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    「行政DX」を支える公共・自治体システムエンジニアへの転職ガイド

    「行政DX」を支える公共・自治体システムエンジニアへの転職ガイド

    デジタル庁の設立や自治体DX推進計画の加速により、行政のデジタル化が急速に進んでいます。この流れを支える重要な役割を担うのが「公共・自治体向けシステムエンジニア」です。一般企業向けのSEとは異なる知識や経験が求められるこの分野は、安定性と社会貢献を両立できるキャリアとして注目を集めています。

    今回は、「行政DX」を支える公共・自治体システムエンジニアという職種の特徴や、この分野への転職に必要な知識・スキル、そして転職活動のポイントについて解説します。民間企業での経験を活かしながら、社会インフラを支える仕事へのキャリアチェンジを考えている方に向けた情報をお届けします。

    公共・自治体システムエンジニアの仕事とは

    公共・自治体分野のシステムエンジニアは、住民サービスを支える重要なITインフラの設計・開発・運用を担う専門家です。

    1. 公共・自治体システムエンジニアの基本的な役割と魅力

    公共・自治体システムエンジニアは、「住民基本台帳」や「税務システム」「福祉システム」といった、住民の生活に直結するシステムの構築・運用を担当します。これらのシステムは国の法制度に基づいて設計され、数十万から数百万人の住民データを扱うことも珍しくありません。民間システムと比較して、高い信頼性と安定性が求められる点が特徴です。

    また、行政DXの推進により、従来の「基幹系システム」だけでなく、「オンライン申請システム」や「行政データの分析基盤」など、新たな領域の開発需要も高まっています。住民サービス向上や自治体業務効率化に直接貢献できる点は、大きなやりがいとなります。

    2. 行政システムの特徴と民間システムとの違い

    公共・自治体システムには、民間システムとは異なる特徴があります。

    まず、法改正に伴うシステム改修が定期的に発生するため、継続的な保守・運用案件が多い点があげられます。また、自治体によって業務プロセスや要件が微妙に異なるため、カスタマイズ性の高さも求められます。

    調達方法も特徴的で、多くの場合は公募型のプロポーザルや入札によって発注先が決定します。このため、提案書作成能力や公共調達の知識も重要になります。さらに、システム更新サイクルが5〜7年と長く、古いシステムとの連携や移行対応も求められます。

    3. 求められるスキルと適性

    公共・自治体システムエンジニアに求められるスキルは多岐にわたります。技術面では、基幹系システムを支えるJava、.NET、COBOLなどのスキルに加え、最近ではクラウド環境の構築・運用スキルも重視されています。

    しかし、最も重要なのは「行政業務に対する理解力」です。住民基本台帳法や地方税法などの行政関連法規の知識、自治体の業務フローへの理解があることで、適切なシステム提案や設計が可能になります。また、様々な利害関係者(住民、自治体職員、ベンダー企業など)との円滑なコミュニケーション能力も不可欠です。

    長期的な視点でシステムを設計・運用する姿勢や、「住民サービス向上」という明確な目的意識を持てる人材が、この分野では高く評価されます。

    行政DXの現状と市場需要

    行政のデジタル化は国を挙げての重要課題となり、システムエンジニアの需要が高まっています。

    1. デジタル庁設立と自治体DX推進計画の概要

    2021年9月のデジタル庁設立以降、行政のデジタル化は加速しています。特に「自治体DX推進計画」では、2025年度までに自治体の基幹系17業務システムの標準化・共通化を目指しており、これに伴う大規模なシステム刷新が全国で進められています。

    また、マイナンバーカードの普及促進と活用拡大、行政手続のオンライン化、自治体の業務効率化などが重点項目として設定されています。こうした国主導の施策により、多くの自治体で同時並行的にシステム改革が進んでいる状況です。

    2. 拡大する公共ITシステム市場の現状

    行政DX関連のIT投資は近年拡大傾向にあり、市場は着実に成長しています。特に注目されるのは、従来型の基幹系システム更新だけでなく、データ連携基盤構築やAI活用、RPAによる業務自動化など、新たな技術領域への投資が拡大している点です。

