「女性起業家」の増加がもたらす影響 課題と支援策から未来を探る
近年、女性起業家の数が増加しており、社会全体の関心を集めています。多様な背景や目的を持つ女性たちが、新たなビジネスを立ち上げ、地域や業界におけるイノベーションを推進しています。
これに伴い、女性起業家を支援するための政策やプログラムも進化を遂げています。今回は、女性起業家の現状、背景、その課題、そして支援策の動向について整理していきます。
女性起業家の現状と背景
女性起業家を取り巻く環境は、近年大きく変化してきています。
統計からみる女性起業家の実態
「2023年版中小企業白書」によると、起業家に占める女性の割合は2018年の28.7%から2022年には34.2%まで上昇しています。特に30代から40代の女性による起業が顕著な伸びを示しており、業種別では教育サービス業が42.1%、医療・福祉分野が38.5%、生活関連サービス業が37.8%の順で女性起業家の割合が高くなっています。
事業規模と成長性
起業の規模に関して、中小企業庁の調査では、起業時の平均従業員数は2.1人、平均資金調達額は850万円となっています。注目すべき点として、女性起業家の5年後の事業継続率は65.3%と、全体平均の62.7%を上回っており、特に地域密着型ビジネスでの成長が顕著です。
主要な事業形態
現在の女性起業家の代表的なパターンとして、教育分野では、教育経験を持つ30-40代の女性がオンライン教育サービスや学習支援事業を展開するケースが増加しています。
医療・福祉分野では、実務経験を持つ40-50代の女性による訪問介護サービスや健康支援事業が地域のニーズに応えています。
また、地域密着型ビジネスとして、地域コミュニティでの活動経験を持つ女性たちが食品加工や地域特産品の開発・販売を手がけ、地域資源を活用した持続可能な事業モデルを確立しています。
増加の社会的背景
このような増加の背景には、社会的な変化が大きく影響しています。女性の社会進出が進み、多様な働き方やキャリアを模索する中で、起業という選択肢が現実的な選択となってきました。
また、デジタル技術の普及により、小規模事業でも効率的な顧客獲得が可能となり、働き方改革や副業解禁などの法制度も女性の新たな挑戦を後押ししています。
女性起業家が直面する課題
女性起業家の増加という明るい兆しがある一方で、依然として乗り越えるべき壁が存在します。以下では主要な課題とその背景について分析します。
資金調達における格差
最も深刻な課題は資金調達の困難さです。中小企業庁の調査によれば、女性起業家の平均調達額は男性起業家の約57%に留まっています。これは、金融機関での融資審査における無意識のバイアスや、担保設定の難しさなどが一因ではないかと考えられています。
ネットワーク構築の壁
ビジネスネットワークの構築における課題も顕著です。特に製造業や技術分野では、従来の男性中心のビジネスコミュニティに参入することの難しさが指摘されています。また、ロールモデルやメンターの不足も、事業展開における知見やノウハウの獲得を困難にしている要因です。
ワークライフバランスの課題
家庭との両立という課題も見過ごせません。特に育児中の女性起業家にとって、時間やエネルギーの配分が大きな課題となっています。日本政策金融公庫の調査では、女性起業家の約45%が仕事と家庭の両立に困難を感じていると回答しています。
女性起業家を支援する動向
これらの課題を解決するため、官民両セクターでさまざまな支援策が展開されています。ここでは各セクターの具体的な取り組みを見ていきます。
国レベルの支援体制
国レベルでは、「女性起業家支援ネットワーク」を通じた相談窓口の設置や情報提供、ネットワーキングイベントの実施が行われています。また、女性起業家を対象とした創業補助金や、中小企業向けの融資制度も拡充されており、働き方改革関連の施策とも連携しながら支援体制を強化しています。
地方自治体による取り組み
地方自治体では、地域に根ざしたビジネスを応援する「地方創生起業支援金」の創設や、専門家による経営サポート体制の整備が進んでいます。また、地域の女性起業家コミュニティの形成支援や、コワーキングスペースの提供なども積極的に行われています。
民間セクターの支援策
民間セクターでも、女性向けのスタートアップ支援プログラムやアクセラレータープログラムが充実してきています。特に注目されるのは、女性起業家に特化したクラウドファンディングや投資ファンドの展開です。これらのプラットフォームを通じて、従来の金融機関では得られにくかった資金調達の機会が提供されています。
課題克服に向けた具体策
今後の女性起業家支援をより実効性のあるものとするため、具体的な数値目標を設定し、その達成に向けた施策を展開することが重要です。
資金調達支援の強化
中小企業庁は「女性起業家支援ビジョン2025」を踏まえ、2026年までに女性起業家の平均調達額を1,200万円に引き上げることを目指しています。この実現に向けて、政府系金融機関による女性起業家向け融資枠を、現行の年間500億円から1,000億円へと拡大し、民間金融機関との連携による低利融資制度の創設も計画されています。
支援体制の拡充
起業家支援制度については、2025年までに全都道府県への女性起業家支援拠点の設置を目標としています。これらの拠点では、創業支援施設における託児サービスの併設や、確定申告・経理業務支援の提供、24時間対応のオンライン相談窓口の設置などが計画されています。
人材育成の強化
教育面では、年間5,000名の女性起業家候補者の育成を目標に掲げ、経営・財務・マーケティングの基礎講座を全国200か所で開催する予定です。これらの講座は、実践的なスキル習得に重点を置き、オンラインでの受講も可能とすることで、より多くの女性が学びの機会を得られるよう工夫されています。
女性起業家の増加は社会に影響を与える
女性起業家の増加は、経済や社会に多大なメリットをもたらします。多様性に富む視点や柔軟な発想が、イノベーションを促進し、地域や業界の活性化につながることが期待されています。
また、支援策の整備だけでなく、社会全体の理解や環境整備が進むことで、より多くの女性が起業にチャレンジできる環境が整いつつあります。
政府は、2027年までに女性起業家比率を40%まで引き上げ、5年後の事業継続率を70%まで向上させることを目指し、金融機関や教育機関と連携して支援を推進していく方針です。