• 転職ガイド

    カテゴリーリスト

    過重労働撲滅特別対策班「かとく」 知られざる労働監督の最前線

    2025年1月8日 転職の基本  -  転職ニュース

    過重労働撲滅特別対策班働き方改革が進められる中、日本の長時間労働問題は以前よりかなり減っているようですが、一部に残っています。特に月80時間を超える時間外労働は、過労死との関連が強く指摘される「過労死ライン」とされ、その抑制は課題です。

    違法な長時間労働の背景には、人手不足や業務の繁閑、取引先からの要請など、様々な要因があります。こうした状況に対し、政府は従来の労働基準監督行政の枠を超えた、より専門的で強力な監督指導体制の確立を目指してきました。その中核を担うのが、過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」です。

    「かとく」設立の経緯

    過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」は、2015年4月に厚生労働省が設置した特別調査組織です。当初は東京労働局と大阪労働局の2カ所に設置されましたが、その後、監督指導・捜査体制は大きく強化されています。

    設立の背景

    2010年代に入り、過労死・過労自殺の問題は深刻さを増していました。2014年度には過労死等の労災認定件数が242件(うち死亡89件)に達し、社会問題として看過できない状況となっていました。

    この状況に決定的な転機をもたらしたのが、2015年の大手広告会社での新入社員の過労自殺事件でした。この事件では、月の残業時間が最長で約105時間に達していたことが明らかになり、企業の労務管理の在り方が厳しく問われることになりました。

    また同時期に、大手運送会社での違法な長時間労働も発覚し、専門的な調査機関の必要性が強く認識されるようになりました。

    特別な権限と役割

    「かとく」は、一般の労働基準監督官による通常の臨検監督と異なり、複数の労働局にまたがる大規模企業への一斉調査や、捜査機関と連携した強制捜査を行う権限を持っています。特に、月80時間を超える時間外労働が疑われるすべての事業場を重点監督の対象とし、書類送検や刑事告発に向けた証拠収集も重要な任務の一つとなっています。

    現在の組織体制

    現在の組織体制は、厚生労働省本省に設置された「過重労働特別対策室(本省かとく)」を司令塔とし、東京・大阪の「かとく」が実働部隊として機能しています。さらに、全国47都道府県の労働局には「過重労働特別監督監理官」が各1名配置され、地域での監督指導を担っているとされています。

    「かとく」の調査活動

    「かとく」の調査活動について、概要を紹介します。

    特徴的な調査手法

    「かとく」の調査は、労働者からの申告や通報情報の分析から始まります。36協定の特別条項の届出状況や過去の違反歴を精査したうえで、事前通告なしの立入調査を実施します。

    調査では、タイムカードやPCログ、セキュリティカードの記録、社用携帯電話の使用履歴など、あらゆる客観的記録を突き合わせて実態を把握します。特に近年は、勤怠管理システムの改ざんや、いわゆる「残業代込み」の固定給与制度による違法な労働時間の隠蔽が発覚するケースが増えています。

    「かとく」では、従業員からの聞き取り調査や内部告発情報を基に、システムログの詳細な分析や取引先との業務記録の照合など、専門的な調査手法を駆使して実態解明に当たっています。

    具体的な調査事例

    2022年度の調査実績では、監督実施事業場33,218カ所のうち、14,147事業場(42.6%)で違法な時間外労働が確認され、是正勧告が行われました。また、13,296事業場(40.0%)では過重労働による健康障害防止措置が不十分として指導が行われています。

    報道によると、2022年3月に大手コンサルティング会社が、ソフトウェアエンジニアの社員1人に対し、2021年1月に少なくとも143時間48分の時間外労働をさせていたとして、東京労働局の過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)から労働基準法違反の疑いで書類送検されました。

    また、2024年3月には、自動車販売業会社と元工場長が、整備士に36協定を超える時間外労働を行わせたとして書類送検されました。時間外労働は最も長い者で月116時間を超えていたと報道されています。

    同じく2024年3月に、全国で業務用冷凍・冷蔵庫の製造販売会社と同社役員2人が、労働者に36協定を超える違法な時間外労働(休日労働含む)を行わせたとして書類送検されました。労働時間に関する違反が全国の多数の店舗であり、複数の労働基準監督署が是正勧告を行っていたことから、事態を重くみて捜査が行われ、書類送検に至ったと報道されています。

