話題の「ゆるい就職」、その背景とリスクとは?
「ゆるい就職」呼ばれる雇用スタイルをご存じでしょうか? 2014年7月からはじまったこの取り組みが、若者たちを中心に注目を集めています。社会人になったら、週5日フルタイム勤務という既成概念を覆すこの「ゆるい就活」とは、どんなものなのでしょうか。また、「ゆるい就職」はどんな社会的背景から登場してきたのでしょうか。
「ゆるい就職」っていったい何?
「ゆるい就職」は、人材派遣会社のビースタイルが提唱する新しい就職活動のスタイルです。「“週5日勤務”の『あたりまえ』がバカらしい新卒~25歳くらいの若者限定」とうたっており、週休4日で月収15万円のポジションが募集されています。
通常の正社員の新卒採用では、大学を出てすぐに正社員として週5日フルタイムで働くことになりますが、「ゆるい就職」はこのことに違和感を覚える若者に向けた企画。正社員としての雇用ではなく、派遣・契約社員としての契約であり、拘束時間が短いので社会保険には入れません。それでも2014年7月のスタート以来、30~40社がこの制度を活用し、就職希望者は100名以上にのぼったといいます。
「ゆるい就職」についてのホームページには、「サクッと稼いで、たっぷり遊ぶ」「正規雇用など安定した就職を希望している方は間違っても応募しないでください」と書かれており、そのインパクトは大きいようです。
「ゆるい就職」が登場した背景とは?
「ゆるい就職」が誕生した背景には、「正社員になれば一生安泰」「一生懸命働いてたくさん稼ぐことが当然」といった昭和の価値観が崩れつつあることが挙げられるでしょう。正社員になってもいつリストラされるかわからない…、毎日クタクタになるまで働いて自分のやりたいことは一切できない……。
そんな働き方・生き方に対して、疑問を持つ人々が増えてきたのです。事実、キャリコネニュースの取材によると、「ゆるい就職」のマッチングイベントに参加した正社員経験者からは
「このまま好きでもない仕事を、ずっと続けていいのだろうか。もっと色んな経験をしたいと思い、仕事を辞めて『ゆるい就職』に参加してみた」
などの声が挙がっています。
高度経済成長期には、「こう働けば幸せになれる」というロールモデルがありました。例えば正社員で入社し、年功序列で給料が上がって、退職金を得たあとに定年退職し悠々自適の生活を送る…といったものです。しかし、現在は年齢にしたがって給料が上がっていく会社のほうがまれですし、退職金が出ない会社もあります。会社に全てを捧げて働いても、人生が豊かになるとは限らない、そのことに気づいた若者が増えてきたのです。
その代わりとして、若者たちは会社や仕事以外の場で、充実した人生を実現させることを目指し始めています。町おこしや村おこし、ボランティア活動、海外生活、起業やダブルワークなど、自分の生きがいを軸にしつつ、会社では生きていくために最小限に働ければよいという価値観が出てきました。こうした多様化する働き方・生き方に応えるべく登場したのが、「ゆるい就職」と言えるでしょう。
「ゆるい就職」にはリスクもある?
しかし、こうした「レールから外れた」働き方に対して懸念を示す人も少なくありません。「ゆるい就職」に対してリスクを唱える人の主張は、下記の通りです。
- ・新卒採用の機会を蹴るのはもったいない。正社員のルートを放棄するようなもの
- ・一生安定しないのではないか
- ・「ゆるい就職」を使う若者はガッツがないのではないか(若者を甘やかす制度では?)
- ・会社の体制で働くことができなくなるのではないか
- ・社会保険も入っていない状態でどうやって一生の身を守るのか
- ・低収入で会社に使い倒されるだけではないか
「まずは正社員を目指すべきだ」という価値観に基づくと、「ゆるい就職」はリスクが高い働き方といえるでしょう。しかし、これまでにない働き方をしたいと思い、多様な生き方を模索する人にとっては、「ゆるい就職」こそ挑戦するに値する取り組みかもしれません。
どの判断も間違いでもありませんが、少子化やIT化などの影響でこれまでの働き方が通用しなくなるのは疑いようがありません。まずは自分がどういう働き方・生き方を目指しているのかを考え、その上で一つの選択肢として「ゆるい就職」を検討してみるのもいいでしょう。(ライター:香川とも)