働きながら新しい職場選び ITエンジニアの「在職中の転職活動」の留意点
転職を考えるITエンジニアにとって、現職を続けながらの転職活動は、収入を保ちつつキャリアアップを図る実践的な選択です。しかし、日常業務と並行して転職活動を進めるには、効率的な時間管理と適切な準備が欠かせません。
在職中の転職活動は慎重さと計画性が求められますが、適切に進めることで理想的な転職先を見つける可能性が高まります。今回は、ITエンジニアが在職中に転職活動を進める際の具体的な留意点とスケジュール管理のコツについて解説します。
記事の目次
なぜ在職中に転職活動をすべきか?
在職中に転職活動を行うメリットは複数あります。特にITエンジニアにとって重要なポイントを見ていきましょう。
1. 選択肢を冷静に比較できる
現在の収入が確保されている状態では、焦りなく転職先を選べます。すでに退職してしまうと生活面での不安から、本来なら選ばなかった条件の会社にも妥協してしまうことがあります。
ITエンジニアの場合、技術スタックや開発手法、チーム構成など、長期的なキャリア形成に影響する要素を慎重に見極めることが大切です。在職中なら複数の企業を比較検討し、自分の希望に最も合った環境を選べます。
2. 市場価値を正確に測れる
転職市場での自分の評価は、実際に応募してみないとわかりません。在職中に転職活動をすることで、現在の市場価値を客観的に知ることができます。
特にIT業界は技術トレンドの変化が早く、数年前に習得したスキルの価値が下がっていることもあります。面接官からのフィードバックや提示される条件を通じて、自分のスキルセットの強みや弱みが明確になるでしょう。
3. 現職でのスキルアップにも活かせる
転職活動を通じて知った市場のニーズは、現職でのスキルアップ計画にも活かせます。求人情報や面接での質問から、今後需要が高まる技術やスキルを把握できるからです。
例えば、多くの企業がクラウドネイティブな開発環境を求めていることがわかれば、現職でもそうした技術に触れる機会を積極的に作ることで、将来的な転職の選択肢を広げられます。
4. 転職後のギャップを最小化できる
在職中の転職活動では、現職と次の職場の間に空白期間が生じにくいため、収入面での不安が少なくなります。特に住宅ローンやその他の固定費が多い場合、この点は大きなメリットです。
また、IT業界では技術の進化が早いため、長期間の空白期間があると最新技術への対応力に不安を持たれることもあります。在職中の転職活動なら、そうした心配も軽減できるでしょう。
転職活動の事前準備を整える
転職活動を始める前に、自己分析とスキル棚卸しを行い、転職市場での自分の立ち位置を把握しましょう。
1. 自分のスキルと市場価値を見極める
ITエンジニアとして転職を考える際、まず自分の持つ技術スキルを客観的に評価することから始めましょう。プログラミング言語、フレームワーク、インフラ構築、クラウド環境などの技術要素ごとに熟練度を整理します。
特に転職市場で求められている言語やツールのスキルがあれば、それを強みとして押し出せるよう準備しておきましょう。例えば、現在ではクラウド技術やコンテナ技術、CI/CDの知識などが多くの企業で求められています。
また、技術だけでなく、チームでの役割や貢献、コミュニケーション能力なども転職先で評価されるポイントです。これまでのプロジェクトでどのような役割を担い、どんな課題を解決してきたかを具体的なエピソードとして整理しておきましょう。
2. 転職サイトとエージェントを活用する
ITエンジニア向けの転職サイトやエージェントは数多く存在します。複数のサービスに登録することで、より多くの求人情報にアクセスできます。
エンジニア特化型の転職サイトでは、技術スタックで求人を絞り込めるため、自分のスキルセットに合った求人を効率よく見つけられます。一方、転職エージェントを利用すれば、非公開求人の紹介や、面接日程の調整、給与交渉などをサポートしてもらえるメリットがあります。
在職中の転職活動ではエージェントの活用が特に有効です。自分の希望条件を明確に伝え、効率的に企業を紹介してもらいましょう。また、エージェントとの面談は平日夜間や週末に設定できることが多いため、現職への影響を最小限に抑えられます。
3. ポートフォリオとGitHubを整備する
ITエンジニアの転職において、実際のコード作成能力や成果物を示すポートフォリオは強力なアピールツールになります。特に未経験の技術領域へのキャリアチェンジを考えている場合、個人開発の成果が採用判断の重要な材料となります。
GitHubのアカウントを整備し、自分の得意とする言語やフレームワークでのコーディング例を公開しておくと良いでしょう。完成度の高いプログラムだけでなく、コードの可読性や命名規則、コメントの書き方なども採用担当者のチェックポイントです。
