残業削減で営業部門を変える! 効果的な「働き方改革」の実践ポイント
近年、「働き方改革」という言葉が日本企業に浸透し、多くの企業が実現に向けて取り組んでいますが、営業部門においては業務の特性上、残業削減がなかなか難しいという認識が根強く残っています。
実際、「doda」の調査による「平均残業時間ランキング」(2024年1月公表)では、残業時間の多い職種TOP20に営業職が5つ(人材サービス/小売・外食/医療機器メーカー/専門商社/広告)入っています。
しかし、長時間労働を放置するリスクは大きく、人手不足の中での人材流出や生産性低下、企業イメージの低下や取引先の喪失すら招きかねません。会社および管理職は効果的な残業削減を実行すべきです。
外部サイト:転職・求人doda(デューダ) | 平均残業時間ランキング【最新版】【91職種別】
「営業職の残業問題」の根深い原因を探る
「営業は夜遅くまで働くもの」――。こうした固定観念が、いまだに多くの企業に根付いているのが現状です。営業職の残業が多い理由を、掘り下げて考えてみましょう。
1.不規則な顧客対応
営業職の最大の特徴は、顧客との直接的なやり取りにあります。顧客の都合に合わせた商談設定、急な問い合わせへの対応、アポイントの変更など、予定外の業務が発生しやすい環境にあり、これが労働時間の管理を難しくしている大きな要因となっています。
2.数値目標達成へのプレッシャー
営業部門には具体的な数値目標が設定されており、月末や四半期末に向けて目標達成のプレッシャーが高まることで、必然的に労働時間が延びてしまいがちです。目標達成に向けて「頑張っている姿」を上司や同僚に示すために、意図的に残業する社員も少なくありません。
3.属人的な業務の集中
優秀な営業マンほど、特定の顧客や案件を一手に引き受けるケースが多く見られます。こうした属人的な業務の集中は、その社員の残業を増やすだけでなく、チーム全体の業務効率を低下させる要因ともなっています。
4.非効率な商談・移動時間
対面での商談を重視するあまり、長時間の移動や待ち時間が発生し、業務効率を著しく下げているケースも多々あります。特に地方都市や遠隔地への出張では、移動時間が労働時間の大きな部分を占めてしまいます。
5.アナログな業務プロセス
紙ベースの報告書作成や手作業での顧客情報管理を、いまだに続けている企業もあります。こうしたアナログな業務プロセスが、作業の重複や非効率を生み出し、残業の原因となっています。
長時間労働がもたらすリスク
社員の長時間労働を放置することは、企業にとって多面的かつ重大なリスクとなります。
1.人材面のリスク
長時間労働は従業員の健康を害し、生産性の低下を招きます。集中力や創造性が低下し、業務の質が落ち、従業員の疲労蓄積によりミスや事故のリスクが高まります。過労やストレスが増えることで、病気やメンタルヘルスの問題が発生しやすくなります。優秀な人材の流出にもつながりかねません。
2.法的リスク
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が厳格化されました。上限の原則は「月45時間、年360時間」で、臨時的な特別な事情がある場合でも「年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)」を超えてはなりません。
これに違反した場合、法人(企業)には罰金刑が科されます。また、違反行為を行った経営者や管理職個人も、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金といった罰則の対象となる可能性があります。
さらに、労働基準監督署による立ち入り調査や是正勧告を受ける可能性があり、対応に多大な時間と労力を要する場合があります。
3.経済的リスク
長時間労働は、残業手当や医療費、労働争議に関連するコストを増加させます。従業員の健康問題や、離職に伴う採用・訓練コストも考慮すると、企業の財務状況に大きな負担をかけることになります。
さらに、労働基準法違反による罰金や、従業員の健康障害や過労死が発生した場合の訴訟費用、高額な損害賠償金の支払いリスクがあります。
4.ビジネスチャンス喪失のリスク
「ブラック企業」というレッテルを貼られれば、新たな人材の確保も困難になるでしょう。SNSなどを通じて長時間労働の実態が拡散されると、企業イメージが著しく低下する可能性があります。これにより、顧客や取引先からの信頼を失い、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。
