• 崖っぷちばかり走っていると「崖っぷち走りの名人」になれる――孫正義の「自嘲と自信」

    2014年7月31日で放送400回を迎えた「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、ソフトバンクの孫正義社長がゲストのスペシャル版だった。

    「大ボラ」と呼ばれる壮大な目標を次々に実現してきた孫正義氏。情報通信、エネルギーの次に孫社長が取り組む新分野が、ロボットだ。「一家に一台」「労働者不足解決」などロボット時代を自ら作り出そうとする孫社長が、大ボラのススメと今後の野望を語った。

    悲壮感をもって「大ボラ」を「口にする」効果

    2006年、孫正義氏は2兆円近い額でボーダフォン・ジャパンを買収し、携帯ビジネスに参入した。当時はドコモやauが圧倒的優位で、誰の目にも無謀な挑戦と思われた。しかし、「ドコモを超える」「利益を豆腐のように(1丁2丁=1兆2兆、と)数えるようになる」など、孫社長は「大ボラ」と呼ばれる言葉を発し続けた。

    8年後の今年、アメリカの携帯電話第3位のスプリント社を買収し、ドコモを超えて営業利益は1兆円を突破。「10年以内にドコモさんを超えられなかったら、私は経営者としてハラを切る」と言い切った言葉を違えることはなかったのだ。

    小池栄子に、巨額買収の時の気持ちを聞かれると、孫氏は「失敗したらどうしようと、悲壮感の塊。当時は4年間大赤字出していた直後で、手持ち資金は2000億しかなく、あと1兆8000億足りなかった」と明かしつつ、朗らかにこう語った。

    「崖っぷちを自転車で走っていくじゃないですか。なかなか危険ですが、でもこれをずっとやっていると(倒れずに進む)”崖っぷち走りの名人”になるんです。それはそれで得意技になってきた」

    さらに、言葉にすることの意味も大きいという。

    「言わない方が楽なんです。自分を追い込まなくて済むから。『言う』ということは、一番最初に聞いているのは自分の耳。自分に一番頻繁に言っていることになり、常に言った以上はやらなきゃってずっと考え続けるんです」

    ロボットが「労働人口」の減少を穴埋めする!?

    2014年6月、ソフトバンクは身長121cmの自立式ロボット「pepper(ペッパー)」の販売を発表した。人とのコミュニケーションに特化したロボットで、本体価格は19万8000円(税抜)だ。開発費用は200億円ほどだというが、孫氏は「一家に一台」を目指し、パーソナルにパソコン一台を買う値段にこだわった。

    現在グーグルがロボットベンチャーを次々と買収し、ロボットビジネスを狙う動きを加速させており、孫氏は赤字覚悟で世界に先んじてロボットビジネスの勝者を目指している。

    孫氏はペッパーについて、「子どもに勉強を教える、友達や兄弟代わりになる」というニーズを見込むほか、「誰でも簡単なパソコン操作で新しい動きのプログラムができる」ことによって、プログラミングとは無縁だったクリエイターたちをも巻き込み、加速度的に(人工知能などの)研究開発が進むことを狙っているという。

    さらに孫氏は、7月15日のソフトバンク法人向けイベントで「産業用ロボット3000万台を導入することができたら、製造業における労働人口世界一になれるわけです」と力強く言い放った。日本の国家戦略としての孫氏の考えは、労働人口が多いことが国力の差になっていくというものだ。

    「中国が日本のGDPを抜いて、もうじきアメリカをも抜く。だが日本は、人型のロボットをつくるのが世界一得意。仮に10億台、日本に人型ロボットが産業用として活躍すると、『人口が少ないから負けて仕方がない』と諦めている部分が、ラストチャンスとして(挽回が)ありうる」

    製品を人の手で組み立てられない「現実」

    iPhoneも、現在は精密すぎて人間の手では組み立てられない。ある意味で人間を超えることが産業用では起き始めているそうだ。番組では、産業用の人型ロボットが十数台並ぶ映像が、まさにSFのような雰囲気を醸し出していた。

    ソフトバンクは国内10カ所以上に、太陽光発電などで今後2万4000世帯分の電力を発電するビジネスを進行中だ。国内に留まらず、モンゴルのゴビ砂漠に風力と太陽光で発電し、アジア全体の電力を賄うという「アジアスーパーグリット構想」も掲げている。

    技術の進歩は素晴らしいが、ロボットが「労働人口」の代わりになると言われても、まだ頭がついていかないところがある。労働には、生きるために仕方なくやるもの以外に「生きがい」という側面もあり、どこか素直に喜べない感じがしてしまう。

    しかしすでに介護の現場や販売業では導入されているロボットもあり、人型ロボットが私たちの生活に身近になっていく日が遠からず訪れるのだろう。そのときまでに私たちは、ライフスタイルの大転換を準備しておく必要がありそうだ。(ライター:okei)

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