オープンソースプロジェクトへの貢献歴があれば、それも大きなアピールポイントになります。コントリビューションの内容や、そこで学んだことをまとめておくと、技術面接での話題にもなります。
効率的な転職活動スケジュールを設計する
限られた時間の中で最大の効果を得るため、計画的なスケジュール設計が重要です。
1. 時間を確保し優先順位を決める
在職中の転職活動では、限られた時間を有効活用することが成功の鍵です。まずは週単位でどの程度の時間を転職活動に充てられるか見積もりましょう。平日の夜間2時間、週末の午前中など、定期的に確保できる時間帯を決めておくことで、継続的な活動が可能になります。
優先順位を明確にすることも重要です。応募したい企業をA・B・Cランクに分け、Aランク企業の応募準備から始めましょう。また、企業研究、応募書類作成、面接準備など、タスクごとに時間配分を決めておくと効率的に進められます。
転職サイトのスカウト機能やレコメンド機能も活用し、自分に合った求人情報を効率よく収集しましょう。膨大な情報に振り回されず、自分の基準に合った企業選びを心がけることが大切です。
2. 応募企業を絞り込み調査する
転職先を選ぶ際は、企業数を絞り込むことが重要です。在職中は時間が限られているため、すべての企業に同じエネルギーを注ぐことはできません。最初は5~10社程度に絞り込むことをおすすめします。
企業調査では、公式サイトだけでなく、技術ブログやGitHub、エンジニア向けのコミュニティサイトなども確認しましょう。どのような技術スタックを採用しているか、エンジニアの働き方や文化はどうかなど、実務に直結する情報を収集します。
また、その企業で働くエンジニアのブログや講演資料なども参考になります。特に中小企業やスタートアップでは、CTOやリードエンジニアの発信から企業の技術への姿勢や課題が見えてくることも多いです。
3. オンライン面接とオフライン面接を使い分ける
近年はオンライン面接が一般的になり、在職中の転職活動がしやすくなりました。特に一次面接や技術面接はオンラインで対応できる企業が増えています。
オンライン面接は移動時間が不要なため、昼休みや業務終了後の短い時間枠でも調整しやすいメリットがあります。一方、最終面接など重要な場面ではオフライン面接が必要なケースも多いため、有給休暇を活用する計画を立てておきましょう。
面接スケジュールを立てる際は、同じ日に複数の面接を詰め込みすぎないよう注意が必要です。特に技術面接は頭脳を使うため、十分な間隔をとって予定を組むことをおすすめします。また、面接日の前日は十分な休息を取り、万全の状態で臨めるようにしましょう。
日常業務と転職活動を両立させる
現職のパフォーマンスを維持しながら転職活動を進めるための工夫を紹介します。
1. 業務時間内の連絡対応
在職中の転職活動で最も難しいのが、平日の日中に来る連絡への対応です。特に転職エージェントや採用担当者からの電話連絡は、適切に対応する必要があります。
まず、可能な限りメールやチャットでのやり取りを希望しておきましょう。電話よりも自分のタイミングで返信できるため、業務への影響を最小限に抑えられます。電話連絡が必要な場合は、昼休みや業務終了後の時間帯を伝えておくと良いでしょう。
緊急の連絡に備えて、短時間なら電話に出られる場所(会議室や休憩スペースなど)を事前に確認しておくことも大切です。ただし、現職の業務中に長時間の電話をすることは避け、必要に応じて「今は話せないので、○時以降にお電話いただけますか」と伝える勇気も必要です。
2. 休暇取得のタイミングと理由
面接のために休暇を取得する場合、いくつかのポイントに注意が必要です。まず、突発的な休みが続くと転職活動を疑われる可能性があるため、計画的に休暇を取得しましょう。
可能な限り、複数の面接を同じ日に調整することで、休暇取得回数を減らす工夫も有効です。また、半休を活用すれば、午前または午後のみの面接に対応できます。
休暇理由については、詳細を聞かれても必要以上に説明する必要はありません。ただし、職場の状況によっては、重要な会議やデプロイの日を避けるなど、チームへの配慮も大切です。
面接対応と技術力アピールのポイント
ITエンジニアならではの面接準備と、自身の技術力を効果的に伝える方法について解説します。
1. 技術面接に備える
ITエンジニアの面接では、技術面接が重要なステップとなります。転職先企業の技術スタックに合わせた準備が必要です。
まずは求人情報から必要とされる技術要素を洗い出し、自分の知識やスキルに不足がある部分は事前に学習しておきましょう。基本的なアルゴリズムやデータ構造の知識、サーバーサイドやフロントエンドの基礎知識なども確認しておくと安心です。
