「新卒3年以内の離職率」最新データ解説 業種別・企業規模別の傾向と対策
就職先や転職先を考えるうえで「離職率」を気にする人は少なくないでしょう。できるだけ長く働きたい人が多いでしょうし、なぜ離職率が高くなってしまうのかという理由も気になります。
2023年10月発表の厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」には、新卒で入社した会社を3年以内で辞める人の最新状況が、会社の規模別や業界別にまとめられています。自分のキャリアを考えるうえで参考になるのではないでしょうか。
事業所規模別の離職率
まず、大卒・高卒者の事業所規模別の離職率の推移を見てみましょう。
規模による差は大きい
「5人未満」の会社では、大卒で54.1%、高卒で60.7%の新卒社員が3年以内に離職しています。
これが「100~499人」になると、大卒で30.7%、高卒で31.8%まで下がり、「1,000人以上」では、大卒で26.1%、高卒で26.6%と、「5人未満」の半分以下にまで下がります。
なぜ小規模事業所では離職率が高くなるのか、については後ほど考察します。もちろん、小規模事業所で働くうえでのメリットもあり、それぞれをあわせて検討する必要があります。
景気と離職率の関係
なお、大卒者の3年以内離職率は、平成以降ではバブル経済の余韻が残る平成4(1992)年の23.7%が最も低く、金融危機で銀行の破綻が相次いだ平成12(2000)年の36.5%が最も高くなっています。
これは大卒の場合、景気がよいときは3年以内離職率は低く、景気が悪化すると高くなる傾向を表しています。
高卒者では、平成12(2000)年が最も高いのは大卒者と同じですが、その割合は50.3%と大卒者をかなり上回っています。一方、最も低いのは平成21(2009)年の35.7%であるところが興味深いです。
この背景には、2008年秋のリーマンショックによる不況が考えられますが、高卒者の就職率は2008年の96.9%がピークとなっており、労働市場にはあまり影響がなかったということでしょう。
離職者の内訳を見ると、高卒者の入社1年目の離職者の割合が例年より減っており、高卒者の就職環境の改善が伺えます。
平成20年代は、高卒者の就職率が右肩上がりに改善していますが、離職率は比較的低水準の横ばいで推移しています。
小規模事業所の離職率が高い理由
従業員規模が小さい事業所ほど離職率が高まる理由としては、以下のようなものが考えられます。
ただし、これらの要因がすべての中小企業など小規模事業所に当てはまるとは限りません。高卒者の離職率改善からもうかがえるように、労働条件の改善が進んでいる小規模事業所もあると見られます。
1.給与や福利厚生の不満
小規模事業所では、大企業に比べて給与水準や福利厚生が低い場合が多いです。特に若い世代は、生活費や将来の安定性を重視するため、給与や福利厚生が満足できない場合、早期に離職する傾向が強まります。
2.労働環境の厳しさ
小規模事業所は人手不足などにより、従業員一人あたりの業務量が多くなることがよくあります。長時間労働や業務負担の重さが身体的・精神的なストレスを生み、離職率を高める要因となります。
3.成長機会の制限
小規模事業所では、昇進やスキルアップの機会が限られており、若い従業員が将来のキャリアに不安を感じることが多いです。キャリアの成長が期待できない環境では、より良い機会を求めて離職する傾向があります。
4.人間関係の問題
小規模事業所では、従業員数が少ないため、職場内の人間関係が密接で、特に上司や同僚との関係が悪化した場合に逃げ道が少ないです。こうした人間関係のストレスが、離職を促進する要因となります。
5.会社の安定性への不安
小規模事業所は経済状況の変動に対する耐性が低く、経営が不安定になることがあります。従業員は倒産や事業縮小のリスクを感じ、将来の不安から離職することが増えます。
小規模事業所で働くメリット
小規模事業所で働くことには、離職率が高くなる理由もありますが、一方でやりがいやメリットも存在します。以下に5つのメリットを挙げます。これらのメリットは、小規模事業所での仕事を充実したものにする要因となり得ます。
1.多様な業務経験が積める
小規模事業所では、一人一人の役割が大きく、業務の幅も広いため、多様なスキルや経験を積むことができます。大企業に比べて専門分野に限定されず、経営や運営に関わることができるため、成長機会が多いです。
2.意思決定に近い環境
経営層や上司との距離が近く、自分の意見やアイデアを直接伝える機会が多いです。自分の提案がすぐに反映されることもあり、成果を実感しやすいのが魅力です。
3.職場の雰囲気の温かさ
「アットホーム」というとネガティブな印象もありますが、小規模なため、従業員同士が家族のように仲が良く、温かな雰囲気の環境で働けることは、人間関係をうまく構築できれば大きなメリットになります。コミュニケーションが取りやすく、信頼関係が築きやすい点も魅力です。
4.早い段階で責任あるポジションに就ける
小規模事業所では、若い段階から重要なポジションや責任のある業務を任されることが多いです。大企業では経験が必要なポジションでも、早期にキャリアアップできるチャンスがあります。
5.柔軟な働き方ができる
少人数のため多忙になりがちな一方、大企業に比べてルールや規則に縛られることが少ないため、働き方が柔軟になる余地もあります。個人のライフスタイルに合わせた勤務形態や、在宅勤務などの選択肢も広がることが多いです。
業界別の離職率
