今さら聞けない、「限定正社員」っていったいどんな制度?
最近ニュースなどでよく見かける「限定正社員」。しかし、そもそも限定正社員は何が「限定」され、正社員とどう違うのでしょうか? 今さら聞けないという人のために、改めて限定正社員とは何かを考えていきましょう。
勤務地や勤務時間、職務が「限定」されている正社員
限定正社員というのは、ごく簡単に言えば「勤務地や勤務時間、働く職種・職務が入社の時点で限定されている社員」のことです。
そんなの当たり前じゃないの? と思う人もいるかもしれませんが、一般的な正社員の場合、どこで働くのか、どんな職種に就くのかはほぼ会社が決めています。海外転勤を言い渡されることもありますし、事務職から営業職やクリエイティブ職に異動を命じる会社も少なくありません。また、急な休日出勤を求められることもあるでしょう。
これは、正社員が会社と「無期契約」という関係を結んでいることが理由です。定年まで雇用される代わりに、どこで・何を・何時間働くのか会社に委ねるというわけです。
限定正社員にはこうした人事異動や転勤、時間外労働などがありません。そういう意味で働き方が「限定」されているわけです。また、雇用期間の区切りもありません。ただし、給与は正社員より低く設定されるでしょう。
正社員と非正規労働者のいいとこどり…?
では、限定正社員と非正規労働者(アルバイトなど)との違いはどこにあるのでしょうか。非正規労働者は、どこで何をするかを選べますし、何時から何時まで働きたいという時間の融通もききます。その代わり「有期契約」なので、定年まで雇用されることはありません。1年や半年で終えることもあります。給与も正社員と比べ低いのが当たり前です。
このような働き方を選択するのは、バブル崩壊以前までは主婦や学生などが主でした。しかし、不景気の波に合わせ、企業が人件費を削減するために多くの人を非正規雇用としたのです。総務省の調査によれば、「本当は正社員で働きたい」と思っているにも関わらず非正規雇用となっている人の数は348万人にも上ります。こうした不本意な非正規雇用が一家の大黒柱であるケースも少なくないのです。
【限定正社員、正社員、非正規雇用者の違い】
正社員 | 限定正社員 | 非正規雇用者 | |
---|---|---|---|
雇用期間 | 基本的に無期 | 基本的に無期 | 有期 |
転勤の 可能性 |
ある (基本的に拒めない) |
なし | なし |
異動の 可能性 |
ある (基本的に拒めない) |
なし | なし |
拘束時間 | 選択できない | 選択可能 | 選択可能 |
給与 | 比較的高い | 正社員と非正規労働者の中間(企業により異なる) | 比較的安い |
「正社員を解雇しやすくする」という声も…
人事異動や転勤、時間外労働がなく、かつ雇用が安定している限定正社員は、正社員と非正規労働者の双方の良いところを掛け合わせて生み出された制度といってもいいでしょう。
これにより、育児中の女性社員が転勤や休日出勤に悩まされることなく、決められた時間だけ働く…といったことも可能になるでしょう。また、正社員で出産し、子どもが育つまでは限定正社員として働き、手が離れるようになったら再び正社員に戻る…という働き方も考えられます。
しかし一方で、「正社員を解雇しやすくする制度だ」という批判もあります。例えば、限定正社員として支社で働いていたものの、その支社の業績が悪いため閉鎖されることになった。正社員であれば、支社が閉鎖されたとしてもどこか他の勤務地に異動させるのが普通でしたが、限定正社員は働く場所が「限定」されているため解雇の対象になるのではないか…ということです。
現在のところ、限定正社員を巡る議論は法制度としてはまだまだ固まっていません。しかし、独自に限定正社員と同様の制度を取り入れている企業もすでにあります。
例えばユニクロを展開するファストリテイリングでは今年5月20日、勤務地を限定して働く「地域正社員」の採用を行うと発表しました。地域正社員とは、正社員よりは給与が低いものの、雇用期間の区切りや転勤がなく、短時間勤務も認められるという社員です。
今後、雇用の流動化が進み、さまざまな働き方が模索される可能性が高まっています。限定正社員として働く可能性も見据え、雇用者としての理想の働き方をしっかりと考えておく必要があるでしょう。(ライター:香川とも)