    市場拡大の主な要因としては、(1) 自治体システム標準化・共通化に向けた刷新、(2) 行政手続きのオンライン化対応、(3) セキュリティ強化対策、(4) 既存システムのクラウド移行、(5) データ活用基盤整備などが挙げられます。

    3. 今後5年間で求められる技術者の規模と特性

    行政DX推進に伴い、公共・自治体分野のIT人材需要は今後数年間で大きく拡大すると見込まれています。特に需要が高まっているのは、自治体の業務知識を持ちながらクラウド環境の設計・構築ができるエンジニアです。

    また、「標準化・共通化」の流れにより、パッケージシステムのカスタマイズやシステム間連携の技術が重視されています。さらに、公共・自治体特有の調達プロセスや制度知識を持つプロジェクトマネージャーの不足も深刻で、こうした人材は市場価値が高まっています。

    民間企業での経験を持つエンジニアが公共分野に転身するケースも増えており、特にデータ分析やクラウド技術など、最新技術の知見を持つ人材は歓迎される傾向にあります。

    公共・自治体特化型のITスキルと知識

    公共・自治体分野で活躍するには、特有のシステムや業務プロセスへの理解が必要です。

    1. 住民情報系システムの基礎知識

    「住民情報系システム」は、自治体の基幹業務を支える根幹のシステムです。住民基本台帳システム、税務システム、国民健康保険システム、介護保険システムなどが含まれます。これらは住民の生活に直結するため、高い安定性と正確性が求められます。

    特に重要なのは、「住民記録」を中心としたデータ連携の仕組みです。例えば、住民の転入・転出情報は、税や福祉など他システムとも連動するため、整合性のあるデータ設計が不可欠です。また、年金・医療・福祉といった国の制度と密接に関わるため、制度改正に伴うシステム改修も定期的に発生します。

    住民情報系システムのパッケージソフトとしては、GPRIME、ADWORLD、e-SUITE、REVERなどが多くの自治体で採用されています。これらのパッケージに関する知識や経験があれば、転職時に強みとなります。

    2. 行政手続きオンライン化対応の実務

    デジタル手続法の施行により、自治体の行政手続きのオンライン化が急速に進んでいます。特に子育て・介護関連の手続きや、各種証明書の発行申請などが優先的にオンライン化されています。

    オンライン化の実務では、マイナポータルと自治体システムの連携設計が重要です。「ぴったりサービス」と呼ばれるマイナポータルの電子申請機能と、自治体の基幹系システムをAPI連携させる技術が求められます。また、電子署名や本人確認の仕組み、セキュリティ対策なども重要な要素です。

    実装面では、自治体ごとに申請様式や審査フローが異なるため、柔軟にカスタマイズできるワークフローエンジンの設計・構築スキルが評価されます。また、住民向けUIの使いやすさも重視されるため、UX設計の知識も役立ちます。

    3. 自治体クラウド導入・運用の技術要件

    「自治体クラウド」は、複数の自治体が共同でクラウド環境を利用することで、コスト削減と業務効率化を図る取り組みです。国も推進しており、導入自治体は年々増加しています。

    技術面では、AWS、Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウドや、LGWAN対応のクラウドサービスの知識が求められます。特に重要なのは、自治体特有のセキュリティ要件(LGWAN接続系とインターネット接続系の分離など)に対応したネットワーク設計です。

    また、複数自治体での共同利用を前提としたマルチテナント構成や、災害時の業務継続を保証するBCP対策なども重要な要素です。クラウド移行においては、レガシーシステムからのデータ移行や、既存システムとの連携設計のスキルも必要となります。

    4. 行政システム特有の調達・開発プロセス

    公共・自治体システムの開発では、民間とは異なる独特の調達・開発プロセスがあります。

    多くの場合、RFI(情報提供依頼)→RFP(提案依頼)→プロポーザル評価→契約という流れで進みます。大規模案件では、「基本計画策定」「調達支援」「設計・開発」「運用保守」などの工程が別々に発注されることも多いです。

