労働者の味方 「労働審判制度」ってどんな制度?
「労働審判制度」という制度を聞いたことはあるでしょうか? 「もしも」の場合に私たち労働者にとって味方になる制度なのですが、ブラック企業問題などが認知されるにともない、この制度の利用状況が増えつつあります。
労働審判制度とは?
労働審判員制度は2006年にスタートした比較的新しい制度です。簡単に説明すると、この制度は個別労働関係紛争の迅速な解決、かつ労働者と使用者の双方が納得できる解決を実現するためのものです。
労働審判官と呼ばれる裁判官と、労働関係の知識や経験を持つ労働審判員からなる労働審判委員会が、地方裁判所で3回以内の期日で審理を行っていきます。第一段階では調停による解決を目指します。そして調停がうまく成立しない場合に、事件に即した紛争解決案を定めた労働審判を下していきます。
利用者が増加する労働審判制度
制度開始以来、利用件数は増加しています。2006年スタート時点で877件、2007年には倍に近い1494件に増加、2010年には3375件にまで至りました。訴えの内容としては、解雇問題などが48.8%。未払いの残業代など賃金関連が30.9%となっています。(最高裁行政局調べ)
具体的には、「不当な解雇を受け、再就職もできず困っている」、「サービス残業ばかりしていて身体をこわしてしまった。それが原因で退職。何とか残業代を回収したい!」などの訴えに対して審判を行っています。
労働審判制度の3つのメリット
労働審判制度の利用件数が増加している背景には、労使問題への意識の高まりがあるでしょう。労働者側が「泣き寝入りしたくない!」と声を上げ始めたことと言えます。それと同時に、この制度が持つ3つのメリットが評価され始めたことも考えられます。労働審判制度の3つのメリットは以下の通りです。
- ・専門性
- ・迅速性
- ・柔軟性
労働審判では、労使関係の専門知識の豊富な「労働審判員」が審議を進めます。そのため、解決策に納得感も得やすいです。どんな人物が労働審判員になるのかは公表されていませんが、会社役員や人事部長、労組役員などが多いようです。労働者の立場をきちんと理解している方々が揃っていると考えてよいでしょう。
従来のように民事裁判で長期間続く労働紛争とは違い、3回以内で案件が結審するという点もポイントです。審判が長引けば長引くほど、労働者・企業ともに心身の面でも金銭的にも疲弊していきます。特に金銭面で負担軽減されるということもあり、労働者にとって少ない負荷で納得のいく結審が得られると注目されています。
また、通常の民事裁判では、法律に基づいて厳格に権利関係の主張や立証を行っていかなければなりません。しかし、労働審判は法律を踏まえつつも当事者間の実情に即した迅速な解決を図ることを重視しています。そのため、柔軟性のある制度だといえるでしょう。
今後の課題
労働審判制度は解決率・利用者の満足度が高く、迅速性も評価されています。今後さらに利用者の増加が見込まれる制度ですが、今後改善すべき課題も挙がってきています。
- ・審判手続きの運用改善
- ・審判員の安定供給
- ・費用面のサポート
審判官と審判員とで共有される情報は、裁判所によって異なるという実情があります。情報不足のままでは審判員が適切な判断・アドバイスができなくなってしまうため、今後は審判官・審判員に同レベルの情報が共有されるよう運用改善で検討が進んでいます。労働審判の件数増加に伴って、審判員の質・量の拡充も検討もされています。
また労働審判は比較的低額ですが、労働審判等を申し立てる人の中にはそれすら工面できない金銭的に逼迫した状況の方も少なくありません。労働組合が金銭面での支援を行うなど、どんな立場の人でも申し立てを行えるような広がりが期待されます。
職場から不合理な仕打ちを受け、泣き寝入りをする労働者は少なくありません。そんな方々を支える労働審判制度について、今後より広く認知され、運用面の改善も進んでいくことが望ましいといえるでしょう。(ライター:香川とも)