過重労働撲滅特別対策班「かとく」とは?
今年7月2日、靴販売チェーンの「ABCマート」や同社の役員、店舗責任者らが、従業員に違法な長時間労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されました。この送検には、過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」が関わっています。また、厚生労働省によるブラック企業対策としても注目されています。「かとく」とはいったいどんな組織なのでしょうか? 取り組みと課題について解説します。
日本の過重労働の現状
「かとく」について考える前に、まず日本の過重労働の実態について知る必要があります。日本は世界でも屈指の“仕事に追われている国”です。脳出血や心筋梗塞などによる過労死やメンタルヘルスなど、過労による多くの問題が浮上しています。厚生労働省では、「過労死ライン」という過重な時間外労働(残業)時間を指す言葉もつくられています。
具体的なラインとしては、1カ月間に約100時間、または過労死症状の発症前2~6カ月前に1カ月あたり約80時間超などの過重な残業があった場合は、過労死との関連性が強く疑われることになります。
今回の「ABCマート」の事例では、従業員に月100時間前後の残業を強いていたという実態が広く明らかになりました。東京労働局による度重なる指導や勧告でも改善が見られないことにより、書類送検に至ったと発表されています。こうした企業の過重労働やブラック企業による明るみにならない過重労働の問題が多数指摘されています。このような背景を受けて、過重労働を取り締まる動きが強化されています。
「かとく」とはどんな組織か
こうした過重労働の軽減のため、2015年4月1日に東京労働局と大阪労働局に過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」新設されました。過重労働に係る大規模事案、困難事案などに対応するための、専従対策班として位置づけられています。
主な業務は下記とされています。
- 監督指導において事実関係の確認調査が広範囲にわたる事案
- 司法事件で捜査対象が多岐にわたる事案
- 被疑事実の立証などに高度な捜査技術を必要とする事案
「かとく」は、全国展開する大企業を主な対象として長時間労働の問題を集中的に調査し、さらに悪質なケースは刑事事件として書類送検することによって、過重労働に対する指導・監督の強化を図っていく組織です。悪質なケースは刑事事件として書類送検することによって、過重労働に対する指導・監督の強化を図ります。違法な長時間労働を強いる企業のなかには、労働時間を改ざんするなどの悪質なケースも見られますが、「かとく」の労働基準監督官は専門家からなるチームが編成されています。
「かとく」が持つ課題
労働基準法は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(労働基準法1条1項)という原則の下、1日8時間、1週40時間の労働時間と定めています。しかし、このような規制もいわゆる「36協定(さぶろくきょうてい)」に届け出をしていれば例外措置として認められることがあります。
また、今後進んでいくであろう「残業代ゼロ法案」の影響により、時間外労働を抑止する効果を薄めているという主張もあります。つまり、「残業代ゼロ法案」が過重な時間外労働の隠れ蓑になる危険性も指摘されているのです。
さらに、「大企業だけ取り締まるのではなく、数多くある中小企業の過重労働を取り締まらなければ意味がない」とする意見もあります。こうした社会情勢も踏まえて、「かとく」が過重労働をどのように取り締まっていくかを注視する必要がありそうです。(ライター:香山とも)