深刻化する介護業界の人手不足
現在、若年労働者の数が減り、高齢化社会が急速に進行しています。ビジネスにも大きな影響を及ぼしていますが、特に介護業界の人手不足についてはどれだけの人が真剣にとらえることができているでしょうか。これから一層規模が大きくなるはずの介護業界が、なぜ深刻な人手不足に悩まされることとなっているのでしょうか。介護業界の人手不足を考えてみましょう。
介護業界を取り巻く現状
介護の現場は昔から3K「きつい、汚い、危険」などと言われてきました。さらに追い打ちをかけるように、低賃金という問題もあります。このような状況に陥っている背景には、以下のような事情があります。
介護の専門性が認識されていない
介護はこれまで専門職ではなく、女性の家事の一部として扱われてきました。そのため、専門の知識やノウハウが不要なものと見なされてきたのです。しかし介護の仕事は、体と心をケアする専門的なスキルとノウハウが必要な職種です。そうしたことが世の中にまだまだ認められていないため、介護職員の給与も低い水準のまま推移しています。また、専門職と見なされていないため、パートや日本語もままならない外国人労働者に介護を任せようという流れもあり、それがさらに低賃金傾向を生んでいます。
介護報酬の引き下げ
介護報酬とは、介護保険が適用される介護サービスにおいて、そのサービスを提供した事業所・施設に対価として支払われる報酬のことです。言うまでもなく、この報酬は介護施設の大きな財源となってきました。しかし、政府の2015年度予算案において、介護報酬が2.27%の引き下げとなりました。
そのため、引き下げを原因とした、介護事業所の経営危機が全国で取りざたされています。必然的に介護労働者は、さらにひっ迫することとなったのです。この改定においては、要介護者が必要な時に十分な介護を受けられなくなってしまうのではないかと、懸念の声が挙がっています。
高齢者の急増と介護施設の増加
介護報酬の引き下げなどがありつつも、今後の社会的なニーズを感じ取り介護事業施設の立ち上げは相次いでいます。しかし、中には未届けの老人ホームなどがあるのも実情。そうした介護施設においては、きちんとした雇用形態が取られておらず、使い捨てにされるような過酷な労働を強いられている介護労働者も少なくないのです。施設は増えているが、働き手の置かれた状況は変わらないまま……というアンバランスな事態が介護業界では続いているのです。
介護業界のこれから
2025年には団塊世代が75歳以上になると予想される中で、介護業界は現在、大きな過渡期にあると言えます。こうした危機感を受け、以下のような動きが現れ始めました。
- ・介護職の専門性を周知徹底させる
- ・給与制度の見直し
- ・介護労働者が働き続けられるための制度設計
- ・分業制の実施
介護にまつわる資格試験はいくつかありますが、それを取得したとしても昇進や給料アップにはつながらないことも少なくありませんでした。しかし、キャリアや専門性によってステップアップするような仕組みを考案し、それを昇給と結び付けている介護事業所が登場しています。
さらに、一部の企業では正社員への登用の道を大幅に広めたり、手厚い福利厚生を盛り込んだりと介護労働者が働く魅力を感じられるような工夫も初まっています。分業制もその一つで、日勤と夜勤が交互にくるシフトに疲弊してしまう介護労働者が少なくないため、夜勤専用の労働者枠を設けるなどの措置を考案しました。
給与面や長時間労働などを見直し、社会全体で介護労働者が働きやすい労働環境をつくっていくことが、超高齢化社会を迎える日本にとって必要なことと言えそうです。(ライター:香山とも)