有給休暇取得促進案の背景と懸念点
働く人々の権利として保証されている有給休暇(有休)。しかし、仕事が忙しかったり周りの同僚の目が気になったりと、日本ではなかなか取得されていない現状があります。その一方で、政府が2015年1月の通常国会にて有休取得の促進案を出すなどの動きもあります。日本社会の有給休暇取得の実情と、有給休暇取得促進案を巡る今後の展望を見ていきましょう。
日本の有休消化の現状
ホテル予約サイト「エクスペディア」の2014年12月の調査によると、日本の有休消化率(支給された有休日数に対して実際に消化された日数の割合)は50%。世界25か国の比較ランキングにおいて24位という低水準で、2007年~2013年には7年連続で最下位の25位が続いていました。ブラジル、フランス、スペインなどでは、取得率100%となっている状況から鑑みると、日本は有休取得後進国ともいえそうです。
また、支給される有給休暇の日数そのものについては、日本では平均20日が保証されています。しかし世界平均は約25日。つまり日本は、有給休暇の日数も少ない上に、その消化率も低いということがわかります。
同調査では、「有休を取る際に罪悪感を感じる」と答えた人が日本では4人に1人(26%)いることも分かりました。さらに、「休暇を取ったとしても旅行中に仕事のことが頭を離れない」と回答した割合も日本が圧倒的に多く、世界平均の5.6%を上回る13%という数字が明らかになっています。
政府の有休取得促進対策とその懸念点
一方、政府では2020年までに有給休暇の消化率を70%に引き上げたいと考えています。そこで2015年1月の通常国会では、企業に対し従業員が有給休暇をいつ取得するのかをあらかじめ指定させる“有休取得促進案”が提出されました。
現行法では、従業員が請求しなければ企業は有給休暇を与えなくても違法ではありません。そのため社員が有休取得に罪悪感を覚えていると、いつまでたっても有給休暇が“絵に描いた餅”のままという可能性があります。そのため政府は企業に対し、「従業員がいつ有給休暇を取得するか時期を指定することを義務づけ、確実に取得させること(ただし従業員の希望は聞く)」を提案したのです。
この案は雇用側に大きなインパクトをもたらすものだと、企業の中では慎重に議論が進められています。一方で、労働者の中では意見が分かれています。「これで有休が取得しやすくなる!」と喜んでいる人もいれば、懸念点を抱く人もいるのです。
この促進案の懸念点は以下の通りです。
- 有給取得の時期指定により、かえって自由な取得が阻害される。自分のペースで取得できなくなってしまう。
- 有給取得を促進されても、仕事自体が減らなければ結局サービス出勤することになる。休日に家に仕事を持ち帰ることも想像できる。
- 全国的に有給取得時期が集中し、休日を有意義に使えなくなってしまう。たとえば7月~8月の期間に集中し、旅行費用の高騰を招くのではないか。
- 企業側にペナルティーが課せられていない以上、結局何もかわらないのではないか
政府からのトップダウンで有休消化が義務付けられても、それを受け止める会社できちんとした準備が整っていなければ、労働者にとってプラスにならない可能性があります。また、有休取得に罪悪感を抱いている人がいる以上、企業側が指定して取得させても根本的解決にはならないとも考えられるでしょう。周りの目を気にせずに有休取得できるような、ワークライフバランスの取れた労働環境を考えていく必要があるようです。(ライター:香川とも)