• 偉大なる創業者に逆らって会社を飛び出し… 「養豚の将来」を見据えるサイボクハム笹崎社長

    埼玉県日高市にあるサイボクハム(埼玉畜産牧場)は、「豚のテーマパーク」ともいえる人気スポットになっているという。牧場がある東京ドーム約3個分の敷地に、直売所はもちろん、レストランやアスレチック、温泉まであり年間400万人が訪れる。

    遠方からの客も多く、客たちは口を揃えて「脂身が違う。近くで買う気がしない」と、その味の魅力を語る。2014年7月24日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、サイボクハム社長の笹崎静雄氏が発展させ続ける養豚業の経営術を紹介した。

    「買い叩かれるなら自分で売りたい」に父激怒

    サイボクハムは、ドイツで開催される世界最大の国際食品コンテストでは16年連続で金メダルを獲得し、アジア初の快挙を達成している。試食した小池栄子も「ほんと幸せです」と言いながら、皿が片づけられる前にと次々口に運んでいた。

    笹崎社長は自社のウィンナーとハムのうま味について、こう熱く語った。

    「原料肉がちゃんとしていたら、きつい味付けをする必要もないし、ほんのり肉の味が出てくる。味には前味・中味・後味があり、後味が大事ってことは、最後に『ああおいしいから幸せだな』というものが口の中に広がる」

    味の決め手は、豚肉の品種とエサ。人里離れた牧場で厳重に育てた種豚を育成・品種改良し、自社工場で毎日作りたてのエサを与える。銘柄という概念がなかった豚肉に、「ゴールデンポーク」という銘柄を初めてつけ、ブランド豚の概念を確立させた。

    サイボクの創業者は、現社長の父である笹崎龍雄氏。第二次大戦中に戦地で仲間たちの多くが餓死した体験から、日本の食料事情を改善しようと1946年に養豚場を開く。後にその知識を体系的にまとめた「養豚大成」を著し、”近代養豚の父”とまで呼ばれた。

    息子の静雄氏は1971年に入社してすぐ、養豚業の将来に不安を感じたという。市場価格は一律なのに、小売店では自社の肉が一番高値で売られていた。それなら何故その値段に合わせて高く買ってくれないのか。疑問を感じ、「買い叩かれるなら自分で売りたい」と考えた。

    この提案を聞いた父親は激怒し、許さなかった。儲けよりも「日本人のため」を第一に考えていたからだ。それでも静雄氏は諦めず、会社を辞めて外部で流通を学び直したのち、1975年に小屋のような店から直販を開始する。

    自社の使命は「生産者と消費者を守る砦」

    偉大な父に逆らってまで直販にこだわった理由を村上龍に問われると、笹崎社長はこう説明した。

    「自分はあと40年50年、養豚で生きていかなくてはいけない。しかし養豚の産業がダメになってしまったら、自分の人生は一体何だったのかとなる。40年、50年先にも責任を持てる経営体にしていきたい。これが一番の基本でした」

    日本の養豚業界を取り巻く環境は、いまも楽観視できない。日本は世界一の豚肉輸入大国となり、国内の養豚業者数は激減。自給率は減少の一途だが、TPP交渉では市場開放が迫られている状況だ。

    そんな時代を乗り切るため、サイボクは若い力を育てようと外部からの研修生も受け入れて積極的にノウハウを伝えている。村上龍にTPP問題について訊かれると、笹崎社長は、

    「今後世界人口が増加し、食糧は必ず逼迫する。安い高いではなく、自給率の基本方針を決定しないで目先だけでやっていることに対し、『違うんじゃないの?』と考えている」

    と語り、養豚業が「一度やめたら二度と復活できない」大変な資源がかかる事業であると力説した。村上が、安いものに流れがちな「消費者の責任」に言及すると、自らの役割使命を力強く語っていた。

    「高いものには高いなりの理由があります。おいしくていいもの、安心・安全なものはそれなりのお金を払って生産者を守らない限り、継続した生産は不可能になる。うちの店は、生産者と消費者を守る砦でもある」

    笹崎社長は、父の意志に背いて直売を始めたかのように見えたが、実は「日本の食糧事情を改善したい」という創業者の意志を、時代に合った形で守り続けていた。豚肉に限ったことではないが、消費者も冷静に長期的な見方でこれに応えるべきだと感じた。(ライター:okei)

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