今さら聞けない過労死の怖さと予防策
長期間の過重労働やパワハラ、過度のプレッシャーが招く悲劇、それが過労死です。ブラック企業問題が広く認知されるようになった現在においても、過労死で亡くなってしまう人は後を絶ちません。最悪の結果を予防するためにも、過労死について改めて考えてみましょう。
そもそも過労死とは?
過労死の定義については統計資料や研究ごとに異なりますが、2014年11月に施行された「過労死等防止対策推進法」に基づくと、以下のように定義されます。
「業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡。もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」
具体的には「激務によって脳溢血や心筋こうそくを発症し、死亡してしまう」、「過重労働やプレッシャーなどによってうつ病などを発症し、自殺してしまう」などのケースが挙げられるでしょう。後者に関しては特に過労自殺と呼ばれることもあります。
過労死の実態
厚生労働省の調べによると、過重労働や仕事のストレスなどで過労死に追い込まれたとして労災認定された人は、2013年度で196人に上っています(自殺未遂を含む。第1回過労死等防止対策推進協議会の配布資料より)。
しかし、この数値はあくまでも「労災認定された人の数」です。つまり“過重労働や仕事のストレスと、本人の死亡に因果関係があると見なされた数”にすぎず、単なる突然死と見なされたケースや、遺族が労災申請しなかったケースなどは含まれません。実際、脳・心臓疾患による死亡で労災と認定された割合は2008年度~2012年度で40%~50%ほどですので、196人という数字は氷山の一角であり、実際には多くの人が過労死している可能性があると言えます。
過労死はなぜ怖いのか?
過労死と聞くと、休みたくても休めず、毎日ヘトヘトになるまで働いて、摩耗するように死んでしまう姿を思い描くかもしれません。もちろん、実際にそうした例もあります。しかし中には、「まだまだ働ける」と思っていた人がある日突然、死を迎えることもあるのです。これは一体どういうことなのでしょうか?
人間の体は疲労がたまると、脳から「眠りたい」、「休みたい」とシグナルが出ます。普通ならそこで睡眠・休息を取り、体を回復させるのですが、シグナルを無視して無理やり働き続けると、やがて脳が疲労を感じにくくなってしまいます。肉体的にはひどく疲れていても、その疲れを自覚できなくなるのです。疲労を感じ取る安全ストッパーが壊れてしまった状態と言ってもいいでしょう。
こうなると、本人の気づかぬ間に疲労は蓄積され、徐々に肉体をむしばんでいき、最終的には脳溢血や心筋こうそくといった突発的な死を迎えてしまうのです。「確かに長時間労働だけど、疲れは感じていないから大丈夫」という人ほど、過労死と隣り合わせであることをしっかり認識する必要があるでしょう。
過労死を予防するためには
過労死にはさまざまな要因が複雑に絡み合うため、「こうすれば過労死を避けられる」と断定することはできません。しかし、日ごろの心がけである程度、予防することは可能です。
長時間労働を避け、しっかり休息を取る
しっかり休息を取ることが過労死予防には第一です。毎日の適度な睡眠とバランスの良い食事を心がけましょう。残業は少ないに越したことはありませんが、1か月20日勤務のうち、月80時間を超す残業時間が続くと、要注意と言われています。
仕事中にコーヒーや栄養ドリンク、タバコの多用は避ける
コーヒーや栄養ドリンクに含まれるカフェインや、タバコに含まれるニコチンには覚せい作用があるため、多用すると疲労を感じ取りにくくなってしまいます。気分転換程度ならいいのですが、飲み過ぎたり吸い過ぎたりすると、知らぬ間に疲労が蓄積されやすくなる可能性があります。
頭痛や手足のしびれ、言語障害などの症状を見逃さない
吐き気やけいれんを伴う頭痛、手足のしびれ、言語障害(言葉が出なくなる、急にろれつが回らなくなる)などの症状は、くも膜下出血や脳出血、脳こうそくの前兆である可能性があります。もしこれらの症状が現れたら、すぐに専門医に相談しましょう。
家族や周囲の助言を大切にする
上記の通り、過労死する人の中には疲労を感じ取れなくなっている人も少なくありません。周囲から「顔色が悪いよ」、「疲れているんじゃない?」といった言葉をかけられたら、あなたが思う以上に疲労が体をむしばんでいる可能性があります。
仕事に責任感を持つことは大切ですが、それも健康的な心身があってこそです。ましてや、ブラック企業で命をかけてまで働き続ける価値はありません。大切な人を悲しませないためにも、そして自分自身のためにも、意識して過労死予防に取り組みましょう。