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    「定年制廃止」の課題と展望 日本型雇用システムの転換期を迎えて

    2025年1月8日 転職の基本  -  転職ニュース

    定年退職廃止日本の労働市場は大きな転換期を迎えています。65歳以上の高齢者人口が総人口の約3割を占め、生産年齢人口は1995年をピークに減少を続けています。このような状況下で、経済協力開発機構(OECD)は2024年の「対日審査報告書」において、日本に対して定年制の廃止を提言しました。この提言は、日本の伝統的な雇用慣行に一石を投じるものです。

    定年制は日本型雇用システムの根幹をなす制度の一つであり、その廃止は単なる制度変更にとどまらず、企業文化や社会構造にまで影響を及ぼす可能性があります。今回は、定年制廃止の背景や課題、そして今後の展望について詳しく考察していきます。

    定年制の現状と背景

    定年制とは、労働者が一定の年齢に達した時点で、特別な意思表示なしに労働契約が終了する制度です。日本では多くの企業が60歳を定年としていますが、高年齢者雇用安定法の改正により、2025年4月からは65歳までの雇用確保が全企業に義務付けられます。

    厚生労働省「令和4年高年齢者の雇用状況」によると、現在の雇用確保措置の実施状況は以下の通りです。

    定年制廃止の実施状況

    定年制を廃止している企業は全体の3.9%にとどまっています。企業規模別では、301人以上の大企業で0.7%、21〜300人の中小企業で4.2%となっており、中小企業での実施率がやや高くなっています。特に、IT業界では定年制廃止の動きが進んでおり、サイボウズやDeNAなどが先駆的に導入しています。

    65歳以上の定年設定

    65歳以上を定年としている企業は26.9%です。大企業では17.4%、中小企業ではそれ以上の割合となっています。製造業(19.8%)に比べ、サービス業(32.1%)で高い傾向にあります。

    継続雇用制度の導入

    多くの企業が採用しているのが継続雇用制度です。60歳定年後、65歳まで再雇用や勤務延長を行う制度が一般的となっています。ただし、継続雇用後の処遇は定年前と比べて大きく下がるケースが多く、厚生労働省の調査では平均で年収の40%程度の減少が報告されています。

    定年制廃止のメリット

    定年制を廃止することで、企業と従業員の双方にメリットがあります。

    経験豊富な人材の活用

    長年培ってきた知識やスキル、人脈を持つ従業員を継続して活用できます。特に技術継承や顧客関係維持の面で大きな利点となります。例えば、製造業では熟練工の技能伝承が課題となっていますが、定年制廃止により、若手への技術指導を長期的な視点で行うことが可能になります。

    人材採用・育成コストの削減

    新規採用や若手育成にかかるコストを抑制できます。リクルートワークス研究所の試算によると、新入社員の採用・育成にかかる費用は一人当たり平均で約500万円とされています。熟練社員が若手の指導役を担うことで、この費用を大幅に削減できる可能性があります。

    従業員のモチベーション向上

    年齢に関係なく働き続けられる環境は、高齢社員の生活の安定と仕事への意欲向上につながります。実際に、定年制を廃止したある製造業企業では、60歳以上の従業員の労働生産性が維持または向上したケースが報告されています。

    多様性の促進と収益性向上

    様々な年齢層の従業員が共に働くことで、組織の多様性が高まり、新たな発想や革新を生み出す可能性が広がります。マッキンゼー社の調査によると、年齢の多様性が高い企業は、そうでない企業と比べて収益性が平均で33%高いという結果が出ています。

    定年制廃止の課題

    一方で、定年制廃止には様々な課題も存在します。

    人件費の増加

    年功序列型の賃金体系を維持したまま定年を廃止すると、人件費が大幅に増加する可能性があります。日本経済研究センターの試算では、現行の賃金体系のまま定年制を廃止した場合、企業の人件費は平均で15~20%増加すると予測されています。

    若手の昇進機会の減少

    高齢者が長く働き続けることで、若手社員の昇進機会が減少し、モチベーション低下や離職につながる恐れがあります。実際に、定年制を廃止した企業の中には、若手の離職率が上昇したケースも報告されています。

    健康リスクの増大

    高齢になるほど健康上の問題が生じやすくなります。労働災害のリスクも高まるため、健康管理体制の強化が必要です。厚生労働省の統計によると、60歳以上の労働者の労働災害発生率は、他の年齢層と比べて約1.5倍高くなっています。

    能力・意欲の個人差への対応

    高齢者の能力や就労意欲には個人差が大きくなります。公平で適切な評価・処遇制度の構築が課題となります。

    組織の新陳代謝の停滞

    高齢者が長く在籍することで、組織の硬直化や革新の遅れが懸念されます。世代間のバランスを取る工夫が必要です。

    定年制廃止に向けた対策

    これらの課題に対応するため、以下のような対策が考えられます。

    賃金制度の改革

    年功序列型から職務・成果基準の賃金体系への移行が必要です。先進的な企業では、職務等級制度の導入や、役割・成果に応じた報酬体系への移行を進めています。例えば、資生堂では2021年から職務等級制度を全社員に適用し、年齢に関係なく同一の基準で評価・処遇を行う体制を整備しています。

    キャリアパスの多様化

    管理職だけでなく、専門職や顧問職など、高齢者の経験を活かせる多様な役割を用意します。若手の昇進機会も確保しつつ、世代間の協働を促進します。例えば、某電機メーカーでは、技術専門職制度を設け、管理職を離れても専門性を活かして高い処遇で働き続けられる仕組みを構築しています。

    健康管理体制の強化

    定期的な健康診断や体力測定、柔軟な勤務形態の導入など、高齢者が安心して働ける環境を整備します。例えば、トヨタ自動車では、高齢者向けに作業負荷を軽減する補助器具の導入や、勤務時間の柔軟化を実施しています。

    能力開発支援の充実

    高齢者向けの研修プログラムや自己啓発支援制度を充実させ、継続的なスキルアップを促します。例えば、富士通では、50歳以上の社員を対象としたリスキリングプログラムを提供し、デジタルスキルの習得を支援しています。

    段階的な移行とコスト試算

    一気に定年制を廃止するのではなく、65歳や70歳への段階的な引き上げを経て、徐々に廃止へと移行する方法も検討に値します。企業は財務シミュレーションを行い、人件費の増加を計画的に管理する必要があります。みずほ総合研究所の分析によると、段階的な移行により、人件費の増加を年率2~3%程度に抑制できるとされています。

    世代を超えて活躍できる職場づくりを

    定年制の廃止は、日本の労働市場に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、その実現には多くの課題を克服する必要があります。

    企業は自社の状況や業界の特性を踏まえ、慎重に検討を重ねる必要があるでしょう。同時に、政府も法制度の整備や支援策の充実を図ることが求められます。

    高齢者の豊富な経験と若者の新鮮な発想を融合させ、世代を超えて活躍できる職場づくりが、日本の持続的な経済成長と社会の活力維持につながるのです。

    定年制廃止の議論を通じて、私たちは「働くこと」の意味を改めて問い直し、すべての世代が生き生きと活躍できる社会の実現を目指すべきではないでしょうか。

     

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