転換期を迎える外国人材受け入れ 技能実習制度から特定技能制度へ
外国人材の受入れは日本の産業界にとって避けられない課題となっており、その中核を担う技能実習制度と特定技能制度は大きな転換期を迎えています。
外国人材の受入れは日本の産業界にとって重要な課題となっており、特に、技能実習制度から特定技能制度への移行が進む今、両制度の連携と効果的な運用が注目を集めています。今回は、制度の現状と課題、そして今後の展望について、最新のデータと具体的な取り組みを交えながら解説します。
技能実習制度の変遷と現状
外国人技能実習制度は30年の歴史を経て、その実態と課題が明らかになってきました。本来の目的と現状のギャップを踏まえ、新たな展開が求められています。
制度の基本的枠組み
1993年に創設された技能実習制度は、開発途上国への技能移転による国際貢献を掲げてスタートしました。現在は建設業、製造業、農業など87職種156作業が対象となり、最長5年間の実習が可能です。
実習生受入れの実態
2023年末時点での技能実習生は約35万人に達し、特に従業員50人未満の中小企業での受け入れが8割を占めています。しかし、技能移転という本来の目的から外れ、単純な労働力確保の手段となっているケースも指摘されています。
深刻化する人材不足
技能実習生制度が一部で「単純な労働力確保の手段」となっている背景には、日本の労働市場は構造的な人手不足があり、特に地方の製造業や建設業では深刻な状況が続いています。
日本の生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークに減少を続け、2023年には7,447万人にまで落ち込みました。この30年近くで1,279万人、実に15%もの働き手が減少したことになります。
厚生労働省の調査によると、2024年1月時点での有効求人倍率は1.27倍ですが、業種によって大きな差があります。建設業では4倍以上、製造業でも2倍を超える職種が多く、特に地方の中小企業での人材確保が困難になっています。
製造業では、50代以上のベテラン技能工の大量退職が進んでいます。1995年当時と比較すると、技能工の平均年齢は10歳以上上昇し、若手への技能継承が大きな課題となっています。
特定技能制度の導入と意義
2019年に導入された特定技能制度は、技能実習制度の限界を補完し、より実践的な外国人材の受入れを可能にする制度として期待されています。
制度の特徴と技能実習との違い
特定技能制度は、深刻な人手不足が認められる14業種で外国人材の就労を認めるものです。技能実習との大きな違いは以下の点です。
- 就労目的を明確に認めている:技能実習が技能移転を主目的とするのに対し、特定技能は労働力としての受入れを正面から認めています
- 特定技能1号は通算5年まで、2号は更新回数に制限がない:技能実習の最長5年という制限と比べ、より長期的な就労が可能です
- 職場移動の自由がある:技能実習では原則として実習先の変更が認められないのに対し、特定技能では一定の条件下で転職が可能です
- 2号では家族帯同が可能:より安定的な生活基盤を築くことができ、長期的なキャリア形成を支援します
移行の現状と課題
出入国在留管理庁の統計によると、2023年12月時点での特定技能1号保有者約18万人のうち、約7割が元技能実習生です。これは制度間の連携が一定程度機能していることを示しています。
制度改革の最新動向
技能実習制度と特定技能制度は、より効果的な運用に向けて継続的な改革が進められています。
実習生保護の強化
2017年施行の技能実習法により、監理団体や実習実施者への規制が強化されました。外国人技能実習機構(OTIT)による監査も強化され、不正行為の抑止に一定の効果を上げています。
特定技能への移行支援の充実
2022年から、技能実習2号修了者の特定技能評価試験の一部免除が導入されました。2024年4月からは、優良な実習実施者に対する手続きの簡素化も予定されています。
今後の展望と課題
人口減少社会における外国人材の受入れは、今後ますます重要性を増すことが予想されます。両制度の効果的な連携と運用改善が求められています。
求められる体系的な育成プログラム
外国人技能実習機構の優良実習実施者認定を受けた企業では、以下のような取り組みが効果を上げています。
- 段階的な技能習得プログラムの整備:入職後3ヶ月は基礎的な作業と安全教育を重点的に行い、その後2年目までに職種別の専門技能を習得。3年目以降は品質管理や設備保全など、より高度な技能の習得へと段階的に移行するプログラムを構築しています。
- 母国語による技術マニュアルの提供:技術用語の理解を深めるため、実習生の母国語と日本語を併記した作業手順書や技術マニュアルを整備。特に安全管理に関する部分は、イラストや動画を活用して理解度を高める工夫がなされています。
- 定期的な習熟度評価の実施:3ヶ月ごとに技能習得状況を評価し、個々の実習生の強みや課題を明確化。評価結果は実習生本人にフィードバックされ、次の学習目標設定に活用されています。
- 特定技能への移行を見据えた計画的な育成:実習3年目以降は、特定技能で求められる技能水準を意識した育成を実施。技能検定や特定技能評価試験の合格に向けた支援体制を整備しています。
生活支援体制の重要性
技能実習生の定着率向上には、以下の支援が効果的とされています。
- 継続的な日本語学習支援:週2回程度の日本語学習機会を提供し、日常会話から業務上必要な専門用語まで、体系的な学習をサポート。特に技能検定や特定技能試験に必要な日本語能力の向上に重点を置いています。
- 地域コミュニティとの交流機会の創出:地域の祭りやイベントへの参加、地域住民との文化交流会の開催など、実習生が地域社会に溶け込めるような機会を定期的に設定。孤立を防ぎ、日本での生活への適応を促進しています。
- 医療機関受診時の通訳支援:契約医療機関との連携により、多言語対応可能な医療通訳を確保。特に精神的な不調や慢性疾患など、複雑な症状の説明が必要な場合の支援体制を整備しています。
- メンタルヘルスケアの提供:定期的な個別面談の実施や、母国語で相談できるホットラインの設置など、心理的なストレスに対するケア体制を確立。特に来日直後の適応期間と、技能試験前後のプレッシャーが強い時期に重点的なケアを行っています。
持続可能な外国人材受入れを
外国人材の受入れは、単なる人手不足対策ではなく、日本の産業競争力維持のための重要な戦略として位置づける必要があります。
技能実習制度と特定技能制度の連携強化により、外国人材のキャリア形成を支援し、同時に受入れ企業の成長も促進する好循環を生み出す仕組みづくりが、今、求められています。
両制度を効果的に活用することは、多様な人材が活躍できる労働市場の形成につながり、ひいては日本経済の持続的な発展に寄与するものと考えられます。
体系的な育成プログラムの取り組みは、単独ではなく包括的に実施することで、より高い効果を上げることが報告されており、今後の大きな課題です。