• 「メディアは好きじゃない」 どん底からの復活劇を果たしたトヨタ社長のホンネ

    2014年6月12日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、日本最大の企業・トヨタ自動車の6代目社長、豊田章男氏をゲストに招いた。冒頭、番組編集長の村上龍氏が「メディアはお好きじゃないとのことですが」と質問すると、章男氏は笑いながら、創業家に生まれた複雑な胸のうちを明かした。

    「私自身はこういう名前で生まれる以外、選択肢はなかった。よく言われたのが『あの苦労知らず』『お坊ちゃん』『御曹司』。事実だから否定はしないが、その中でもいろいろあるよね、と思っていました。メディアは好きじゃないですが、この立場になった以上は、説明する必要はあると思って、ちょっと態度を変えています」

    「乗って楽しい、愛すべき乗り物」にこだわり

    ピンクのクラウンピンクのクラウン

    事実、章男氏は2009年6月の社長就任以来、次々に見舞う苦難と闘わねばならなかった。

    社長を引き継いだ時には、リーマンショクで71年ぶりの赤字転落、世界規模のリコール問題、東日本大震災が起きたのは、宮城に新工場を構えたばかりの時だった。続いて、タイの大洪水、超円高…。

    それらの危機を乗り越え、2013年には6年ぶりに25兆円の黒字で過去最高益を更新した。番組では、トヨタ復活劇の内幕に迫っていた。

    変革のキーワードとして「もっといいクルマをつくろう」と唱え、現場は今までムリと諦めていたデザインにも果敢に取り組んだ。フロントグリルの大胆なモデルチェンジをした新型クラウンは客層を拡大させ、1年半で8万台を売り上げ、今までなら企画段階でストップされただろうピンクのクラウンも話題になった。

    「車は工業製品だけど”愛車”と呼ばれる」と語る章男氏は、自ら海外のレースに出場し、発売前の車には必ず試乗する。単なる移動手段ではなく「乗って楽しい、愛すべき乗り物」に対するこだわりがある。

    14年ぶりの創業家からの社長就任となった章男氏は、創業者・佐吉のひ孫にあたる。佐吉は全自動織機を開発して財をなし、息子の喜一郎はその莫大な資金を自動車作りにあて、大衆向け国産車を作り上げた。

    先代たちのものづくりへの思いは、「国内生産300万台を死守する」という章男氏に受け継がれている。トヨタは国内の生産基盤を維持するために国内生産比率38%と4割近く維持しているのだ。

    「人を雇い、企業としてしっかりと儲ける」プライド

    昨今、自動車メーカーが海外に生産拠点を移す「海外シフト」が吹き荒れ、雇用や税収が激減し、崩壊の危機に陥る街もある。トヨタでは、車一台つくるのに1次から5次まで下請け1万社以上が関わっており、中にはどんな厳しい要求にも答える部品づくりの熟練工もいる。

    トヨタの浮き沈み如何で運命が左右される人は、従業員33万人だけではない。村上龍は、国内生産が製造業を支える「熟練工を守る」ことに繋がる、と共感しているようだった。

    東北に活気を取り戻す支援として、トヨタは宮城県大衡町に新たな生産拠点を作った。

    「トヨタの一番の貢献は、そこに自動車産業を興し、人を雇い、企業としてしっかりと儲け、税金を払っていく。長くかかる支援として『本業で一緒に闘っていく』という気持ちで東北(工場新設)は決定した」

    2009年のリコール問題の際、厳しく責任を追求されたアメリカ議会の公聴会で、章男氏は「すべての車に私の名前がついています。私自身の責任として信頼を取り戻すために全力で改善に取り組みます」と答えていた。「お坊ちゃん」と言われながらも、トヨタの名に懸けて復活をなしとげた創業者一族のプライドを感じた。(ライター:okei)

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