ハーゲンダッツに選ばれた北海道浜中町の牛乳 農協理事長の器が「地域の発展」を左右 2014年8月19日 ビジネスTVウォッチ ツイート 米国のアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」が日本に進出する際、原料として日本中の牛乳の中から選び出した高品質牛乳がある。この牛乳を生産しているのが、酪農の町・北海道浜中町だ。 全国的に牛乳の消費量が減るなか、浜中町の1戸あたりの平均収入は4400万円と右肩あがり。後継者のいる農家は全国平均4割に対して、浜中町は7割だという。 2014年8月14日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、「ビジネス感覚が大企業の社長」と言われる浜中町農協の石橋榮紀(しげのり)組合長が、上部組織の反対を受けながらも組合員のために行ってきた農業改革を紹介していた。 「国も北海道も金がない」から脱・補助金に 地元の農協が組合員のために改革を行うという話は、全国でも珍しいという。村上龍が「農協の体質として『長いものには巻かれろ』というものがあるんですか?」と質問すると、石橋氏は「それはあります」と応えた。 「(農協は)極端なことを言えば『補助金漬け体質』になっていて、補助金を何が何でももらってやろうという陳情行政をやる。でも私は『自主・自立』、国だって北海道だって金がないんだから、当てにしないで自分たちでやっていこうと、ずっと言っている」 1981年、全国に先駆けて「酪農技術センター」を建設し、牛乳の高品質化を成功させた。地域の生活者を守るために、赤字覚悟でスーパーも作った。1年中休みのない酪農家が休みを取れるよう、ヘルパー制度を設立。2人で1日2万3000円かかるが、大人気だ。 若いご夫婦で牧場経営する荒井健次さんは、「うちは完全にオフのため。遊びのためだけに」この制度を月4回ほど利用しているという。奥さんも「助かります。気持ちに余裕が生まれます」と喜んでいる。 こういった取り組みは、行政や上部組織も猛反対だったが、いまでは「道東の暴走老人」「アイツは変わり者だから仕方がない」と評されているそうである。 浜中町では、年1戸のペースで新たな酪農家が生まれている。石橋会長は30年前から研修生を受け入れ、後継者問題に取り組んできた。 1991年に全国で初めて、新たに酪農をはじめたい人を受け容れるため「就農者研修牧場」を建設。200頭いる牛の世話を実際に世話しながら酪農を学ぶ施設だ。やはり行政や指導機関の反対を押し切って推進したというが、現在では全国から視察が殺到する。 先物取引の営業を辞め、一家4人で「就農研修」 「就農者研修牧場」の応募資格は40歳以下の夫婦で、現在4組の家族がここで研修している。研修中の住まいは農協が無償で提供し、家賃も水道代もタダ。生活費も1カ月25万円ほど支給されるという。東京・日本橋で先物取引の仕事をしていた沼田英晃さん(41)は、4年前にここへ来た理由をこう答えた。 「東京では、朝6時に家を出て、家に帰るのが夜10~11時になり、子どもと触れ合える時間が少ない。こちらだと、ご飯は3食、子どもと一緒に食べられるのかなと」 奥さんは動物が苦手で猛反対したそうだが、いまでは子牛の熱を測るために、体温計を手早くお尻に挿すことができるようになった。 研修生は3年を目安に就農研修を行い、高齢化などで酪農を辞める人を待って卒業する。その牧場を農協の仲介で5年間リースし、実績を作ってから購入ローンを組む。空いた施設にすぐに入れるので、牛舎などの施設をそのまま使え、必要な資金は5000万円ほどだという。 20代で美容師から転身したという男性は「毎日仕事するわけだから、サラリーマンよりはいっぱい稼いで、家族にいい暮らしさせたいです」と目標を語った。 「デザイン・ファーム」というスイーツ店を立ち上げ、現在12店舗を展開しタイにも進出している海野泰彦さんも、27年前に大阪からやってきた。石橋組合長の牧場ですべてを教わっという海野さんは、石橋組合長をこう評す。 「組合長という感じじゃないですね。経済感覚、ビジネス感覚が大きな会社の社長さん」 組合員のために仕事をしているか 農協はいま、大きな転換期にある。安倍政権は全国の農協を指導する立場にある中央組織、JA全中(全国農業協同組合中央会)の廃止を提唱するなど巨大化した組織の見直しを進めている。そんな中、異端と言われた石橋氏の改革が注目を集めているが、本人はこともなげにこう語る。 「その農協が、組合員のために仕事をしているか、していないか。それだけの差じゃないでしょうか」 石橋さんは自らの取り組みを、「異端の正統」と表現していた。長いものに巻かれ、無難にしていればいいと考える人の地域では、ここまでの発展はなかったに違いない。 大きな権限を持つ理事長が、品質管理から人材育成や街づくりまで、単なる協調だけではなく個人としてきちんと責任を果たそうとした結果なのだろう。理事長の器の差が、地域の発展の差にあらわれている気がした。(ライター:okei) あわせてよみたい:アジアで「北海道」が大ブーム! 最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします
ハーゲンダッツに選ばれた北海道浜中町の牛乳 農協理事長の器が「地域の発展」を左右
米国のアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」が日本に進出する際、原料として日本中の牛乳の中から選び出した高品質牛乳がある。この牛乳を生産しているのが、酪農の町・北海道浜中町だ。
全国的に牛乳の消費量が減るなか、浜中町の1戸あたりの平均収入は4400万円と右肩あがり。後継者のいる農家は全国平均4割に対して、浜中町は7割だという。
2014年8月14日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、「ビジネス感覚が大企業の社長」と言われる浜中町農協の石橋榮紀(しげのり)組合長が、上部組織の反対を受けながらも組合員のために行ってきた農業改革を紹介していた。
「国も北海道も金がない」から脱・補助金に
地元の農協が組合員のために改革を行うという話は、全国でも珍しいという。村上龍が「農協の体質として『長いものには巻かれろ』というものがあるんですか?」と質問すると、石橋氏は「それはあります」と応えた。
1981年、全国に先駆けて「酪農技術センター」を建設し、牛乳の高品質化を成功させた。地域の生活者を守るために、赤字覚悟でスーパーも作った。1年中休みのない酪農家が休みを取れるよう、ヘルパー制度を設立。2人で1日2万3000円かかるが、大人気だ。
若いご夫婦で牧場経営する荒井健次さんは、「うちは完全にオフのため。遊びのためだけに」この制度を月4回ほど利用しているという。奥さんも「助かります。気持ちに余裕が生まれます」と喜んでいる。
こういった取り組みは、行政や上部組織も猛反対だったが、いまでは「道東の暴走老人」「アイツは変わり者だから仕方がない」と評されているそうである。
浜中町では、年1戸のペースで新たな酪農家が生まれている。石橋会長は30年前から研修生を受け入れ、後継者問題に取り組んできた。
1991年に全国で初めて、新たに酪農をはじめたい人を受け容れるため「就農者研修牧場」を建設。200頭いる牛の世話を実際に世話しながら酪農を学ぶ施設だ。やはり行政や指導機関の反対を押し切って推進したというが、現在では全国から視察が殺到する。
先物取引の営業を辞め、一家4人で「就農研修」
「就農者研修牧場」の応募資格は40歳以下の夫婦で、現在4組の家族がここで研修している。研修中の住まいは農協が無償で提供し、家賃も水道代もタダ。生活費も1カ月25万円ほど支給されるという。東京・日本橋で先物取引の仕事をしていた沼田英晃さん(41)は、4年前にここへ来た理由をこう答えた。
奥さんは動物が苦手で猛反対したそうだが、いまでは子牛の熱を測るために、体温計を手早くお尻に挿すことができるようになった。
研修生は3年を目安に就農研修を行い、高齢化などで酪農を辞める人を待って卒業する。その牧場を農協の仲介で5年間リースし、実績を作ってから購入ローンを組む。空いた施設にすぐに入れるので、牛舎などの施設をそのまま使え、必要な資金は5000万円ほどだという。
20代で美容師から転身したという男性は「毎日仕事するわけだから、サラリーマンよりはいっぱい稼いで、家族にいい暮らしさせたいです」と目標を語った。
「デザイン・ファーム」というスイーツ店を立ち上げ、現在12店舗を展開しタイにも進出している海野泰彦さんも、27年前に大阪からやってきた。石橋組合長の牧場ですべてを教わっという海野さんは、石橋組合長をこう評す。
組合員のために仕事をしているか
農協はいま、大きな転換期にある。安倍政権は全国の農協を指導する立場にある中央組織、JA全中(全国農業協同組合中央会)の廃止を提唱するなど巨大化した組織の見直しを進めている。そんな中、異端と言われた石橋氏の改革が注目を集めているが、本人はこともなげにこう語る。
石橋さんは自らの取り組みを、「異端の正統」と表現していた。長いものに巻かれ、無難にしていればいいと考える人の地域では、ここまでの発展はなかったに違いない。
大きな権限を持つ理事長が、品質管理から人材育成や街づくりまで、単なる協調だけではなく個人としてきちんと責任を果たそうとした結果なのだろう。理事長の器の差が、地域の発展の差にあらわれている気がした。(ライター:okei)
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