    また、調達方式には「総合評価方式」「プロポーザル方式」「一般競争入札」などがあり、それぞれに対応した提案書や見積書の作成スキルが求められます。特に総合評価方式では、技術点と価格点のバランスが重要で、コストパフォーマンスの高い提案が評価されます。

    開発プロセスでは、「SLCP-JCF」(共通フレーム)に準拠した工程管理や、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に基づいたセキュリティ対策の実施も求められます。こうした公共特有のプロセスや標準への理解があることで、プロジェクト成功の確率が高まります。

    公共・自治体SE市場の企業と仕事

    公共・自治体システムに関わる企業は様々あり、それぞれに特徴があります。

    1. 大手SIerの公共部門の特徴と案件傾向

    大手SIer(NTTデータ、富士通、日立製作所など)の公共部門は、中央省庁や大規模自治体のプロジェクトを多く手がけています。全国規模の基幹系システムや、複数自治体に展開するクラウドサービスなど、大規模案件が中心です。

    案件の特徴としては、長期的な運用保守を含む数十億円規模のプロジェクトが多く、安定した受注基盤を持っています。また、自社開発のパッケージ製品を持つ企業も多く、パッケージのカスタマイズや機能拡張の案件も豊富です。

    大手SIerでは、プロジェクトごとに専門チームが編成され、上流工程(要件定義、設計)から下流工程(開発、テスト)、運用まで一貫して担当することがあります。キャリアパスとしては、特定業務(税務、福祉など)の専門家になるか、PM/PMOとしてのキャリアを積むパターンが一般的です。

    2. 地域密着型の中堅IT企業の業務内容

    地域に根ざした中堅IT企業は、地方自治体との強いリレーションを活かした案件を多く持っています。都道府県庁所在地などを拠点に、周辺自治体のシステム開発・保守を担当するケースが多いです。

    業務内容としては、住民情報系システムの導入支援や運用保守、自治体職員向けのヘルプデスク業務などが中心です。大手SIerの下請けとして参画するケースもありますが、地元自治体と直接契約を結ぶ元請け案件も増えています。

    地域密着型企業の強みは、自治体との距離の近さです。担当者と日常的に顔を合わせることで信頼関係を構築し、小規模な改修案件などを継続的に受注するビジネスモデルが特徴です。働き方としては、特定の自治体を長期担当することで業務知識を深め、自治体職員とのコミュニケーションを重視する傾向があります。

    3. 官公庁・自治体の内部SEの役割と実態

    近年、ITガバナンス強化のため、自治体が内部SEを採用するケースが増えています。CIO補佐官や情報政策課などのポジションで、ベンダーマネジメントや情報戦略策定を担当します。

    内部SEの主な役割は、(1) 情報システム全体の企画・調整、(2) 調達仕様書の作成・評価、(3) ベンダー管理、(4) セキュリティポリシー策定・運用などです。実装はベンダーに任せつつ、自治体側の要求を適切に伝える「橋渡し役」としての機能を果たします。

    採用形態としては、「任期付き職員」として民間から登用されるケースと、「プロパー職員」として採用されるケースがあります。いずれも民間企業での開発経験やプロジェクト管理経験が評価されます。働き方としては、一般の公務員と同様の勤務体系で、安定性は高いものの、給与水準は民間より低めに設定されていることが多いです。

    4. 公共分野で評価される資格とスキル

    公共・自治体分野では、技術力だけでなく、公共特有の知識や資格も評価されます。特に公的資格として重視されるのは、「ITパスポート」「基本情報技術者」「応用情報技術者」などの情報処理技術者試験です。上流工程を担当する場合は「プロジェクトマネージャ」「システムアーキテクト」などの高度区分も有利になります。

    また、「ITIL Foundation」などのITサービスマネジメント関連資格も、運用保守フェーズでは重宝されます。セキュリティ面では「情報セキュリティマネジメント試験」「情報セキュリティスペシャリスト」なども評価されます。

    技術スキルとしては、Java、.NET、SQLなどの基本スキルに加え、最近ではクラウド環境(AWS、Azure)の構築・運用経験や、データ連携基盤の設計経験なども重視されています。特にAPI連携やマイクロサービス設計の知識は、システム間連携が多い公共分野で価値が高まっています。

