あり、誰が責任者なのかハッキリしなかった」と意思決定の曖昧さを指摘。丸紅の岡田大介常務執行役員も「リーダーシップがとれず、営業面の回復が遅れた」と、暗に丸紅主導の失敗を認めた。 イオンは今後、ダイエーの再建と合わせて規模のメリットを追求、「消費者主権の確立」(価格引き下げの意味:岡田社長)を急ぐ。店舗運営や仕入れの一本化を進めるほか、商品政策も見直し、PB(自主企画)商品はイオンの「トップバリュ」に一本化する方針だ。 赤字脱却へむけ、不採算店は閉鎖の方針。余剰人員は13年度以降、イオンの新店に出向させるなど、売上高販管費比率を下げる考えだ。 ◇ 成長力が低下した「都市部のセブン&アイ」に攻勢をかける 今回のダイエー子会社化について、証券アナリストは「“都市部のセブン&アイ、地方のイオン”という今までの勢力図が崩れ、イオンはダイエーを先兵にセブンの牙城まで攻めてくる。これで都市部の業界再編が加速する」と分析している。 イオンがダイエーを子会社化する目的は「スーパー業界のガリバーになること。岡田社長のこれまでの発言から、そのフシが感じられる」と、証券アナリストは推測している。ダイエーを傘下に収めた圧倒的な競争優位を跳躍台に、長年温めてきた野望の実現に向かうという訳だ。 ダイエーは09年2月期から5期連続で最終赤字を計上するなど「いまだ再建途上」(岡田社長)。デフレで価格競争が激化したほか、コンビニの成長、ドラッグストアの台頭など、今や「イオンの支えなくしては生き残り自体が危うい状態」(証券アナリスト)に追い込まれている。 一方、ライバルのセブンも主力のイトーヨーカ堂の成長力が低下している。「この時期に圧倒的なスケールメリットでセブンを叩けば『スーパー1強になれる』とは、岡田社長でなくても考える」(流通業界事情通)ところだ。 しかし、規模の拡大だけで業界のガリバーになれるほど、世の中は甘くない。イオンもダイエーも総合スーパーとして幅広く品揃えしているとは言え、カテゴリー別に見ると弱点が目につく。 例えば、食品は地域の優良食品スーパーと比べると品揃えが見劣りする上、生鮮三品の値段も決して安くはない。衣料品ではユニクロやしまむらなどに、紳士・婦人服では青山やAOKIに、家電は家電量販大手にといった具合に、それぞれのカテゴリーには太刀打ちできない。 事情通は「規模の拡大が今以上に進めば、早晩カテゴリーの弱点や社内問題が拡大路線の障害となってくるのは避けられない」と言う。 ◇ 「独身者は2万5千円で社宅に住める」嬉しさ 買収した側、された側。それぞれどんな職場なのか。キャリコネの口コミを見てみよう。ダイエーの店舗スタッフとして30代の男性契約社員は「人員不足」に嘆いている。不採算店は、買収によって撤退を余儀なくされるかもしれない。 「仕組みを変えればまだ少しは改善されるでしょうが、どこの売場もパート、アルバイトに残業してもらって終わらない分に関しては、社員がサービス残業をしてるところもあるようです。また、低賃金もあり、若い社員が退職する割合が多いように感じます」 20代の調理スタッフの契約社員も、同じような苦しい職場事情を訴える。 「労働組合の力が強く、労働環境改善についての取り組みや、サービス残業をつよく禁止しているにもかかわらず、実際はタイムカードだけ切って、サービス残業を行わなければならない事態が常態化している」 一方、イオン側はさすがに絶好調だけあって、社員の声はおおむね明るい。イオングループは2008年に純粋持株会社制に移行したため、全国のGMS(総合スーパー)はイオンリテールが引き継いでいる。 評判が高いのは福利厚生の充実度合い。20代の店舗スタッフの正社員は「社宅費が助かる」と喜んでいる。 「独身単身者は自己負担2万5千円で、社宅に住むことができる。既婚者は2DK以下の物件が3万2千円、既婚単身者は1万5千円で社宅に住むことができる。数件ある物件の中から選ぶことができ、品川区内の新築マンションに住むこともできた」 また、あるパートスタッフは女性が働きやすい環境と評価し、「産前産後休暇をしっかりとり育児休暇を経て、今現在育児勤務にて復帰しました」と報告している。 ただ、やはり吸収・合併を繰り返してきた会社なので、いびつさは残っているようだ。30代男性の正社員は「吸収・合併された店舗では未だに以前の会社のやり方で仕事をしている部分が多々見受けられ」、全店で共通のルールが順守されていないところもある」と指摘する。 ダイエーの買収後も、このような齟齬はしばらく残るのかもしれない。
イオン ダイエー子会社化で6兆円グループへ 「スーパー1強」なるか
スーパー最大手のイオンは、大手商社の丸紅が保有するダイエー株約29%の8割強を買収、ダイエーを子会社化する。イオンはすでに保有しているダイエー株と合わせ、約44%を保有することになる。買収額は130億円前後とみられている。 スーパー業界1位と同4位の連結売上高合計は6兆円を超え、同2位のセブン&アイHDの約4兆8000億円を大きく引き離し、圧倒的業界トップになる。
