ストレスチェック義務化のポイントと課題点
2015年6月25日に公布された改正労働安全衛生法により、12月1日から常勤社員に対して、「ストレスチェック」を実施することが事業者の義務となります。ストレスチェックを受ける側にとって、この制度はどのようなインパクトがあるのでしょうか。そのポイントと注意点を探っていきます。
ストレスチェック実施の背景とは?
改正労働安全衛生法によって12月から義務付けられたストレスチェックとはどんな規定なのでしょうか?
民主党政権時代に、自殺やうつ病などの心の問題やストレスを原因とした被害額が推計約2兆7000億円にのぼることが明らかにしました。また、自殺やうつ病などがゼロになった場合、日本のGDPを約1兆7000億円引き上げる効果が見込めるといわれています。もちろん対策を講じたからといって、自殺やうつ病を完全に「ゼロ」にすることは難しいでしょう。しかし、このまま見過ごしていくべきではないということで、大きく舵が切られたのです。本ストレスチェック実施の前に、「平成25年度労働者健康状況調査」で現状の把握を行いました。その結果、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は60.7%に止まっています。
ストレスチェックの概要とは?
ストレスチェックは、従業員50人以上の事業所で義務化されています(50人未満の事業所では努力義務)。フィジカルのチェックをするのが健康診断で、メンタルのチェックをするのがこのストレスチェックとして位置付けられ、1年に1回実施されることになっています。ストレスチェックのステップは下記の通りです。
<ステップ1>
希望する労働者に医師または保健師によるストレスチェックを受ける機会を提供すること。
<ステップ2>
事業者は「問題あり」との検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施すること。
<ステップ3>
事業者は医師の診断を聞いた上で、必要な場合には、作業の転換や業務時間の短縮などの措置を講じること。
ストレスチェックにおいて、労働者側が知っておくべきこと
労働者側にとってプラスになると考えられるこの制度ですが、踏まえておくべきポイントもあります。
・ストレスチェックの結果は事業者側には告知されない
ストレス度合いが強いことで雇用主から不当な扱いを受けぬよう、個人の結果は企業に告知されません。あくまでチェックを受けた本人へのフィードバックにとどまります。自分自身が検査結果をふまえて、何らかの改善をはかっていくということが必要になるわけです。
・ラインケアは努力義務にとどまる
個人のストレスチェックの結果を、部や課などのくくりで集計し、集団としてのストレスの傾向を推し量ります。しかし、この結果から改善を講じるのは、努力義務止まり。組織ごとに対策を行うことを「ラインケア」といいますが、本ストレスチェックではセルフケアを促すまでにとどまっています。
・面接は義務内ではない
セルフケアにおいても、医師との面接などは義務化されていません。あくまで個人の判断で受けるものとされています。
・日常生活、体の健康面からくるストレスを抽出しにくい
ストレスのうち、仕事上のストレスは1~2割といわれています。今回のストレスチェックでは構成的に、家庭内のストレスや体調不良からくるストレスなどは抽出しにくくなってまいす。
このように、今回のストレスチェックでは、ストレス結果を個人へフィードバックすることが中心となります。無論、ストレスによる不調は本人だけの問題ではありません。ストレスを抱えた社員がいると、組織が疲弊していくという意識を事業者が持つことが必要でしょう。そうすることで、徐々に自殺者やうつ病は減少していくのではないでしょうか。(ライター:香山とも)