• 音楽「聴き放題サービス」広がる アーティストからは「生活できない」と不安の声

    毎月1000円以下の料金を支払えば、2000万曲もの音楽が聴き放題になる…。このような「定額での聴き放題サービス」が、各国で人気を集めている。

    CD売上が全世界的に減少傾向にある中、聴き放題サービスは新たな収益モデルとして、世界の音楽業界関係者から熱い視線が注がれている。一方で、アーティストからの反発も少なくない。

    Spotify は「1年で45億時間」も視聴された

    定額聴き放題サービスは、毎月一定額を支払えば数百万~数千万もの楽曲が「聴き放題」で楽しめるというサービスだ。クラウド上に保存されている楽曲をストリーミング視聴するため、iTunesなどと違って楽曲データをダウンロードする必要がない。

    特に有名なのが2008年にスウェーデンで誕生した「Spotify(スポティファイ)」で、世界55か国に2400万人以上の会員を抱えている(2013年12月現在)。毎月5ドル~10ドル程度の価格で2000万曲以上が聴き放題になるほか、広告付きの無料プランもある。

    年間売上は10億ドルを超えており、ユーザーのサービス利用時間が同年だけで「計45億時間」に達したというから、いかに多くの支持を集めているかがわかるだろう。

    海外ではSpotifyのほかにも、アメリカの「Pandora(パンドラ)」、フランスの「Deezer(ディーザー)」が人気を博している。日本でもソニーの「Music Unlimited(ミュージック・アンリミテッド)」やKDDIの「KKBOX」などがスタートしており、いずれも、定額で「聴き放題」となる。

    再生1回でロイヤルティーは「0.6円」

    ユーザー側が盛り上がる反面、楽曲を提供するアーティスト側からは賛否両論が相次いでいる。

    例えば人気バンド「レディオヘッド」のトム・ヨークは今年7月、

    「君たちがSpotify上で見つけた新人アーティストには、報酬が支払われていないかもしれない。それなのに、株主には金が転がり込んでいる」

    とTwitterでSpotifyのビジネスを批判した。

    実際、12月にSpotifyが発表した内容によれば、現在の同サービスを通じてアーティストに支払われるロイヤルティーは、楽曲1回の再生あたり平均0.006ドル~0.0084ドル(約0.6円~0.8円)程度でしかない。これはCD1枚当たりのロイヤルティーの100分の1以下の価格だ。

    個人で音楽活動を行っているミュージシャンのAさんも、聴き放題サービスのロイヤルティーの低さを懸念する1人だ。彼はキャリコネ編集部の取材に対しこう語る。

    「Spotifyに楽曲を提供したことがないので、実際にどれだけ稼げるのかは未知数です。でも仮に100万回再生されても60万円程度にしかならないのでは、大部分のミュージシャンは生活していけない」

    中にはSpotify上で、年間1億回以上も再生されたアーティストもいるが、

    「こうした例は、あくまで大手音楽レーベルのバックアップがあってこその話。誰もがいきなり成功できるわけではないと思います」

    と分析する。

    聴き放題サービスで「ファンを囲い込む」

    ただし、定額聴き放題サービスならではのメリットもあるという。

    「アーティストがセルフ・ブランディングしやすくなります。CDを直接手渡すことなく、SNSなどを通じて『Spotifyで配信中です!』と言うだけで多数の人に作品を聴いてもらえるわけですから、特にマイナーなアーティストにとっては魅力です」

    もちろん、それで人気が出るかどうかは別問題。だが、音楽はまず誰かに聴いてもらわなければ始まらないコンテンツだ。聴き放題サービスが“ファンづくりのための第一歩の場”となる可能性はあるだろう。

    また、Aさんのような個人のアーティストが最も力を入れるのは、生演奏のライブだ。

    「聴き放題サービスを通じてライブにお客さんを呼び込んだり、逆にライブに来たお客さんを聴き放題サービスに送客したりできれば、いい相乗効果が生まれるのではないでしょうか」

    ただそれでも、聴き放題サービスへの配信だけで食っていけるとは思っていない。とはいえ現在、CDの価値が薄れているのは間違いなく、アメリカの大都市でもレコード店はほぼ廃れている状態だという。

    「聴き放題サービスは“ファンを囲い込むツール”と割り切り、過度に期待せず付き合うのがいいのかもしれません」

    今後、国内でもSpotifyのような聴き放題サービスがしっかり根付くかどうかは、意見が分かれている。

    というのも、日本には世界でもまれなCDレンタルショップがある。さらに、再販売価格維持制度によってCDの収益性が保護されており、レコード会社が聴き放題サービスへの楽曲提供を拒むことも予想できるからだ。

    レコードからCDへ、CDからデジタルデータへと、音楽のカタチが時代とともに変化するのは避けられない。音楽を安価に楽しめるのはユーザーにとって良いが、それで業界自体が縮小し、新しいアーティストが生まれなくなるなら本末転倒でもあるだろう。

    あわせてよみたい:CDショップ業界、「曲」以外にも売れない原因が 

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