派遣社員は低賃金・不安定?法改正後の実態とメリット・デメリット
かつて「不安定」「低賃金」のイメージが強かった派遣社員ですが、2015年の労働者派遣法改正や2020年施行の「同一労働同一賃金の原則」導入により、待遇面や雇用環境は大きく改善されています。
これらの法改正は、派遣社員として働く人々の雇用の安定や待遇向上を目的としており、その影響は多岐にわたります。今回は、派遣社員に関する一般的な認識と実態のギャップを整理し、派遣社員に転職するメリットと留意点を解説します。
派遣社員への偏見と実態
派遣社員に対する社会的な偏見はまだ根強く残っていますが、その実態は法改正や社会の変化によって大きく様変わりしています。
1.偏見:低賃金労働者
派遣社員は低賃金だからやめた方がいい、という偏見をよく耳にします。しかし、これは過去のイメージに過ぎず、現在の派遣社員の賃金は大きく向上しています。
エン・ジャパンの調査によると、2024年7月の三大都市圏における派遣社員の平均時給は1,702円と過去最高を記録しており、特に専門性の高い職種では正社員並みの待遇を受けているケースも増えています。
また「同一労働同一賃金」の原則が適用されたことにより、正社員との賃金格差が縮小し、待遇の差が是正されつつあります。
2.偏見:不安定な雇用
派遣社員は契約期間の終了とともに雇用が失われやすく、不安定であると認識されがちです。しかし、近年のデータはこのイメージを覆すものとなっています。
労働者派遣法改正により、派遣先企業での直接雇用の機会は増加し、派遣社員から正社員へ転換するケースも増えています。
厚生労働省「労働者派遣事業報告書」の2023年のデータによると、無期雇用派遣労働者の割合は41.6%を占め、無期雇用派遣労働者数は前年比6.0%増と伸長しています。
2024年の同調査では、無期雇用派遣労働者の割合は38.6%と前年比でやや下がりましたが、無期雇用派遣労働者数は前年比6.8%増と伸長率が上昇しています。
3.偏見:キャリアアップの機会が少ない
派遣社員はキャリアアップのチャンスが少なく、成長の機会が乏しいと考えられがちです。しかし、労働者派遣法の改正により、キャリアアップ支援が強化されています。
2015年の労働者派遣法改正により、派遣元事業主は派遣社員に対し、年間8時間以上の教育訓練を提供し、定期的なキャリアコンサルティングを実施することが義務化されました。
この結果、派遣社員は様々な職場経験を通じて、幅広いスキルを習得しやすくなり、職種を超えた成長機会を得られるようになっています。
4.偏見:スキルや経験が乏しい
派遣社員はスキルや経験が不足しているという先入観がありますが、現実には多くの派遣社員が専門性を持ち、高度なスキルを活かして働いています。
IT、外資系、医療・介護、金融・会計、マーケティングなどの分野では専門性の高い派遣社員の需要が拡大しており、企業は即戦力として派遣社員を採用することが増えています。
さらに、前項の通り、派遣会社による専門的なスキルアップ支援やキャリア形成支援も強化されており、派遣社員のスキル向上やキャリアアップの機会は以前よりも多くなっています。
派遣社員に転職するメリット
派遣社員として働くことには、多くのメリットがあります。ここでは、派遣社員という働き方の代表的な利点について解説します。
1.柔軟な働き方
派遣社員は一般的に、ライフスタイルに合わせて勤務地や時間を選べることが魅力とされています。短期・長期など、希望に応じた就業期間の選択も可能です。
ただし、希望の職種や条件によっては競争が激しく、必ずしも希望通りにならないこともあるため、派遣先の選定には注意が必要です。
2.多様な職場経験
派遣社員は一般的に、複数の業界や企業での就業経験を得ることができ、幅広いスキルや知識を習得できるとされています。特に、転職を繰り返すことなく異業種経験を積みたい人にとっては大きなメリットです。