多角化路線があだとなり経営不振に陥っていたダイエーは、2004年に産業再生機構の支援を受けて、丸紅がダイエー株の44.6%を取得。07年にはイオンがスポンサーに加わり、共にダイエーの経営再建をサポートしてきた。
しかし、丸紅主導の経営再建は遅々として進まず、イオン主導で進めることになった。イオンは01年に経営破綻したマイカルを子会社化し、短期間で経営再建した実績がある。
都内で記者発表したイオンの岡田元也社長は、「大株主が2社あり、誰が責任者なのかハッキリしなかった」と意思決定の曖昧さを指摘。丸紅の岡田大介常務執行役員も「リーダーシップがとれず、営業面の回復が遅れた」と、暗に丸紅主導の失敗を認めた。
イオンは今後、ダイエーの再建と合わせて規模のメリットを追求、「消費者主権の確立」(価格引き下げの意味:岡田社長)を急ぐ。店舗運営や仕入れの一本化を進めるほか、商品政策も見直し、PB(自主企画)商品はイオンの「トップバリュ」に一本化する方針だ。
赤字脱却へむけ、不採算店は閉鎖の方針。余剰人員は13年度以降、イオンの新店に出向させるなど、売上高販管費比率を下げる考えだ。
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成長力が低下した「都市部のセブン&アイ」に攻勢をかける
今回のダイエー子会社化について、証券アナリストは「“都市部のセブン&アイ、地方のイオン”という今までの勢力図が崩れ、イオンはダイエーを先兵にセブンの牙城まで攻めてくる。これで都市部の業界再編が加速する」と分析している。
イオンがダイエーを子会社化する目的は「スーパー業界のガリバーになること。岡田社長のこれまでの発言から、そのフシが感じられる」と、証券アナリストは推測している。ダイエーを傘下に収めた圧倒的な競争優位を跳躍台に、長年温めてきた野望の実現に向かうという訳だ。
ダイエーは09年2月期から5期連続で最終赤字を計上するなど「いまだ再建途上」(岡田社長)。デフレで価格競争が激化したほか、コンビニの成長、ドラッグストアの台頭など、今や「イオンの支えなくしては生き残り自体が危うい状態」(証券アナリスト)に追い込まれている。
一方、ライバルのセブンも主力のイトーヨーカ堂の成長力が低下している。「この時期に圧倒的なスケールメリットでセブンを叩けば『スーパー1強になれる』とは、岡田社長でなくても考える」(流通業界事情通)ところだ。
しかし、規模の拡大だけで業界のガリバーになれるほど、世の中は甘くない。イオンもダイエーも総合スーパーとして幅広く品揃えしているとは言え、カテゴリー別に見ると弱点が目につく。
例えば、食品は地域の優良食品スーパーと比べると品揃えが見劣りする上、生鮮三品の値段も決して安くはない。衣料品ではユニクロやしまむらなどに、紳士・婦人服では青山やAOKIに、家電は家電量販大手にといった具合に、それぞれのカテゴリーには太刀打ちできない。
事情通は「規模の拡大が今以上に進めば、早晩カテゴリーの弱点や社内問題が拡大路線の障害となってくるのは避けられない」と言う。
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「独身者は2万5千円で社宅に住める」嬉しさ
買収した側、された側。それぞれどんな職場なのか。キャリコネの口コミを見てみよう。ダイエーの店舗スタッフとして30代の男性契約社員は「人員不足」に嘆いている。不採算店は、買収によって撤退を余儀なくされるかもしれない。
「仕組みを変えればまだ少しは改善されるでしょうが、どこの売場もパート、アルバイトに残業してもらって終わらない分に関しては、社員がサービス残業をしてるところもあるようです。また、低賃金もあり、若い社員が退職する割合が多いように感じます」
20代の調理スタッフの契約社員も、同じような苦しい職場事情を訴える。
「労働組合の力が強く、労働環境改善についての取り組みや、サービス残業をつよく禁止しているにもかかわらず、実際はタイムカードだけ切って、サービス残業を行わなければならない事態が常態化している」
一方、イオン側はさすがに絶好調だけあって、社員の声はおおむね明るい。イオングループは2008年に純粋持株会社制に移行したため、全国のGMS(総合スーパー)はイオンリテールが引き継いでいる。
評判が高いのは福利厚生の充実度合い。20代の店舗スタッフの正社員は「社宅費が助かる」と喜んでいる。
「独身単身者は自己負担2万5千円で、社宅に住むことができる。既婚者は2DK以下の物件が3万2千円、既婚単身者は1万5千円で社宅に住むことができる。数件ある物件の中から選ぶことができ、品川区内の新築マンションに住むこともできた」
また、あるパートスタッフは女性が働きやすい環境と評価し、「産前産後休暇をしっかりとり育児休暇を経て、今現在育児勤務にて復帰しました」と報告している。
ただ、やはり吸収・合併を繰り返してきた会社なので、いびつさは残っているようだ。30代男性の正社員は「吸収・合併された店舗では未だに以前の会社のやり方で仕事をしている部分が多々見受けられ」、全店で共通のルールが順守されていないところもある」と指摘する。
ダイエーの買収後も、このような齟齬はしばらく残るのかもしれない。