5.生産性や士気低下のリスク
長時間労働が常態化すると、健全な企業文化が育たず、社内の士気が低下します。社員が長時間労働に耐えなければならないという風潮が広がれば、全体的なモチベーションや生産性が低下する可能性があります。
さらに、イノベーションが阻害され、新しいアイデアやプロジェクトの成功が妨げられることがあります。
これら5つのリスクは相互に関連しており、一つのリスクが顕在化すると連鎖的に他のリスクも高まる可能性があります。そのため、長時間労働の問題は企業経営における重要課題として、適切に管理・対策を講じる必要があります。
「営業職の残業削減」の効果的な方策
これらの問題をどのように解決し、残業を削減していけばよいのでしょうか。ここでは、効果的な方策を詳しく見ていきます。
1.業務プロセスの徹底的な見直し
まずは「現在の業務プロセス」を徹底的に分析して見直しましょう。例えば、1週間のタイムログを取り、各業務にかかる時間を可視化することで、時間がかかっている業務や、逆に短時間で済ませられる業務が明確になります。
そして、それぞれの業務の必要性を再検討し、廃止できるものは廃止、効率化できるものは効率化するという形で、プロセス全体の最適化を図ります。
2.デジタルツールの積極的活用
業務効率化の大きな武器となるのが、デジタルツールの活用です。
CRM(顧客関係管理)システムを活用することで、顧客情報の一元管理が可能になります。商談履歴、顧客のニーズ、過去の購買情報などを簡単に参照できるようになれば、商談の準備時間を大幅に削減できます。
SFA(営業支援)ツールは、営業活動のプロセス管理を支援します。商談の進捗状況や予測売上などをリアルタイムで把握でき、上司や同僚との情報共有も容易になります。これにより、報告書作成などの事務作業時間を削減できます。
3.オンライン商談の積極的活用
新型コロナウイルスの影響で一気に普及したオンライン商談ですが、これを積極的に活用することで、移動時間の大幅な削減が可能です。特に、初回の商談や簡単な打ち合わせなどは、オンラインで済ませることができるはずです。
なお、オンライン商談には適切なスキルが必要になります。画面越しでも顧客との良好な関係を構築する方法や、効果的なプレゼンテーション技術などについて、社員教育を行うことが重要です。
4.適切な人員配置と業務分担
特定の社員に業務が集中しないよう、チーム全体でノウハウを共有し、フォローし合える体制を整えることが重要です。ベテラン社員と若手社員のペア制を導入したり、定期的なローテーションを行ったりすることで、業務の偏りを解消できます。
また、各社員の強みや弱みを把握し、それに応じた業務分担を行うことで、チーム全体の生産性を向上させることができます。
5.目標設定と評価基準の見直し
単純な「売上高」や「商談回数」だけでなく、「顧客満足度」や「生産性」なども評価指標に加えることで、より効率的な働き方を促進できます。
例えば、「1時間あたりの売上」や「顧客1社あたりの利益率」といった指標を導入することで、売上高の絶対額のために長時間働くのではなく、効率的に成果を上げることの重要性を社員に意識させることができます。
6.テレワークの導入
「在宅勤務」や「サテライトオフィス」といったテレワークを活用すると、移動時間の削減だけでなく、(カフェなどではない)集中して作業できる環境を提供することで、生産性の向上にもつながります。
なお、テレワークの導入に際しては、適切な業務管理システムの導入や、コミュニケーションツールの活用など、新たな仕組み作りが必要となります。
真の「働き方改革」を目指して
営業職における残業削減は、決して容易ではありませんが、避けて通ることのできない重要な課題でもあります。重要なのは、残業時間を減らすだけではなく、従業員一人ひとりがいきいきと働き、企業の持続的な成長につながる環境を作ることにあります。
残業削減に成功すれば、従業員のワークライフバランスが向上します。仕事以外の時間が増えることで、自己啓発や家族との時間、趣味の充実が図れます。これは個人の満足度を高めるだけでなく、新たな発想や創造性の源泉ともなり得ます。
企業にとっても、従業員の生産性向上により、集中力が高まり、限られた時間でより質の高い仕事ができるようになるのです。また、残業代の削減によるコスト低減や、「働きやすい会社」としての評判向上による優秀な人材の確保にもつながります。
残業削減を通じて、営業部門の働き方を根本から見直し、限られた人材を、より創造的で価値の高い仕事にシフトしていく。そんな真の働き方改革を実現することで、企業の競争力強化にもつながるはずです。