無知はリスク!「ブラック企業経営者」が公言しがちな勘違い15選
日本の労働環境では、労働法を理解していない、あるいは都合よく解釈する経営者が少なくありません。このような誤解は、労働者の権利を侵害するだけでなく、企業自体が法的リスクにさらされる原因にもなります。
ブラック企業の経営者がよく陥る法律の誤解を整理し、その背景や法的リスク、そして正しい運用方法について解説します。労働法の重要性を再認識し、健全な労働環境を目指すヒントにしてください。
労働時間・残業に関する誤解
労働時間や残業に関する誤解は、労働者に直接的な負担を強いる深刻な問題です。
1.「店長には残業代を支払わなくていい」
「店長」という肩書がついていても、管理監督者に該当するかどうかは、業務内容や待遇によります。経営権がない、労働時間の裁量がない場合は、残業代を支払う義務があります。名ばかり管理職で残業代を支払わない行為は、未払い賃金として訴えられるリスクがあります。
2.「年俸制だから残業代の支払い義務はない」
年俸制を採用していても、労働基準法に基づく残業代支払いの義務は免除されません。企業が年俸制に含まれる残業代を曖昧にしている場合、詳細な内訳を示さないと違法となります。
3.「みなし労働時間制なら実際の労働時間に関係なく残業代は固定」
裁量労働制やみなし労働時間制の適用範囲は厳格に定められています。適用外の業務にこれを利用することは違法です。実際の労働時間が長時間に及んだ場合、残業代が追加で発生します。
4.「社員の同意があれば36協定を超える残業をさせてもよい」
社員の同意があっても、法定の労働時間を超える残業は認められません。特に上限規制を超えた労働を行わせた場合、企業には罰則が科される可能性があります。
賃金・給与に関する誤解
賃金に関する誤解は、労働者の生活基盤を直撃します。
5.「試用期間中は最低賃金以下の給与でもよい」
最低賃金法は試用期間にも適用され、これを下回る給与設定は違法です。試用期間を理由に法定基準を無視する企業は、労基署の調査対象となり罰則を受けるリスクがあります。
6.「研修期間中は無給でもよい」
労働契約の一環で行う研修には賃金が発生します。特にOJT形式の研修では、労働基準法の賃金支払い義務が適用されます。無給研修を実施することで、企業は法令違反に問われる可能性が高まります。
7.「ノルマ未達成の営業の給料は現物支給」
労働基準法では、基本的に賃金は現金で支払う義務があります。現物支給は労使協定の締結や特定の条件が必要です。ノルマ未達成を理由に現物支給を行うのは違法です。
8.「社員の同意があれば、給与を遅配してもよい」
給与の遅配は労働基準法違反です。社員の同意があっても原則として認められません。賃金遅配が続くと行政指導や訴訟リスクを招きます。
9.「仕事中に設備を壊した修理代は給料から天引き」
労働基準法第24条では、給与の天引きには労働者の同意が必要とされています。さらに、労働者が設備を損壊した場合でも、「労働者が故意または重大な過失で損壊した場合」「修理代が過大でなく、労働者の生活を圧迫しない範囲である」という条件を満たさない天引きは違法です。
休暇・休業に関する誤解
休暇・休業に関する誤解は、労働時間や残業と同様、労働者に負担を強いる問題です。
10.「パート社員には有給休暇の制度がなくていい」
雇用形態に関係なく、所定の労働日数を満たせば有給休暇は付与されます。これを拒否する企業は労基署の是正勧告対象となります。
11.「設備入れ替えによる休業時は無給でいい」
会社都合の休業では、労働基準法に基づき休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが義務付けられています。無給休業を強制する行為は違法です。
福利厚生に関する誤解
福利厚生に関する誤解は、モチベーションの大きな低下を招くだけでなく、違法状態を放置することにもなります。
12.「労災保険は正社員にしか適用されない」
労災保険は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。適用しないと企業側に過失責任が問われる可能性があります。
13.「パートタイマーには退職金を支払う必要がない」
退職金制度の適用有無は、労働契約や就業規則で規定されるものであり、一律に判断するのは誤りです。法律上、退職金の支払いは義務ではありませんが、同一企業で長期間働いているパート従業員に対しても正社員と同様に退職金制度を適用することは考えられます。同一労働同一賃金の観点から差別的な扱いとされないよう注意が必要です。
就業規則等に関する誤解
14.「社員10名中、正社員は2人なら就業規則は必要ない」
就業規則の作成義務は、雇用形態に関係なく常時10人以上の労働者を使用する事業所に適用されます。
15.「業務命令で転勤を拒否したら懲戒解雇できる」
転勤命令には正当な理由が必要です。個別事情を考慮しない解雇は裁判で無効とされるリスクがあります。
健全な労働環境の企業は伸びる
社会の価値観が多様化し、働き方改革が進む現代において、経営者の姿勢が企業の命運を左右すると言っても過言ではありません。労働法に関する誤解は、単なる違法行為だけでなく、企業経営そのもののリスクとなります。
労働法を正しく理解し、健全な労働環境を構築する企業は、従業員のモチベーションや生産性の向上を促し、結果として企業の成長につながります。労働法を「守るべきルール」から「企業を成長させるための資産」として捉え直すことが、ブラック企業を脱却し、次世代に選ばれる企業になるための第一歩です。
とはいえ、労働法の教育が不十分な環境では、正しい理解が不足している経営者が多いのも現状です。誤解を一つひとつ解消し、労働者が安心して働ける環境を整えることは、企業の持続的な発展を支える礎となります。