外国人技能実習制度をめぐる問題点
日本の労働人口が減少するなかで、外国人の労働力が注目されています。日本政府としても国を挙げて外国人労働者の受け入れ策に力を入れていますが、そのひとつである「外国人技能実習制度」の問題点がいくつか指摘されています。どういった指摘がなされているのでしょうか。確認していきましょう。
外国人技能実習制度とは?
外国人技能実習制度は1993年に創設された制度です。開発途上国の技能実習生が、雇用関係の下で日本の産業・職業上の技能等の修得・習熟をすることを目指しています。2014年6月末現在の実習生は約16 万2000人で、中国からの実習生が最も多く10万人を超えています。また多くの実習生は建設や繊維、食品など69職種の現場で働いています。
当初、実習期間は最長2年でしたが、1997年には最長3年に延長され、2015年3月にはさらに5年間に延長する法案を閣議決定しています。これは2020年の東京オリンピック開催をにらみ、建設現場での人手不足に対応するためだとも言われており、法施行に合わせ、厚生労働相の管轄で介護や林業なども技能実習の職種として追加することも決定しました。この変更は、2016年度から技能実習に反映される予定です。
外国人実習制度を取り巻く問題点
日本政府は、外国人技能実習制度は途上国の経済発展に資する国際貢献であると位置付けていますが、実質的に日本の事業を支える労働力としての外国人実習生のほうが注目されています。こうしたことから、以下のような問題点が指摘されています。
1. きつい仕事、人気がない仕事を押しつけている
日本人労働者の手が足りてない業種に外国人労働者が配置されることが多いため、「日本人がやりたくない仕事を外国人に押しつけているだけだ」という指摘が後を絶ちません。具体的には、介護や建築現場、農業・漁業における作業などへの従事が挙げられます。
2. 不当・違法な労働条件(低賃金、残業代未払い、過重労働、パワハラなど)
実習生を雇い入れる企業の中には、制度を悪用して差別的な環境で実習生を働かせている企業もあります。時給300円~500円の低賃金で十数時間も働かせる、休日が年間で十数日しかない、パスポートを取り上げ逃げられないようにするといった、違法かつ劣悪な環境下で不法に搾取されている例もあります。
多くの実習生は、日本語が不得意なまま来日し、周囲に家族も友人もいません。また制度上、他の仕事に転職することも認められていません。そのため雇用主に不満を訴えても「嫌なら帰国しろ」と迫られ、不平等な労働環境で働かざるを得ないという実態があります。
3. 来日後、失踪する外国人実習生が後を絶たない
上記の1、2のような不満から、来日後に失踪する実習生も増えています。例えば2013年の外国人実習生は4万410人ですが、同時に2822人が行方不明者としてカウントされています。2014年までの10年間では2万5000人が無断で勤務場所からいなくなっていることも法務省の調べで明らかになりました。国が把握していない失踪者も含めると相当数の外国人実習生が当初の目的を果たせずに失踪しているといえます。
もちろん、失踪して帰国する人もいるでしょうが、失踪者の何割かは国内に不法滞在することになります。生きていくため不法な環境で働いたり、犯罪に手を染めたりといったことも考えられ、治安の面からも懸念されています。
「外国人労働者を雇用するのであれば日本人と同じ待遇にすべき」、「日本で働くのは、特別な技能を持った外国人に限るべきではないか」など、さまざまな議論がなされています。厚生労働省や政府も問題改善に乗り出していますが、解決策は見えていません。実習生の労働環境改善だけでなく、悪質な雇用主に対する罰則規定を設けるなど、外国人技能実習制度を根本的に見直していく必要がありそうです。(ライター:香山とも)