次に、大卒・高卒者の産業(業界)別の離職率の推移を見てみましょう。
業界別離職率が高いワースト5
大卒者では以下の業種が「就職後3年以内の離職率が高い上位5産業」となります。業界ごとに差があることが分かります。
1.宿泊業、飲食サービス業(51.4%)
旅館、ホテル、食堂、レストラン、専門料理店、バー、喫茶店など
2.生活関連サービス業、娯楽業(48.0%)
クリーニング、理容室、美容室、エステティックサロン、旅行代理店、冠婚葬祭、映画館、劇場、公営ギャンブル、スポーツ施設、テーマパーク、パチンコ店、ゲームセンター、カラオケボックスなど
3.教育、学習支援業(46.0%)
幼稚園、小・中・高校、大学、専門学校、図書館、博物館、美術館、学習塾、音楽教室など
4.医療、福祉(38.8%)
病院、歯科医院、福祉、介護など
5.小売業(38.5%)
百貨店、総合スーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター、各種小売業
一方、離職率の低い業界は「電気・ガス・熱供給・水道業」の10.5%、原油の掘採などの「鉱業、採石業、砂利採取業」の13.5%、「製造業」の19.0%、「金融業、保険業」の26.3%、「情報通信業」の27.9%などとなっています。
なお、高卒者でも上位5産業は同じですが、例えば同じ宿泊業、飲食サービス業でも、離職率が62.6%に上がるなど、全体的に高めです。また、小売業の順位が5位から3位に上がっています。
この要因は、前述の事業所規模別の傾向にも強く関係していると見られます。宿泊、飲食、小売などは、事業所の規模が小さい場合が多いです。
特有業界の離職率が高い理由
その他、業界特有の要因として以下のようなものが考えられそうです。
1.宿泊業、飲食サービス業
- ・不規則な勤務時間と深夜労働の多さ
- ・繁忙期と閑散期の労働量の差が大きい
- ・接客ストレスが高く、クレーム対応が多い
- ・季節性の高い仕事で、長期的な雇用が難しい場合がある
2.生活関連サービス業、娯楽業
- ・顧客の要求が多様で高度なスキルが求められる
- ・休日・祝日勤務が多く、プライベートの時間が取りにくい
- ・業界の流行や技術の変化が激しく、常に新しいスキルの習得が必要
- ・季節や経済状況による需要の変動が大きい
3.教育、学習支援業
- ・授業以外の業務(生徒指導、部活動指導、事務作業など)の負担が大きい
- ・保護者対応のストレスが高い
- ・常に最新の教育方法や知識の習得が求められる
- ・非正規雇用(講師など)が多く、雇用の安定性が低い場合がある
4.医療、福祉
- ・夜勤や当直など不規則な勤務体制
- ・感染リスクや身体的負担が大きい
- ・患者や利用者の急変対応など精神的ストレスが高い
- ・常に最新の医療技術や知識の習得が求められる
5.小売業
- ・接客ストレスが高く、クレーム対応が多い
- ・売上ノルマのプレッシャーが大きい
- ・商品知識の習得や在庫管理など、幅広いスキルが求められる
- ・季節や流行による需要変動が大きく、繁忙期の労働負荷が高い
特有業界で働くメリット
一方、各業界特有のやりがいやメリットもあります。
1.宿泊業、飲食サービス業
- ・お客様の喜びを直接感じられる
旅館やレストランでの接客業務は、お客様からの「ありがとう」や笑顔を直接受け取ることができ、非常にやりがいを感じやすい業界です。 - ・チームワークを発揮できる
サービス業では、スタッフ同士の連携が重要です。チームで協力して目標を達成したり、忙しい時間帯を乗り越える経験は、大きな達成感を与えてくれます。
2.生活関連サービス業、娯楽業
- ・お客様の人生の特別な瞬間に関わる
冠婚葬祭や旅行代理店などでは、結婚式や旅行などの重要なイベントを支える仕事です。お客様にとって特別な瞬間に関与できるのは、大きな喜びです。 - ・クリエイティブな発想が活かせる
娯楽業やサービス業では、顧客のニーズに応じて新しいアイデアやイベントを企画できる場面が多く、創造性を発揮することができます。
3.教育、学習支援業
- ・人の成長をサポートできる
教育業界では、生徒や学生の成長を直接サポートすることができます。特に生徒の目標達成や学力向上を目の当たりにする瞬間は、非常にやりがいを感じる場面です。 - ・知識を深め、自分自身も成長できる
教育に関わることで、自分自身も常に学び続け、知識を深めることが求められます。自己成長を感じられることも、大きなメリットです。
4.医療、福祉
- ・の命や健康に直接貢献できる
医療や福祉の仕事は、人々の命や健康に直結する重要な役割を担います。患者の回復や利用者の生活向上を支えることで、大きな充実感を得られます。 - 社会的意義のある仕事に従事できる
高齢化社会において、医療や福祉の重要性は増しています。社会全体にとって意義のある仕事に従事することは、誇りや使命感につながります。
5.小売業
- ・お客様との直接的なコミュニケーションが取れる
小売業では、商品を販売するだけでなく、お客様との会話や提案を通じて、満足してもらえるサービスを提供できる喜びがあります。 - ・トレンドに敏感でいられる
ファッションや家電など、常に新しい商品やサービスを取り扱う業界のため、最新のトレンドに触れ続けることができ、刺激的な仕事環境です。
これらの業界で働くやりがいは、各業界の特性に応じた独自の魅力を持っています。それぞれのメリットは、職場での充実感や長期的なキャリア形成にもつながる要素です。離職率が比較的高いからといって「就職・転職を避けるべき業界」というわけでは決してありません。