忙しすぎる飲食業界や建築業界……。人手不足はなぜ起きている?
現在、経済新聞を騒がせているキーワードのひとつが「人手不足」です。少し前までは働きたくても働けない人が多かったので、驚く方も少なくないのではないでしょうか。
未だ就職活動に厳しさを感じる学生は多い状態ですが、若年層が減少する構造になっている日本において「人手不足」は深刻化すると考えられています。その背景や未来予測、転職に与える影響を考えてしていきましょう。
景気回復や2020年東京五輪など、複数の要因がからみあう
厚生労働省が5月2日に発表した求人倍率は2007年ぶりに1.07倍となりました。1倍を超えたのは実に6年ぶりの結果です。なぜこのような状態にまで求人倍率が回復してきたのでしょうか。
社会的な背景をまとめますと下記の通りです。
- 景気の回復により雇用が拡大。優秀な人材の取り合いとなっている
- 東日本大震災の復興により、急務で進められるべき公共事業が増加
- 2020年の東京オリンピックにより公共事業が増加。また観光産業も活性化
- 少子化による生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少
こうした社会の変化が複合的に絡み合い、日本の人手不足は今後も一層深刻化すると考えられているのです。
飲食や土木・建築、流通の分野で深刻な人手不足が…
現在の人出不足の打撃を大きく受けているのは、飲食業界と土木・建築業界、流通業界などです。
飲食業界は、低賃金や長時間労働などいわゆる「ブラック企業」的な業界体質が離職の原因となることが多いようです。厚生労働省の調べによると、飲食業界の入社3年後の離職率は2009年度で48.5%。ここ7年の数値を見ても、45.7~54.4%の範囲で推移しています。
全業界の離職率の平均値が28%前後ですから、飲食業界の離職率が極めて高い割合であることが分かるでしょう。特に深夜勤務が当たり前になっている居酒屋チェーンなどでは、正社員・アルバイトを問わず、雇用してもすぐに辞められてしまうという悪循環となっているため、慢性的な人手不足の状態に陥っているといえます。
土木・建築業界は休業日の少なさや作業の危険さ、残業の多さ、建設現場の職人たちとのコミュニケーションの難しさなどにより不人気とされてきました。工学系の新卒者がIT産業の活性化により、そちらに流れるようになったということも大きな原因となっています。また、リーマンショックの際に多くの労働者がリストラされたことも、少なからず影響しているようです。
流通業界が不人気なのは「労働が単純できついこと」「スキルが身につかない」などと見られていること大きな理由がありそうです。イメージが先行し、人出が不足しがちとなっているといえるでしょう。
転職者にとっては「売り手市場」になる!?
こうした人出不足を解決するためは、どのような施策が考えられるでしょうか。社会的な動向から、個々の企業改善策まで幅広く検討し、日本の労働人口を確保していくことが望まれます。
- 社会経験も豊富な「働けるシニア層」を活用する
- 育児支援や仕事復帰後の支援を充実させ、女性が働き続けられる社会を実現する
- 限定正社員など多様な雇用形態を用意し、ニーズに合った働き方を実現する
- 非正規社員を正社員に登用し、労働力を確保する
すでに転職市場においては労働者の奪い合いや囲い込みが始まっており、例えばスターバックス コーヒー ジャパンでは契約社員800人を正社員として登用しました。また、ワタミもアルバイトを「エリア限定正社員」として正社員化しています。待遇改善により、他社に人手が移ることを防止したわけです。
飲食業界や建築業界、流通業界など以外でも、人出不足を背景に転職市場も活性化すると考えられます。例えば人工知能やロボティクス技術の進展により、ITや精密機器などのテクノロジー分野に長けた人物の不足も予想されるでしょう。つまり、全体的に「売り手市場」の転職活になる可能性が高いのです。
転職者にとっては有利な状況ですので、これを機会に転職先の企業を比較・検討するのもあり、かもしれませんね。(ライター:香川とも)