改正派遣法で「雇用安定化」は図られるのか 派遣会社から「厳しすぎる」の声 2014年5月13日 キャリコネ調査班 ツイート 今通常国会で、労働者派遣法の改正が審議されている。派遣社員といえば、派遣先の都合で「使い捨て」されることが多く、正社員に比べて不安定な雇用形態が問題視されてきた。 今回の改正では、そうした派遣社員の働き方の「安定化」を図るねらいが強く打ち出されている。派遣期間が終了した労働者のケアを派遣会社に求める規定も法案に盛り込まれ、「厳しすぎる改正だ」という声もあがっている。 派遣会社による「無期限雇用」も盛り込まれた 改正で派遣社員にとって有利になるのは、派遣の期間制限が「業務から人」になることだ。これまでは「業務あたり3年」が限度だったが、「1人あたり3年」になる。 例えば、ある業務でAさんが2年働いていた場合、同じ業務を引き継ぐBさんは1年しか働けなかった。しかし改正により、AさんもBさんも同じ業務で3年働くこともできるようになる。 さらに、派遣期間が上限3年を迎えた人に対し、派遣会社は以下の4つの「雇用安定措置」をとることが義務化される。 1.派遣先に直接雇用を依頼する 2.新たな就業機会(派遣先)を提供する 3.派遣会社が無期限で雇用する 4.その他、安定雇用の継続を確実に図れる措置 つまり派遣会社は、もし派遣社員が派遣先での直接雇用を希望する場合、それを派遣先へ依頼しなければならなくなる。優秀なスタッフを抱え、さまざまな企業に派遣して利益を得ていた派遣会社は、利益の源泉を派遣先に奪われてしまうおそれがある。 ただ、もしも派遣先での直接雇用が叶わないか、派遣社員が直接雇用を希望しない場合は、派遣会社は別の派遣先を探すか、「派遣先がないので、ウチ(派遣会社)で雇います」と言わなければならない。 もしくは「その他、安定雇用の継続を確実に図れる措置」を取る義務が課せられる。いずれにしても「新しい派遣先は見つかりませんでした」では済まなくなるということだ。 派遣会社は「雇用安定措置」が義務化される それでは当の派遣社員自身は、どのような働き方を望んでいるのだろうか。日本人材派遣協会が派遣社員5102人を対象とした調査によると、「当面希望する働き方」に派遣社員を選んだ人は67.1%と、大多数を占めている。柔軟な働き方に、それなりのメリットを感じている人が多いようだ。 しかし「数年後に希望する働き方」として派遣社員を選んだ人は14.7%にとどまり、「正社員」という回答が48.3%にのぼっている。 派遣協会の詳細資料によると、「当面も将来も派遣社員」を希望する人は既婚女性が多く、「将来は正社員」を希望するのは未婚女性が多いという。若い女性の経済的な困窮が社会問題になっているが、今回の改正が実現すれば彼女たちにとって救いの手となる可能性がある。 ただ、この改正に対しては、派遣会社から「厳しすぎる」という声があがっており、識者から異論も出ている。労働問題に詳しい安西愈弁護士は、アドバンスニュースのインタビューで改正の効果を疑問視している。 「(雇用安定措置が)どれも不調の場合は、派遣元に多大な負担がかかります。この義務発生を避けようとして、逆に派遣元が3年に満たない派遣契約とすることも考えられます。そうなれば現状とさほど変わらず、『雇用の安定』には結び付きません」 仮に、3年が過ぎて次の派遣先が見つかったとしても、派遣元の有期雇用契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みがあれば労働契約法により「無期労働契約」に転換しなければならなくなる。これを避けるために派遣元が「5年経つ前に契約を打ち切ることになりかねません」と懸念を示す。 改正法が法案どおり可決成立するかどうかは分からない。しかし優秀な人材が正社員と同じ仕事をして会社に貢献しているのに、派遣社員という「身分」だけで差別され、低い給与で不安定な雇用に苦しんでいる現状は、何とか変えて欲しいものだ。 あわせてよみたい:有名IT企業「社食使っちゃダメ!」 キャリコネTwitterはこちら/ 編集部Facebookはコチラ
改正派遣法で「雇用安定化」は図られるのか 派遣会社から「厳しすぎる」の声
今通常国会で、労働者派遣法の改正が審議されている。派遣社員といえば、派遣先の都合で「使い捨て」されることが多く、正社員に比べて不安定な雇用形態が問題視されてきた。
今回の改正では、そうした派遣社員の働き方の「安定化」を図るねらいが強く打ち出されている。派遣期間が終了した労働者のケアを派遣会社に求める規定も法案に盛り込まれ、「厳しすぎる改正だ」という声もあがっている。
派遣会社による「無期限雇用」も盛り込まれた
改正で派遣社員にとって有利になるのは、派遣の期間制限が「業務から人」になることだ。これまでは「業務あたり3年」が限度だったが、「1人あたり3年」になる。
例えば、ある業務でAさんが2年働いていた場合、同じ業務を引き継ぐBさんは1年しか働けなかった。しかし改正により、AさんもBさんも同じ業務で3年働くこともできるようになる。
さらに、派遣期間が上限3年を迎えた人に対し、派遣会社は以下の4つの「雇用安定措置」をとることが義務化される。
つまり派遣会社は、もし派遣社員が派遣先での直接雇用を希望する場合、それを派遣先へ依頼しなければならなくなる。優秀なスタッフを抱え、さまざまな企業に派遣して利益を得ていた派遣会社は、利益の源泉を派遣先に奪われてしまうおそれがある。
ただ、もしも派遣先での直接雇用が叶わないか、派遣社員が直接雇用を希望しない場合は、派遣会社は別の派遣先を探すか、「派遣先がないので、ウチ(派遣会社)で雇います」と言わなければならない。
もしくは「その他、安定雇用の継続を確実に図れる措置」を取る義務が課せられる。いずれにしても「新しい派遣先は見つかりませんでした」では済まなくなるということだ。
派遣会社は「雇用安定措置」が義務化される
それでは当の派遣社員自身は、どのような働き方を望んでいるのだろうか。日本人材派遣協会が派遣社員5102人を対象とした調査によると、「当面希望する働き方」に派遣社員を選んだ人は67.1%と、大多数を占めている。柔軟な働き方に、それなりのメリットを感じている人が多いようだ。
しかし「数年後に希望する働き方」として派遣社員を選んだ人は14.7%にとどまり、「正社員」という回答が48.3%にのぼっている。
派遣協会の詳細資料によると、「当面も将来も派遣社員」を希望する人は既婚女性が多く、「将来は正社員」を希望するのは未婚女性が多いという。若い女性の経済的な困窮が社会問題になっているが、今回の改正が実現すれば彼女たちにとって救いの手となる可能性がある。
ただ、この改正に対しては、派遣会社から「厳しすぎる」という声があがっており、識者から異論も出ている。労働問題に詳しい安西愈弁護士は、アドバンスニュースのインタビューで改正の効果を疑問視している。
仮に、3年が過ぎて次の派遣先が見つかったとしても、派遣元の有期雇用契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みがあれば労働契約法により「無期労働契約」に転換しなければならなくなる。これを避けるために派遣元が「5年経つ前に契約を打ち切ることになりかねません」と懸念を示す。
改正法が法案どおり可決成立するかどうかは分からない。しかし優秀な人材が正社員と同じ仕事をして会社に貢献しているのに、派遣社員という「身分」だけで差別され、低い給与で不安定な雇用に苦しんでいる現状は、何とか変えて欲しいものだ。
あわせてよみたい:有名IT企業「社食使っちゃダメ!」
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