「艦これ」人気の影で造船業界は大苦戦 あの艦娘を生んだ会社の現在は? 2013年11月11日 企業徹底研究 ツイート DMM.comの配信する『艦隊これくしょん -艦これ-』が人気だ。旧日本軍の艦艇を美少女キャラ化した「艦娘(かんむす)」を収集・強化し、未知の敵と戦いながら勝利を目指すというブラウザゲームである。 2013年4月にサービス開始、半年でユーザー数が100万人を突破するほどの人気に。艦娘たちの可愛らしさや戦略的なゲーム内容が支持され、課金要素の少なさもあいまって利用者が急増中だ。漫画化・小説化などのメディアミックス展開も始まっている。 レア艦「武蔵」を建造した三菱重工業 この艦娘たちの元となった軍艦は、もちろん実在する。ゲットしにくいレアな艦娘のひとつである空母「瑞鶴」は、ほとんど攻撃を受けたことがない“幸運艦”として知られる。メディアミックスの小説版「艦これ」でも主人公に抜擢された人気キャラだ。 実はこの「瑞鶴」を建造したのは、戦前の旧川崎造船所、現在の川崎重工業である。同社はこのほかにも戦艦「榛名」や軽巡洋艦「大井」、重巡洋艦「摩耶」など名だたる艦艇を建造してきた実績があり、いずれも艦娘としてゲームに登場している。 また、旧日本軍が最後に完成させた大型戦艦「武蔵」を建造したのは、造船&重工業の大手である三菱重工業。同社も戦艦「霧島」や軽巡洋艦「木曾」など、艦娘のモデルとなった艦艇をいくつも手掛けている。 そのほか「艦これ」登場の艦艇を手掛けた民間会社としては、駆逐艦の「皐月」「文月」などを建造した藤永田造船所(現在の三井造船に吸収合併)、軽巡洋艦「那珂」を建造した浦賀船渠(現在の住友重機械工業に吸収合併)などがある。 このように艦娘たちを誕生させてきた造船会社だが、その先行きはいまひとつ不透明だ。かつて日本のお家芸と言われていた造船は2004年以降、安い建造コストで攻勢をかける中国勢・韓国勢に受注を奪われてしまった。 さらにリーマン・ショック以降は世界規模で大型船の新規需要が激減し、業界では「2014年以降は新規の建造がなくなる」とさえ言われる。 (最新記事はこちら) 「瑞鶴」の川重は4年で売り上げが半分未満に 川崎重工業の決算資料を見ると、造船部門の売上高は2009年度の1518億円から右肩下がりを続けており、2012年度には903億円に下落。さらに2013年度の売上高予想では700億円にまで落ち込むとされている。 グループ全体で最も売上高に貢献したモーターサイクル&エンジン部門(2518億円)と比べると、事業としての将来性は不安と言わざるを得ないだろう。 一方の三菱重工業はと言うと、1999年以降、売上高は2000億円~3000億円の間で行ったり来たりを繰り返している。川崎重工業と比べれば売り上げ基盤は大きいが、造船不況を目の当たりにし、これまで手掛けてきたコンテナ船などの大型商船からはほぼ撤退した。 2012年からは、新エネルギーとして期待が寄せられているLNG(液化天然ガス)の運搬船の受注を始めたほか、ヨーロッパの造船会社が牛耳っていた大型クルーズ客船の分野にも進出。技術力の高さを生かした領域で勝負をかけるなど試行錯誤が続いている。 「艦これ」をきっかけに造船に携わりたいと思う人はさすがに少ないだろうが、いちおう現状は知っておくべきである。むろん、将来的に何か新しい飯の種を発見して急に持ち直す可能性だってある。 例えば現在、海洋資源開発へのシフトチェンジを行っている造船会社もあり、新たな稼ぎ頭に育てようという機運が高まっている。いまピークの会社に入って、右肩下がりの会社生活を送るよりも面白いかもしれない。 なお、余談だが、日本船主協会のウェブサイトによると、英語圏で船が女性名詞として扱われる理由には「その入手費よりも維持費によって人を破局に導く」からという説があるという。 (※11月20日、記事修正いたしました。) (最新の記事は @kigyo_insiderへ)
「艦これ」人気の影で造船業界は大苦戦 あの艦娘を生んだ会社の現在は?