ただし、専門性を深めたい場合には、同一分野での長期的な就業を選択することが求められます。
3.専門性の向上
派遣社員は一般的に、派遣会社が提供する教育プログラムや研修を通じて専門的な知識やスキルを向上させることができます。さまざまな企業での経験を通じて、業界全体の知識を得られるのも利点です。
ただし、自己啓発の意識が必要で、積極的に学ぶ姿勢を持つことが重要です。
4.正社員への転換チャンス
派遣先企業での直接雇用のチャンスがあることも、派遣社員のメリットの一つとされることが多いです。多様な企業を経験することで、自分に合った職場を見つけやすいのがその理由です。
ただし、全ての派遣先が正社員登用を前提としているわけではないため、正社員転換の機会がある企業かどうか、事前に確認することが必要です。
5.派遣会社のサポート
派遣社員として働く際には、派遣会社が就業中のトラブル対応や条件交渉を代行してくれるため、安心して働くことができると言われています。また、キャリアカウンセリングなどのサービスを通じて、自身の成長を支援してくれる派遣会社も多く存在します。
ただし、派遣会社によってサポート内容に差があるため、派遣会社選びは慎重に行いましょう。できれば複数の派遣会社を比べてみるのが望ましいです。
派遣社員に転職する留意点
派遣社員として働くことにはメリットも少なくありませんが、注意すべき点もあります。
1.雇用の安定性
派遣社員は契約期間に制限があり、長期的な雇用が保証されない場合があります。また、景気変動の影響を受けやすく、派遣契約の終了リスクが常に伴います。
ただし、無期雇用派遣が増加しており、特に専門性の高い分野では比較的安定した雇用を得ることが可能ではあります。
2.キャリアパスの不明確さ
派遣社員は管理職への昇進や長期的なキャリア形成が難しいケースがあります。そのため、将来的にどうキャリアを築くかを見通すことが難しいというデメリットがあります。
ただし、多様な職場経験を積むことで、スペシャリストとしてキャリアの幅を広げられる可能性もあります。自分に合った職種や業界を見極める機会として活用することが重要です。
3.福利厚生の差異
派遣社員は企業の福利厚生制度から除外される場合があり、正社員と比べて待遇が充実していないことがあります。
ただし、派遣会社独自の福利厚生制度を利用できる場合もあり、派遣会社を選ぶ際には福利厚生内容の充実度を確認することが大切です。
4.社内コミュニケーション
派遣先の正社員との間に壁を感じたり、社内情報から疎外される可能性があります。特に派遣社員として働く期間が短い場合、職場の人間関係を築くことが難しいことがあります。
ただし、近年は派遣社員の地位向上により、派遣社員と正社員のコミュニケーションが活発化している企業も増えています。
5.スキルの偏り
特定の業務に特化し過ぎると、他業種や職種に転職する際に活かせる汎用的なスキルの習得が難しくなります。また、派遣契約が終わった後のスキルの市場価値維持に不安を感じることもあります。
ただし、ジョブ型雇用の増加で、スペシャリストとして評価される会社が増えているのは追い風でしょう。とはいえ、常に市場価値を意識し、自己成長を図ることが重要です。
待遇は改善されつつある
労働者派遣法の改正や「同一労働同一賃金」の導入により、待遇や雇用の安定性が改善され、派遣社員としての働き方が一つのキャリアパスとして確立されつつあります。これにより、派遣社員という働き方は、従来のイメージとは大きく異なる実態を持つようになってきました。
とはいえ、柔軟な働き方や多様な経験を得られる一方で、雇用の安定性やキャリアパスの不明確さといった課題も残されています。これらは、正社員の解雇規制が実質的に厳しいことから、派遣社員を含む非正規労働者が雇用の調整弁とされている側面があることは否めません。
個人の努力や適切な選択によって克服することが可能な部分もありますので、そこに焦点を当てて、選択肢のひとつとしてうまく活用していきましょう。