契約社員から正社員へ 登用制度の活用と無期雇用転換のポイント
契約社員として働きながら、将来的に正社員を目指したいと考える方は多いのではないでしょうか。実際に、企業の多くが正社員登用制度を導入していますが、制度を活用するためには準備と行動が求められます。
今回は、契約社員として働く皆さんが正社員登用を目指す際のヒントとして、正社員登用制度の現状や企業にとってのメリット、登用制度を利用して正社員を目指すためのステップ、そして無期雇用転換制度について解説します。
正社員登用制度の現状
厚生労働省の「労働経済動向調査(令和6年2月)」によると、全業種平均で76%の企業が正社員登用制度を導入しています。
業種別の導入率は、宿泊業・飲食サービス業の83%、医療・福祉の81%、生活関連サービス業・娯楽業の80%、金融業・保険業の79%、卸売業・小売業の79%などの業界で高い傾向が続いています。
しかし、制度の存在と実際の運用には依然として差があり、制度があって、かつ過去1年間に登用実績がある事業所の割合は50%となっています。
業種別では、サービス業(他に分類されないもの)が58%と最も高く、次いで医療・福祉の56%、生活関連サービス業・娯楽業の54%、製造業の53%が続きます。最も低かったのは建設業の32%、次いで卸売業・小売業の37%でした。
なお、正社員への登用制度がありながら、過去1年間に登用実績がない理由(複数回答)は、「正社員を募集(または必要と)したにもかかわらず、正社員以外からの応募がなかった」事業所の割合が50%と最も高いという結果となっています。
制度導入の企業側のメリット
企業にとって、正社員登用制度を導入することには多くのメリットがあります。
1.人材の確保と定着率向上
優秀な契約社員を正社員として登用することで、社内で培った経験やスキルを無駄にせず、離職率を抑えることができます。
2.従業員のモチベーション向上
正社員登用の可能性があることが、契約社員にとって大きなモチベーションとなります。登用を目指してスキルアップに努め、責任感を持って業務に取り組むことが期待できます。
ただし従業員側としては、実際の登用の可能性を踏まえないと、企業に都合よく利用されかねないので注意が必要です。
3.人材育成と採用コストの削減
外部からの新規採用よりも、既存の契約社員を正社員として育てる方が、教育コストや採用コストを抑えることができます。
4.生産性の向上
業務に熟練した契約社員が正社員となることで、生産性が向上し、企業全体のパフォーマンスが向上することが期待されます。
5.企業イメージの向上
社会的にも正社員登用に積極的な企業は評価されやすく、優秀な人材を集める力が強化されます。
正社員登用制度導入のポイント
企業が正社員登用制度を導入する際には、以下の点に注意が必要です。
なお、このポイントは、従業員側から見ても、契約社員が制度を利用したり、会社に制度の改善を求めたりする際の参考になるでしょう。
1.登用基準の明確化
どのような基準で契約社員が正社員に登用されるのか、具体的な指標を設定し、従業員に対して明確に示すことが重要です。業績やスキル、勤務態度などを客観的に評価できる基準が必要です。
2.制度の透明性と公平性
正社員登用制度を透明かつ公正に運用することが、従業員の信頼を得るために欠かせません。公平な選考プロセスを確立することで、従業員のモチベーション向上にもつながります。
3.登用後のキャリアパスの明示
登用後のキャリアパスをどう設定するかも企業にとっては重要です。正社員としてのキャリア形成をサポートする仕組みを整備することで、長期的な人材定着が見込まれます。
正社員登用制度を利用するステップ
契約社員が正社員登用制度を利用して正社員を目指すには、次のステップが有効です。
1.制度の確認と理解
まず、自社に正社員登用制度があるかを確認し、制度の詳細を把握します。応募条件や選考基準を理解し、登用のチャンスを逃さないようにします。
2.自己評価とフィードバックの確認
現在の業績やスキルを見直し、上司や同僚からフィードバックを得ることで、改善点を明確にし、登用に向けた準備を進めます。
3.スキルアップ
正社員として求められるスキルや知識を積極的に学び、業務で成果を挙げることが重要です。リーダーシップを発揮するなど、具体的な行動でアピールすることが求められます。
4.上司や人事へのアプローチ
正社員登用に対する意欲を上司や人事に伝え、具体的なアドバイスやフィードバックを受けることも有効です。自分の意欲を明確に示すことで、企業内での評価を高めることができます。
5.業績の積み上げと成果の可視化
日々の業績を記録し、成果を具体的に可視化することで、自己アピールの材料とします。正社員登用を目指す際には、業績やスキルの実績が重要な評価ポイントとなります。
「無期雇用転換制度」とは?
無期雇用転換制度は、労働契約法の改正に基づいて2013年4月に導入されました。特に長期にわたって有期契約で働く労働者が雇用の不安定さから解放され、安心して働ける環境を提供することを目指しています。
1.適用条件
同一の企業との間で、有期労働契約が通算5年を超える時点で無期転換申込権が発生します。これにより、労働者は無期労働契約への転換を申請する権利を得ます。
2.申込権の発生
労働者は、通算5年を超えた有期契約期間が満了する前に、無期労働契約への転換を申し込むことができます。申込権が発生した場合、企業はこの申請を拒否することはできません。
3.転換のタイミング
労働者が無期雇用転換を申し込んだ場合、その申込時の契約期間が満了した翌日から無期労働契約が成立します。
4.労働条件
無期転換後の労働条件は、有期契約時と同様であることも多いですが、賃金や労働時間などの条件は企業と労働者の合意によって決まります。無期転換したからといって、正社員と同じ条件になるわけではない点に注意が必要です。
5.適用除外
特定の条件下にある労働者(例えば、高度な専門職や定年後の再雇用者など)は、無期転換制度の適用から除外される場合があります。
最終的には転職も視野に
契約社員として働きながら正社員登用を目指す際には、制度の確認や自己評価、スキルアップの準備が必要です。企業側も、正社員登用制度を適切に運用することで、優秀な人材を確保し、生産性の向上や企業イメージの向上を図ることができます。
また、無期雇用転換制度も雇用安定の手段として有効であり、長期的なキャリア形成を目指す契約社員にとっては選択肢となります。
なお、現状の労働市場は「売り手市場」ですので、十分な経験を積んでスキルを身に着けているのに、正社員登用を不当に拒む会社に居続ける必要はありません。正社員として採用してくれる企業への転職も視野に入れた行動をおすすめします。