また、過去のプロジェクトでの技術選定理由や課題解決方法について、わかりやすく説明できるよう準備しておくことも重要です。「なぜその技術を選んだのか」「どのような代替案を検討したか」など、意思決定プロセスを説明できると好印象を与えます。
2. 実務経験と成果を具体的に説明する
面接では、単に「○○の開発経験があります」という抽象的な説明ではなく、具体的なプロジェクト内容と自分の貢献を伝えることが重要です。
STAR法(Situation, Task, Action, Result)を活用し、「どのような状況で」「何をする必要があり」「どう行動し」「どんな結果をもたらしたか」という流れで説明すると、より伝わりやすくなります。
例えば、「レガシーシステムのリファクタリングを担当し、テストカバレッジを20%から80%に向上させた結果、バグ発生率が半減した」といった具体的な成果を示せると説得力が増します。数値化できる実績があれば、積極的に伝えましょう。
3. リモート技術面接で印象をアップさせる
オンライン面接特有の注意点もあります。まず、安定したネット環境と適切な機材(カメラ、マイク)を用意しましょう。背景は整理されたシンプルなものが望ましく、事前に画面共有の設定も確認しておくことが大切です。
技術面接ではコーディングテストが行われることも多いため、画面共有で自分のコードを見せる準備もしておきましょう。エディタの設定やフォントサイズなど、相手にとって見やすい環境を整えておくことも重要です。
また、対面と違いボディランゲージが伝わりにくいため、質問への理解を示す相槌や、考えている間も「今、○○について考えています」と声に出すなど、積極的なコミュニケーションを心がけましょう。
内定から退職までのスムーズな移行
内定を獲得した後の現職との関係性維持と、円満退職のためのステップを確認しましょう。
1. 内定条件を確認し交渉する
内定をもらったら、給与や待遇、入社日などの条件を細かく確認しましょう。特に年収構成(基本給、賞与、手当など)やストックオプションなどの詳細は、書面できちんと確認することが重要です。
条件交渉は転職のタイミングで行うのが最も効果的です。市場価値や自分のスキルセットを考慮し、必要に応じて交渉することも検討しましょう。ただし、交渉する場合は無理な要求ではなく、根拠を持って提案することが大切です。
また、入社日については現職の引き継ぎ期間も考慮し、無理のないスケジュールを調整しましょう。プロジェクトの節目に合わせると、現職にも配慮した退職が可能になります。
2. 退職時期を決定し引き継ぎ計画を立てる
内定先との入社日が決まったら、退職時期を決定し、引き継ぎ計画を立てましょう。一般的には退職の1ヶ月前には申し出るのがマナーです。
引き継ぎについては、担当業務のドキュメント作成や、後任者への説明時間の確保など、計画的に進める必要があります。特にITエンジニアの場合、システムの構成や特殊な設定、トラブル対応の知見など、暗黙知も多いため、丁寧な引き継ぎが求められます。
プロジェクト途中での退職となる場合は、自分の担当部分をできるだけ完結させるか、後任が引き継ぎやすい状態にしておくことが大切です。コードのコメントを充実させるなど、退職後も迷惑をかけない配慮が重要です。
3. 人間関係を損なわない退職の伝え方
退職の意思を伝える際は、まず直属の上司に対面で伝えるのが基本です。その際、転職理由を前向きに伝えることがポイントです。「新しい技術を学びたい」「より専門性を高めたい」など、建設的な理由を準備しておきましょう。
引き継ぎについては積極的に協力する姿勢を示し、退職までの間も業務に真摯に取り組む姿勢が大切です。また、お世話になった同僚には個別に挨拶をし、連絡先を交換するなど、関係性を維持する工夫も良いでしょう。
退職時には感謝の気持ちを伝えることを忘れないでください。IT業界は狭く、将来再び一緒に働く可能性もあります。円満な退職は、長い目で見たキャリア形成にとっても重要です。
転職後の成功に向けた心構え
在職中の転職活動は、時間と体力の制約がある中での挑戦となりますが、ITエンジニアとしてのキャリアアップのためには避けて通れない道でもあります。効率的な準備とスケジュール管理、そして現職と転職活動のバランスを上手く取ることで、理想的な転職を実現できるでしょう。
特に技術進化の速いIT業界では、自分の市場価値を定期的に確認し、キャリアプランを見直すことが大切です。今回紹介した留意点を参考に、計画的に転職活動を進め、あなたのスキルと希望に合った職場を見つけてください。
転職はゴールではなく、エンジニアとしての成長の過程の一部として捉えることで、長期的なキャリア構築につながります。