    公共・自治体SEへの転職を成功させるために

    公共・自治体分野への転職は、準備次第で大きな可能性が広がります。

    1. 民間企業の経験を公共分野で活かす方法

    民間企業での経験は、適切にアピールすれば公共分野でも大きな強みになります。

    例えば、金融系システム開発の経験があれば、「データの正確性や整合性を重視する姿勢」「法令対応の経験」などをアピールポイントにできます。また、ECサイト開発経験があれば、「ユーザビリティ設計のノウハウ」「大量アクセス時の性能対策」などが行政サービスのオンライン化に活かせます。

    重要なのは、公共分野特有の課題や要件に対して、民間での経験をどう応用できるかを具体的に示すことです。例えば「民間で培ったアジャイル開発の手法を、行政システムの段階的リリースに応用できる」といった形で、自分の強みと公共分野のニーズを結びつけましょう。

    また、未経験の部分は率直に認めつつも、学習意欲と適応力をアピールすることも大切です。公共分野は専門性が高いですが、基本的なシステム開発の原則は民間と共通している部分も多いことを意識しましょう。

    2. 採用担当者が重視する経験・スキル

    公共・自治体SEの採用担当者は、技術スキルだけでなく、以下のような点も重視する傾向があります。

    公共システムの開発では、ITに詳しくない自治体職員や住民にも理解できるよう説明する機会が多く、複雑な内容を分かりやすく伝える「コミュニケーション能力」が求められます。

    公共システムは5〜7年という長期運用が前提のため、将来の拡張性や保守性を考慮した「長期的な視点でのシステム設計能力」が評価されます。

    さらに、「公共分野への理解や関心も採用ポイント」になります。なぜ公共分野に興味を持ったのか、どのように社会貢献したいと考えているか、といった質問に対して、自分なりの考えを持っていることが大切です。

    技術面では、Java、.NET、SQLなどの基本スキルに加え、最近ではクラウド環境の構築経験やデータ連携の設計経験も重視されています。

    3. 転職後のキャリアパスと成長機会

    公共・自治体SEとしてのキャリアパスには、いくつかの方向性があります。

    技術専門家としての道:特定の業務領域(税務、福祉など)や技術領域(クラウド基盤、データ連携など)のスペシャリストとなり、難易度の高いプロジェクトを担当していきます。こうした専門性は市場価値が高く、複数の企業から声がかかることも珍しくありません。

    プロジェクトマネージャーとしての道:公共分野のプロジェクトは規模が大きく、多くの関係者との調整が必要なため、経験豊富なPMの需要は常に高い状態です。PMとしての実績を積めば、より大規模なプロジェクトを任されるようになります。

    コンサルタントとして自治体のDX推進を支援する道:技術と業務の両面に精通したコンサルタントは、調達支援やRFP作成支援などで重宝されます。

    公共分野は、技術の新陳代謝が比較的緩やかですが、近年はクラウド化やデータ活用など新しい技術領域も広がっており、継続的な学習が重要です。業界団体のセミナーや自治体向けの展示会などに参加することで、最新動向をキャッチアップできます。

    社会を支える技術者としての新たな一歩

    行政DXが国家戦略として推進される中、公共・自治体システムエンジニアの役割は今後さらに重要になります。この分野では技術力に加え、行政サービスへの理解や住民視点での発想が求められます。

    特に自治体システムの標準化・共通化が進む今こそ、民間企業で培った効率的な開発手法や最新技術の知見が活きる場面が増えています。転職では、公共分野特有の知識を補いながら、これまでのキャリアで得た技術力や問題解決能力をアピールすることが成功のカギです。

    公共・自治体SEの魅力は、社会インフラを直接支える責任とやりがいにあります。住民サービスの向上や行政の効率化に貢献する実感は、他の分野では得られない大きな満足感につながるでしょう。

    また、法改正に伴う定期的なシステム改修需要があるため、景気変動に左右されにくい安定性も特徴です。オンライン化、クラウド化、データ活用と、新たな技術チャレンジの機会も豊富にあります。

     

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