「ブラック企業」批判の旗手に落胆の声 「本当に弱者の味方なの?」 2013年9月23日 今日の口コミ&年収 ツイート 「がっくり来ましたよ…」 そんな嘆きをキャリコネの告発窓口に送ってきたのは、都内の中小IT企業に勤めるAさん(30歳)。「ブラック企業」批判の旗手として名を挙げる今野晴貴氏の「IT企業という怪物」(双葉新書)を読んで、すっかり失望したのだという。 今野氏は労働NPO「POSSE」代表で、一橋大学大学院に在籍中。激しい「ブラック企業批判」を展開して、過酷な労働環境に苦しむ若年層から高い期待を集めている人だ。 しかしAさんによれば、彼のIT企業論には「中小零細IT企業の労働環境がいかに悪いか」が書かれているだけで、問題解決につながらないという。今野氏は年間数百件もの労働相談を通じ、ブラック企業の現状を把握しているはずだが、その指摘の何が不足なのか。 元凶である「ITゼネコン」が不問なのはおかしい Aさんが言うには「IT企業という怪物」には、IT企業のブラック問題の根幹にある大手「ITゼネコン」の現状についてきちんと触れていないのが不服らしい。 「たとえば富士通なんて、1分単位で残業代が出るんですよ。彼らがそんな生産性の高い働き方をしているわけがないでしょう? 要するに、彼らのスーパーホワイト企業っぷりのしわ寄せを、僕らに押し付けているだけなんですよ」 確かにキャリコネの口コミからも、NECや富士通、NTTデータなど大手のホワイトさがうかがえる。NECの20代男性SEは「一言でいうと、ぬるい。使えない人材も大手をふって仕事ができる」と呆れたように実態を明かしている。 派遣社員として富士通に勤務した女性SEは、何のスキルも持たない高給取りの上司から「僕はなんちゃってSEだから」と自己紹介されたというから、呆れたものである。 ITゼネコンの株価が下がったとき、匿名掲示板には「早く潰れろ、いい気味だ」という声も上がっていた。急な仕様変更や納期の短縮、コスト削減などの要求をのまされて、それだけ陰で虐げられてきた人たちがいるということだろう。 要するに、IT業界のブラック問題を扱おうと思えば、四次請け、五次請けに至る「多重請負構造」や、甘い汁を吸うITゼネコンにメスを入れなければならないのに、そこにメスが入っているように思えないのがAさんの不満なのだ。 「組合に入れ。話はそれからだ」と聞こえるか しかし日々労働相談を受けている今野氏は、そのような構造的な問題までは理解できていないのかもしれない。そう問うとAさんは「僕は違うと思う」と突っぱねた。 彼が指摘するのは、今野氏がブラック企業被害対策弁護団のシンポジウムに出席した発言だ。今野氏がIT企業批判の根拠を、 「昔からある製造業のように、労働組合があって、労使関係があり、労務管理のあり方が決まっていくという『日本型雇用』が、確立していない産業」 と言っているのを読んで、会社に労働組合のないA氏には「そんなにブラック企業が怖いんなら組合に入れよ。話はそれからだ」と聞こえたのだという。 そして、今野氏は「労働組合の組合員」、すなわちその多くを占める「大企業の正社員」の権利を代弁しており、ブラック問題の根本原因を抱える大企業を批判するつもりが最初からない――。そんな憶測を抱いている。 今野氏はユニクロやワタミなどの大手企業を「ブラック企業」と批判していたが、Aさんはこの2社にも組合があれば、ここまで目の敵にされなかったのではないかと言う。 「それから大事なのは、IT業界のようなBtoBを声高に批判すると、元請けに批判が飛び火するおそれがありますからね。でもユニクロやワタミのような消費者相手のBtoC企業なら、その心配は少ないわけですから」 今野氏はそういう事情を薄々知っているはずだし、知らないのなら「IT企業という怪物」なんてタイトルの本を書いてはいけないはず、とAさんは首をかしげる。本当の「怪物」は別のところにいる、ということか。 もしも結果的に守っているのが「大企業正社員の権利」であれば、それは確かに「弱者の味方」とは言えないが、真相はいかがなものなのだろう。 【働く人に役立つ「企業インサイダー」の記事はこちら】
「ブラック企業」批判の旗手に落胆の声 「本当に弱者の味方なの?」
「がっくり来ましたよ…」
そんな嘆きをキャリコネの告発窓口に送ってきたのは、都内の中小IT企業に勤めるAさん(30歳)。「ブラック企業」批判の旗手として名を挙げる今野晴貴氏の「IT企業という怪物」(双葉新書)を読んで、すっかり失望したのだという。
今野氏は労働NPO「POSSE」代表で、一橋大学大学院に在籍中。激しい「ブラック企業批判」を展開して、過酷な労働環境に苦しむ若年層から高い期待を集めている人だ。
しかしAさんによれば、彼のIT企業論には「中小零細IT企業の労働環境がいかに悪いか」が書かれているだけで、問題解決につながらないという。今野氏は年間数百件もの労働相談を通じ、ブラック企業の現状を把握しているはずだが、その指摘の何が不足なのか。
元凶である「ITゼネコン」が不問なのはおかしい
Aさんが言うには「IT企業という怪物」には、IT企業のブラック問題の根幹にある大手「ITゼネコン」の現状についてきちんと触れていないのが不服らしい。
確かにキャリコネの口コミからも、NECや富士通、NTTデータなど大手のホワイトさがうかがえる。NECの20代男性SEは「一言でいうと、ぬるい。使えない人材も大手をふって仕事ができる」と呆れたように実態を明かしている。
派遣社員として富士通に勤務した女性SEは、何のスキルも持たない高給取りの上司から「僕はなんちゃってSEだから」と自己紹介されたというから、呆れたものである。
ITゼネコンの株価が下がったとき、匿名掲示板には「早く潰れろ、いい気味だ」という声も上がっていた。急な仕様変更や納期の短縮、コスト削減などの要求をのまされて、それだけ陰で虐げられてきた人たちがいるということだろう。
要するに、IT業界のブラック問題を扱おうと思えば、四次請け、五次請けに至る「多重請負構造」や、甘い汁を吸うITゼネコンにメスを入れなければならないのに、そこにメスが入っているように思えないのがAさんの不満なのだ。
「組合に入れ。話はそれからだ」と聞こえるか
しかし日々労働相談を受けている今野氏は、そのような構造的な問題までは理解できていないのかもしれない。そう問うとAさんは「僕は違うと思う」と突っぱねた。
彼が指摘するのは、今野氏がブラック企業被害対策弁護団のシンポジウムに出席した発言だ。今野氏がIT企業批判の根拠を、
と言っているのを読んで、会社に労働組合のないA氏には「そんなにブラック企業が怖いんなら組合に入れよ。話はそれからだ」と聞こえたのだという。
そして、今野氏は「労働組合の組合員」、すなわちその多くを占める「大企業の正社員」の権利を代弁しており、ブラック問題の根本原因を抱える大企業を批判するつもりが最初からない――。そんな憶測を抱いている。
今野氏はユニクロやワタミなどの大手企業を「ブラック企業」と批判していたが、Aさんはこの2社にも組合があれば、ここまで目の敵にされなかったのではないかと言う。
今野氏はそういう事情を薄々知っているはずだし、知らないのなら「IT企業という怪物」なんてタイトルの本を書いてはいけないはず、とAさんは首をかしげる。本当の「怪物」は別のところにいる、ということか。
もしも結果的に守っているのが「大企業正社員の権利」であれば、それは確かに「弱者の味方」とは言えないが、真相はいかがなものなのだろう。
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