残業代ゼロ法案、その狙いとメリット・デメリットとは?
一部のサラリーマンを対象にした「日本型新裁量労働制」、いわゆる“残業代ゼロ法案”が多くのマスコミで騒がれています。対象者は「年収1000万円以上を一定程度上回る」人であり、サラリーマン全体の4%程度。特に為替ディーラーや企画職、クリエイティブ職など「長時間勤務していることが必ずしも成果に結びつかない職業」において労働時間の規制を外し、裁量労働の導入が検討されています。
現段階ではほとんどのサラリーマンには関係ないとされていますが、「いずれすべてのサラリーマンにも適用されるのでは」と危惧する声も少なくありません。問題点はどこにあり、そのメリット・デメリットはどうなっているのでしょうか?
残業代ゼロ法案の導入検討の背景とは
労働基準法では、1日約8時間・週40時間を通常の勤務時間と設定し、それ以上働いている場合は残業代(時間外労働賃金)が発生するものとされています。これは製造関連職や単純な事務職など「時間をかければかけるだけ成果が出る」タイプの仕事の給与計算にはうまく適合されます。
しかし21世紀に入って高度な知的労働型の職業が増えるにしたがい、こうした労働時間による管理がなじまなくなりました。効率的に成果を上げ、勤務時間で拘束する意味がない社員も出てきたわけです。そのため構造改革の中で残業代制度の見直しが行われるようになり、ハイキャリア層や為替ディーラーのような知的労働の仕事を「残業代ゼロ」にすることが提案されるようになったのです。
残業代ゼロ法案の狙いは、労働時間による拘束を解いて労働者に働きやすい環境をつくりつつ、企業の人件費負担を減らすことにあります。しかし、現実問題を考えるとそこにはメリットとデメリットがあります。
残業代ゼロ法案のメリット
- 社員のダラダラ残業が減り、勤務時間内で効率よく仕事をするようになる
- 会社の業績につながらない無駄な残業代を減らせる
- 「上司・先輩が帰らないと帰れない」という慣習を払しょくする
- 仕事とプライベートのメリハリがつくようになる
残業代ゼロ法案が目指すのは、効率的・合理的な働き方です。残業代目当てでダラダラと残業する社員や、「上司が残っているから」という理由で残業する社員を減らし、勤務時間内で効率的に働く。こうすることで人件費の負担も減り、企業としての生産性が上がる。社員も効率的に働くので、プライベートの時間も持てるようになるだろう……という理論です。効率的に働くことが求められるようになるので、サービス残業がなくなることも期待できるかもしれません。
残業代ゼロ法案のデメリット
- 残業代ゼロにより年収がダウン
- 本人の努力でも残業がなくならない場合、実質的なサービス残業になる
- 労働時間で成果が決まるような職業も残業代ゼロになる恐れ
これまで残業代で稼いでいた人は、当然ながら年収がダウンすることになります。また、残業自体が禁止されるわけではありません。本人の努力によっても残業がなくならないような場合は、実質的にサービス残業になります。特にブラック企業のような過重労働の多い環境ではこうした恐れはあるでしょう。
そして、特に懸念されているのが、労働時間で成果が決まるような職業までもが残業代ゼロになる可能性です。例えば大工や整備士といった技能工、看護師や介護士、単純な事務職などは、「働けば働いた分だけ成果が出る」仕事です。逆を言えば、会社としては「安い人件費で働かせれば働かせるだけ儲かる」ことになります。こうした職業にまでなし崩し的に残業代ゼロが波及すると、勤務時間を超えた仕事は実質的なサービス残業になってしまいます。
賛否両論ある残業代ゼロ法案。まだまだ議論の余地は多いようですが、働いた時間で評価される製造業型の労働が減り、純粋に成果で評価される時代がやってきているのは確かなようです。(ライター:香川とも)