• 新入社員研修は「2年間の小麦畑づくり」 アンデルセン驚きの人材育成法

    パン屋でお客が自由に好きなものをピックアップして購入する「セルフ方式」は、いまではどこの店でも見られるが、これを日本で初めて導入したのは、人気ベーカリーチェーンの「アンデルセン」だという。

    2014年5月29日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、アンデルセン創業者の娘である吉田正子社長をスタジオに迎え、さまざまな「常識やぶりの経営」で戦ってきた強さの秘密を紹介していた。

    パン職人の重労働を思いやり「冷凍特許」を無償公開

    アンデルセンは戦後間もない1948年、広島で「タカキのパン」として現社長の父・吉田俊介氏が創業した。街の小さなパン屋だったが、1959年、欧州視察で訪れたデンマーク・コペンハーゲンで食べたデニュッシュペストリーに俊介氏は衝撃をうける。

    「世の中に、こんなおいしいパンがあるのか」

    帰国後は再現をめざし、試行錯誤のすえ日本で初めて商品化に成功したのは3年後のことだった。妻の彬子さんは「そのパンに出会えたことが、私どもの生き方を変えた」と、50年前のことを今も鮮明に覚えているという。

    デンマークのパンに魅了され、店名もデンマークを代表する童話作家の名前に変えた。デニュッシュペストリーは大評判となり、1970年には東京に進出。44年後の今も、青山で営業を続けている。

    売上高640億円を誇るアンデルセングループは、直営ベーカリー71店舗の他、全国に300店あるフランチャイズの「リトルマーメイド」や、生地から成形までのパン製造を行う「タカキベーカリー」を擁している。

    タカキベーカリーで成形・冷凍したパンを、全国のチェーン店で焼き、焼きたてを提供しているのだ。今では常識のこの方法も、7年もの歳月をかけて冷凍に強いイースト菌を開発したことにより可能となった。

    ところが特許を取得したこの冷凍技術を、創業者はあっさりと他のメーカーに無償公開した。番組MCの村上龍は「考えられない。儲かりそうだもん。俺だったら絶対独り占めする」と訝しむと、創業者の娘である吉田正子社長はその理由をこう語った。

    「業界の共存共栄やパンの市場拡大を考えていたと思うが、それ以前に純粋に焼きたてのおいしいパンをたくさんの人に食べてもらいたい。パン職人の仕事は本当に重労働で長時間労働なので大変。そういう職人を『もっと楽にしてあげたい』という思いだった」

    100本の小麦から「ロールパン1個」を学ぶ

    いまでは人気カフェのサンマルクやスターバックスが、この冷凍技術で作ったパン生地を使っており、委託販売の売り上げは60億円以上。日本のパン職人の暮らしを変え、自らもしっかり成功している。

    独特の斬新な手法でパン食文化にこだわってきたアンデルセンは、人材育成もユニークだ。広島市から1時間半、東京ドーム40個分の原野に広がる「芸北100年農場」では、新入社員が2年間住み込みで荒れ地の開墾から小麦畑づくり、収穫、製パンまでのすべてを自分たちで行うのだ。

    雑草取りをしていた若手社員は、「いずれこれが小麦粉になって、パンになると考えるとすごくわくわくする。それに自分が関れている事がすごくうれしい」と語る。

    村上龍の「ここまでやらなきゃいけないんですかね?」という疑問に、吉田社長は、これを経験することによって、パン作りのための小麦がどんなに大変な過程で作られているか分かると笑って説明した。

    「100本の小麦からロールパン1個しかできないことも分かる。大切にするからこそ、最後の1個まで売り切らなくてはいけないと感じるようになる」

    研修中も給料は支払われるので、多額のコストはかかる。しかし、身体で覚えた小麦の大切さは一生消えず、一握りの小麦粉も無駄にしない心を持った社員が育つのならば、高くはない投資に思えた。(ライター:okei)

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