    このような事例からも、長時間労働や過重労働の問題が依然として存在し、「かとく」を含む労働基準監督署による監督指導が継続的に行われていることを示しています。

    企業に求められる対応

    「かとく」の調査に備え、企業には求められる対応があります。

    労務管理体制の整備

    「かとく」の調査に備えるためには、まず適切な労務管理体制の整備が不可欠です。具体的には以下のような対応が求められます。

    労働時間の客観的な記録と保存

    タイムカードやPCログ、入退館記録などの客観的データを適切に保管し、労働時間の実態を正確に把握できる体制を整えることが重要です。特に、テレワークなど多様な働き方が広がる中、労働時間の把握方法を明確にし、従業員に周知することが求められています。

    36協定の適正な運用

    特別条項の上限時間を遵守することはもちろん、延長時間が必要となる具体的な事由を明確にし、安易な適用を避ける必要があります。また、労使協議の議事録など、運用の適正性を示す書類も適切に保管しておくことが重要です。

    従業員の健康管理体制の整備

    長時間労働者に対する医師による面接指導の実施や、ストレスチェックの確実な実施と結果に基づく就業上の措置など、法定の健康確保措置を確実に実施する必要があります。

    問題発生時の対応

    労働基準監督署や「かとく」による調査が入った場合、企業としては以下のような対応が求められます。

    まず、調査への誠実な協力です。虚偽の報告や記録の改ざんは、それ自体が労働基準法違反となり、刑事罰の対象となる可能性があります。問題が発覚した場合も、隠蔽を図るのではなく、原因究明と再発防止に向けた積極的な姿勢を示すことが重要です。

    次に、是正勧告を受けた場合の迅速な対応です。指摘された問題点について、期限内に確実に是正措置を講じ、その結果を労働基準監督署に報告する必要があります。また、同様の問題が他の部署や事業所でも発生していないか、全社的な点検も行うことが望ましいとされています。

    今後の課題と展望

    これまで大きな成果を上げてきた「かとく」ですが、残された課題もあります。

    組織体制の強化

    「かとく」は現在、人員体制の限界という課題に直面しています。増加する通報案件すべてに対応することが難しく、特に地方での人材確保が課題となっています。この解決策として、労働時間管理システムの監視強化やAIを活用した違法残業の検知など、デジタル技術の活用による効率化が進められています。

    企業の自主的な改善支援

    取り締まりだけでなく、未然防止の観点から、企業の自主的な改善を促す取り組みも強化されています。労務管理の専門家による相談窓口の設置や、労働環境改善の好事例の公表による横展開が推進されています。特に中小企業向けには、労務管理システムの導入支援や専門家による無料コンサルティングなど、きめ細かな支援策が用意されています。

    法制度の見直し

    残業時間の上限規制の適用除外業種の存在や、立入調査時の強制力に関する制限など、法制度上の課題も存在します。これらについては、労働政策審議会での議論を踏まえ、段階的な見直しが検討されています。

    実効性の高い労働時間管理を

    「かとく」の活動は、日本の労働環境改善に大きな役割を果たしています。しかし、過重労働の撲滅には、取締りだけでなく、企業文化の根本的な変革が必要であることも事実です。

    また近年、新型コロナウイルスの影響でテレワークが普及し、働き方の多様化が加速しています。また、副業・兼業の増加や、ジョブ型雇用への注目など、日本の労働環境は大きな転換期を迎えています。

    このような変化の中で、労働時間管理の在り方にも新たな課題が生じています。テレワークやフレックスタイム制の普及により、従来の管理手法だけでは対応が難しい状況も出てきており、より実効性の高い労働時間の把握・管理方法の確立が求められています。

    「かとく」には、こうした時代の変化に対応しながら、すべての働く人が健康で充実した職業生活を送れるよう、その監視・指導機能を進化させていくことが期待されています。

     

    同年代や類似職種の
    年収・口コミを見ることで
    自分の正しい市場価値に気付くきっかけに!

    60万社以上の本音の口コミを公開中

    失敗しない転職をするために
    無料会員登録して口コミを確認

    あわせて読みたい

    カテゴリーリスト

    キャリア情報館

    仕事図鑑

    差がつく転職ノウハウ

    転職の基本