DMM.comの配信する『艦隊これくしょん -艦これ-』が人気だ。旧日本軍の艦艇を美少女キャラ化した「艦娘(かんむす)」を収集・強化し、未知の敵と戦いながら勝利を目指すというブラウザゲームである。
2013年4月にサービス開始、半年でユーザー数が100万人を突破するほどの人気に。艦娘たちの可愛らしさや戦略的なゲーム内容が支持され、課金要素の少なさもあいまって利用者が急増中だ。漫画化・小説化などのメディアミックス展開も始まっている。
レア艦「武蔵」を建造した三菱重工業
この艦娘たちの元となった軍艦は、もちろん実在する。ゲットしにくいレアな艦娘のひとつである空母「瑞鶴」は、ほとんど攻撃を受けたことがない“幸運艦”として知られる。メディアミックスの小説版「艦これ」でも主人公に抜擢された人気キャラだ。
実はこの「瑞鶴」を建造したのは、戦前の旧川崎造船所、現在の川崎重工業である。同社はこのほかにも戦艦「榛名」や軽巡洋艦「大井」、重巡洋艦「摩耶」など名だたる艦艇を建造してきた実績があり、いずれも艦娘としてゲームに登場している。
また、旧日本軍が最後に完成させた大型戦艦「武蔵」を建造したのは、造船&重工業の大手である三菱重工業。同社も戦艦「霧島」や軽巡洋艦「木曾」など、艦娘のモデルとなった艦艇をいくつも手掛けている。
そのほか「艦これ」登場の艦艇を手掛けた民間会社としては、駆逐艦の「皐月」「文月」などを建造した藤永田造船所(現在の三井造船に吸収合併)、軽巡洋艦「那珂」を建造した浦賀船渠(現在の住友重機械工業に吸収合併)などがある。
このように艦娘たちを誕生させてきた造船会社だが、その先行きはいまひとつ不透明だ。かつて日本のお家芸と言われていた造船は2004年以降、安い建造コストで攻勢をかける中国勢・韓国勢に受注を奪われてしまった。
さらにリーマン・ショック以降は世界規模で大型船の新規需要が激減し、業界では「2014年以降は新規の建造がなくなる」とさえ言われる。
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「瑞鶴」の川重は4年で売り上げが半分未満に
川崎重工業の決算資料を見ると、造船部門の売上高は2009年度の1518億円から右肩下がりを続けており、2012年度には903億円に下落。さらに2013年度の売上高予想では700億円にまで落ち込むとされている。
グループ全体で最も売上高に貢献したモーターサイクル&エンジン部門(2518億円)と比べると、事業としての将来性は不安と言わざるを得ないだろう。
一方の三菱重工業はと言うと、1999年以降、売上高は2000億円~3000億円の間で行ったり来たりを繰り返している。川崎重工業と比べれば売り上げ基盤は大きいが、造船不況を目の当たりにし、これまで手掛けてきたコンテナ船などの大型商船からはほぼ撤退した。
2012年からは、新エネルギーとして期待が寄せられているLNG(液化天然ガス)の運搬船の受注を始めたほか、ヨーロッパの造船会社が牛耳っていた大型クルーズ客船の分野にも進出。技術力の高さを生かした領域で勝負をかけるなど試行錯誤が続いている。
「艦これ」をきっかけに造船に携わりたいと思う人はさすがに少ないだろうが、いちおう現状は知っておくべきである。むろん、将来的に何か新しい飯の種を発見して急に持ち直す可能性だってある。
例えば現在、海洋資源開発へのシフトチェンジを行っている造船会社もあり、新たな稼ぎ頭に育てようという機運が高まっている。いまピークの会社に入って、右肩下がりの会社生活を送るよりも面白いかもしれない。
なお、余談だが、日本船主協会のウェブサイトによると、英語圏で船が女性名詞として扱われる理由には「その入手費よりも維持費によって人を破局に導く」からという説があるという。
(※11月20日、記事修正いたしました。)
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