現代の「働かないおじさん」問題 DXとリスキリングで解消
「働かないおじさん」とは、年功序列によって高給を得ながら、生産性の低い仕事に従事して組織全体の効率を下げている中高年男性を指します。この言葉は、社会の労働構造や世代間のギャップを浮き彫りにしました。
少子高齢化やDXの進展により、現在は「働かないおじさん」の性質は変化していますが、依然として課題として残っています。今回は、過去から現在までの変遷を追い、「働かないおじさん」問題の背景と未来の展望を考察します。
「働かないおじさん」とは
2011年時点の調査によると、日本企業において「社内失業者」とされる社員は約600万人にのぼると報告されました。社内失業者とは、十分な仕事を与えられず形式的に職場にいるだけの状態を指します。
40代後半から50代の男性社員に多く見られ、彼らの存在が若手社員のキャリア形成を阻害し、企業の成長を停滞させる要因とも言われていました。
年功序列とスキル陳腐化の背景
この現象の背景には、以下のような要因が複雑に絡み合っていました。
- 年功序列制度:年齢に応じた昇給や昇進が一般的で、スキルや成果に基づく評価が希薄だったため。
- 終身雇用の維持:解雇が容易でない環境により、適切な人材配置が難しくなったため。
- スキルの陳腐化:IT化が進む中で新しいスキルを習得できず、職場での役割が限定されたため。
- 世代間ギャップ:若手社員との意識や働き方の違いが拡大し、コミュニケーションが不足したため。
2010年代の「働かないおじさん」対策
2012年以降、多くの企業は「働かないおじさん」問題に対処するため、以下のような施策を取りました。
- 早期退職制度:50代以上の社員を対象とした退職優遇策が一般化。
- 配置転換:販売現場や関連子会社への転籍が増加。
- 再教育プログラム:DX推進の一環としてITスキルや新しい業務スキルの習得を促進。
例えば、2015年ころの総合電機業界のリストラ事例としては、以下のようなものがあります。
- シャープ:グループ会社を含め3,500人規模の希望退職者を募集しました。
- 横河電機:グループ会社を含め1,105人が早期退職に応募しました。
- 東芝:2015年に発覚した会計不祥事問題後、当初の計画を上回る1万4,450人規模の人員削減を実施しました。これには再配置と早期退職が含まれています。
- パナソニック:2010年から2015年にかけて、連結ベースで約13万人の従業員数を削減しました。
- NEC:2010年から2015年にかけて、連結従業員数を約5万人削減しました。
さらに、2015年頃からは働き方改革が進み、年功序列型の評価制度の見直しが進展しました。これらの施策には「働かないおじさん」のダラダラ残業を大幅にカットし、企業全体の労働力の質を向上させる効果がありました。
一部では、いわゆる追い出し部屋など「不適切な配置転換」による問題を生むケースもあり、2015年からは「労使双方が納得する雇用終了の在り方」が検討されましたが、現在も金銭解雇などの具体策は導入されていません。
「働かないおじさん」問題の行方
2024年現在、少子高齢化や労働力不足の進行に伴い、「働かないおじさん」問題は新たな局面を迎えています。
前述した大規模リストラ等に加え、2015年には団塊世代が全て65歳以上の前期高齢者となることで、「働かないおじさん」の削減は一段落したという見方があります。
その一方で、2020年にエン・ジャパンが実施した調査は、約3割の企業が社内失業者を抱えている可能性があると指摘していますし、2022年の識学の調査によると、会社に働かないおじさんがいると答えた回答者は49.2%にのぼり、依然として問題は続いているという見方もあります。
特に、デジタル化の推進に中高年社員がついていけないという、新たな「働けないおじさん」問題が生じているという指摘もあります。これは従来の、硬直した日本型経営とは背景がやや異なるものです。
急速な少子化で人手不足も深刻化しており、企業は業務の自動化や省力化を進めるとともに、中高年社員の再教育(いわゆるリスキリング)によって戦力化や異動、転職支援を行うことが課題になっています。
本人の意識改革も不可欠
「働かないおじさん」問題は、単に個人の問題として片付けられるものではなく、企業文化や社会制度の構造的な課題を映し出すものです。DXや少子高齢化といった環境変化により、問題の性質は変わりつつありますが、解決には企業と社会が協力して新しい労働のあり方を模索する必要があります。
具体的には、評価基準の見直しや再教育の強化、適材適所の配置が求められます。一方で、本人の意識改革も重要で、変化に適応し新たなスキルを学ぶ努力が必要です。未来に向けて、企業と個人が共に成長できる環境を築くことで、働き方改革を次のステージに進められるでしょう。