「内定辞退」の正しい伝え方とリスクを回避するポイント
企業に内定辞退を伝えることは億劫ですが、できるだけ早く、適切に伝えなければならず、いくつかのマナーや注意点を守ることが求められます。法的な側面についても理解しておくことで、安心して行動に移せるでしょう。
内定辞退の法的側面
内定を辞退する際には、法的な側面を理解しておくことが重要です。
内定の法的性質
内定は、会社が提示する労働契約が条件付きで有効になる「始期付解約権留保付労働契約」として法的に扱われることがあります。
これは、健康診断の結果や最終学歴の証明が整うなど、特定の条件をクリアした場合に労働契約が成立するというものです。したがって、内定自体にも法的な拘束力が生じる可能性があり、内定を辞退する際は注意が必要です。
内定辞退によるリスク
一般的には、内定辞退に対する法的リスクは限定的とされていますが、内定が労働契約の一部とみなされる場合、企業側から損害賠償を請求される可能性もあります。
特に、企業が入社に向けた準備に費用や時間を投じている場合、損害が発生するリスクが高まります。法的トラブルを避けるためにも、できるだけ早めに辞退の意思を伝えることが大切です。
内定辞退を伝えるタイミング
内定辞退を決めたら、適切なタイミングで会社に連絡を入れることが大切です。ここでは、最適なタイミングとその理由を詳しく説明します。
1.辞退はできるだけ早めに
辞退の意思が固まったら、できる限り早めに会社に連絡を入れることが重要です。理想的には、内定を受けてから2週間以内を目安に連絡することが望ましいです。
企業は他の候補者と並行して採用活動を進めているため、辞退の連絡が遅れると、次の候補者を選定する時間が不足し、採用プロセスに支障をきたすおそれがあります。社会人であれば、企業側に与える迷惑を考える視点が欲しいものです。
2.内定式前には連絡を入れる
特に内定式や入社準備が始まる前に、辞退の意思を伝えることが推奨されます。
内定式後や入社準備が進んでしまうと、会社側に大きな負担がかかり、場合によっては法的リスクが生じる可能性もあるため、できるだけ早めの判断と連絡が求められます。
内定辞退を伝える際の注意点
内定辞退を伝える際には、いくつかのマナーや注意点を守ることが求められます。辞退の連絡は会社にとって残念な知らせですが、誠意を持って対応することで、今後のキャリアに悪影響を与えないようにすることが可能です。
1.感謝の気持ちを伝える
まず、内定をいただいたことに対して感謝の気持ちをしっかりと伝えましょう。採用活動にかけた時間や労力に感謝を示すことは、ビジネスの基本的なマナーです。
2.辞退理由は簡潔に
辞退の理由は簡潔に伝えるようにしましょう。「他社のオファーを受けることにした」や「キャリアの方向性を再検討した結果」といった前向きでシンプルな理由で十分です。
具体的な理由を深く掘り下げる必要はありません。また、オファーをもらった他社名を伝えることも避けたほうがトラブルを防げます。
3.丁寧な言葉遣いを心がける
丁寧な言葉遣いを心がけましょう。感謝の意を伝えつつ、申し訳ないという気持ちをしっかりと表現することで、誠実な対応ができます。
内定辞退を伝える方法:電話かメールか?
内定辞退を伝える際の手段として、電話とメールのどちらが適切か悩むこともあります。それぞれの手段にはメリット・デメリットがありますが、状況に応じて選びましょう。
1.電話での伝え方
電話で直接伝えることは、誠意を示す伝統的な方法です。リアルタイムで相手の反応を確認しながら、感謝の意やお詫びの気持ちをしっかりと伝えることができるため、特に迅速に対応が必要な場合に有効です。
電話での文例:
「お世話になっております。〇〇と申します。この度は内定をいただき、誠にありがとうございました。
慎重に検討した結果、今回は内定を辞退させていただきたく存じます。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」
2.メールでの伝え方
最近では、メールで内定辞退を伝えるケースも増えています。特に、採用担当者が忙しい場合や電話対応が難しい場合、メールでの連絡も受け入れられています。ただし、メールでは言葉遣いにより一層の注意が必要です。
メールでの文例:
件名:内定辞退のご連絡
株式会社〇〇採用担当〇〇様
お世話になっております。〇〇と申します。この度は、貴社より内定をいただき、誠にありがとうございました。
慎重に検討した結果、誠に恐縮ながら、内定を辞退させていただきたくご連絡申し上げます。
採用活動においてご尽力いただきましたことに深く感謝申し上げます。何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
なぜ誠意を示すことが大切なのか?
企業側からの不採用通知は形式的に送られてくることが多いのに、なぜ求職者が内定を辞退する際には「誠意」を求められるのか、違和感を覚える人がいるかもしれません。しかし、誠実な対応が求められるいくつかの理由が考えられます。
1.「お祈りメール」との違い
企業の採用選考のプロセスにおいて、合否の判断が行われることは当初から想定されていることです。
一方、求職者が企業の求人に応募したということは、その企業に入社したい意思があることが前提に進められ、選考を終えた求職者が内定を辞退することを、企業は基本的に想定していなくても不自然ではありません。
したがって、いわゆる「お祈りメール」と「内定辞退の報告」は性格が異なることを理解すべきであり、求職者がやむを得ず内定を辞退する際には十分な誠意が必要なのです。
2.採用プロセスへの配慮
企業側は採用に多くの時間やリソースを投資しているため、内定辞退が発生すると大きな影響を受けます。辞退を早めに伝えることで、会社が次の候補者を検討する時間を確保し、採用活動への影響を最小限に抑えることができます。
2.日本のビジネス文化
特に日本のビジネス文化では、礼儀や誠意が重視されることを理解しておくべきです。形式的なやり取りであっても、感謝や謝罪の言葉を添えることが期待されており、内定辞退の際にも同様の配慮が求められます。
4.将来のキャリアへの影響
ビジネスの世界では、業界内での評判や印象が重要です。誠意を持った対応をすることで、他の企業との取引や将来の転職活動にもプラスになることが考えられます。直接的な関係がなくとも、良い印象を残すことが重要です。
誠実に内定辞退を伝えることで、その企業との関係が円満に終わり、今後のキャリアにおいて悪影響を避けることができます。
企業側のコストを想像する
「売り手市場」のなかで、複数の内定を獲得したうえで、それを軽々と辞退することは、気持ちのいいことかもしれません。しかし、調子に乗って軽率な言動をとっていると、法的な問題が生じるおそれがあるうえ、知らず知らずに将来のキャリアの足を引っ張るリスクが生じることもあります。
社会人経験の浅い若い人たちには難しいところがあるかもしれませんが、企業側で採用にどれだけの手間や時間などのコストをかけているのか、内定辞退によって予定していた採用計画がいかに崩れてしまうか、を想像することによって、慎重になるべき理由が見えてくるのではないでしょうか。