仕事に人生が支配される「全人格労働」の怖さと対策
近年、ブラック企業問題と関連して「全人格労働」という言葉が聞かれるようになってきました。全人格労働とは、読んで字のごとく、労働者の人格や人生のすべてを仕事に投入するような働き方を指します。この全人格労働の問題点と、それを防ぐためのポイントを考えてみましょう。
そもそも「全人格労働」とは?
仕事に対して、自分の全人生(余暇の時間や人間関係、家族、その他)や全人格を投入してしまうような働き方が「全人格労働」と呼ばれます。産業医である阿部眞雄氏の著書『快適職場のつくり方 イジメ、ストレス、メンタル不全をただす』の中で提唱され、日本における過重労働・長時間労働の背景にあるものとして注目されるようになりました。
本来、仕事は人生の一要素でしかありません。にもかかわらず「病気でも出社する」「ノルマのために商品を自腹買い取りする」「家族の葬式よりも仕事を優先させる」といった働き方をしてしまう……。このような働き方が、全人格労働に当たるでしょう。
全人格労働の問題点
この全人格労働の問題点は大きく2つあります。ひとつは健康への悪影響。24時間・365日、休む間もなく仕事にすべてをささげる働き方が、心身にいい影響を与えるはずもありません。もちろん、そうした働き方に耐えられるタフな人も一部にはいますが、ほとんどの人は、ある日、突然糸が切れるように過労・心労に倒れてしまいます。
2つめは、本人が全人格労働に気づきにくいという点。仕事に支配されている状態なので、「嫌だけど仕方ない」「みんながやっているから当たり前」と、無給労働や自腹買い取り、パワハラ・セクハラなどを受け入れてしまいやすいのです。そうして健康を害したり、家庭に深刻な危機を招いたりしたあとで、「仕事に人生を台無しにされた」と気づくものの、すべては後の祭り……。これが全人格労働の危険なところでしょう。
全人格労働におちいらないための考え方
「やりがい」や「夢」といった美辞麗句に惑わされると、どこにでもある中小企業の社員やアルバイトでさえも全人格労働の罠にはまってしまう可能性があります。全人格労働におちいらないために、以下のことを心にとどめておくことが大切です。
自分の人生は自分で決める
「正社員を辞めるくらいなら……」「定年まで勤めるのが当然」「仕事だから当たり前」……。そんな風に考えて、いつの間にか全人格労働にはまり込んでしまう人がいます。しかし、会社があなたの人生を保証してくれるわけではありません。仕事にすべてをささげた結果、あなたの人生が崩壊しても、責任を取ってくれないのです。会社の言い分、社会の風潮、他人の言葉に振り回されるのではなく、自分自身で自分の生き方・働き方をコントロールすることが重要です。
仕事は人生の一部でしかない
人生はさまざまな要素で成り立っています。人間関係や趣味、健康、お金、冠婚葬祭などどれも大切なものです。もちろん仕事も重要です。しかし仕事を他のすべての要素に優先させることで、あなたが幸福だと考える生き方が実現するのでしょうか? 仕事に何もかも投入する前に、しっかり考える必要があります。
あなたがいなくても会社は存続する
「休んだら会社に損害を与えてしまう」と思い込んで、破滅的な働き方を選んでしまうケースがしばしばあります。しかしスティーブ・ジョブス氏のようなスーパー経営者が亡くなっても、アップル社は存続しています。また、いざ経営難となれば、社員をリストラしてでも存続を図るのが会社というもの。「会社のため」といった理由で、人生のすべてを仕事に投じる義務はないのです。
家族や恋人、友人にとってあなたは1人しかいない
会社は、あなたが辞めても新入社員を雇えば済みます。しかし家族や恋人、友人にとって、あなたという人間は1人しかいません。子どもの運動会に参加する、恋人とデートする、友人と趣味を楽しむ……。こういったことを誰か別の人の代わってもらうことはできないのです。このことをしっかり肝に銘じておく必要があるでしょう。
>主体的に考え・動くことができない人ほど、全人格労働におちいってしまう危険性があります。「自分はどう働きたいのか」「どういう人生を送るのが、自分にとっての幸福なのか」などキャリアとライフプランをしっかり考える必要があるでしょう。