若年性認知症患者に広がる「働き続けられる支援」
一般的に、認知症は高齢者の病です。しかし、年齢とは関係なく認知症を発症するケースもあります。それが若年性認知症。若年性認知症は、65歳未満で発症する認知症であり、患者の多くが働き盛りの年齢です。そのため、本来ならまだまだ働けるはずなのに、退職を余儀なくされている現状があります。
その一方、不十分ではありますが、少しずつ若年性認知症患者が本人の力を生かして働き続けられるような支援が広がってきています。若年性認知症とはどういったものか、それに対する支援の輪についてご紹介します。
若年性認知症とその患者数
64歳以下の人が認知症を発症すると、「若年性認知症」と呼ばれます。症状としては高齢者の認知症とほとんど変わらず、思考がまとまらなくなったり、物事を思い出せなくなったりします。また、それらにともなって会話が成立しなくなるといった症状も出てきます。2009年の厚生労働省の調査によると、患者数は約3万7800人で、人口10万人あたり47.6人の患者がいると想定されています。女性に比べて男性の方が発症しやすく、発症時の平均年齢は51歳といわれています。
しかし、この数値には自覚されていない患者は含まれません。若年性認知症では、本人は「若いから認知症なはずがない」と病気を自覚できないことが多いのです。さらに、認知症だと気づかれず、発見が遅れ症状が進行してしまったり、うつ病などの精神疾患と勘違いされたりするケースも少なくないようです。
若年認知症患者の就労状況
上記の通り、若年性認知症の平均発症年齢は51歳という、働き盛りの年齢です。そのため、認知症が発症して仕事を続けられるかどうかは、大きな問題になりますが、残念ながら現状では若年性認知症患者の約8割が退職を余儀なくされています。愛知県にある認知症介護研究・研修大府センターの調査では、就労経験のある若年性認知症患者の1411人のうち、定年前に自ら退職したのは996人、解雇されたのは119人で、合わせて79%に上ったといいます。
また、若年性認知症はそもそも自覚されにくい病気です。周囲からも認知症だと認識されないことが多いため、単なる「能力が低い人間」と見られ、窓際族へと移動されたり、解雇されたりといった事態に陥りやすいのです。そうなれば、肉体的には働けるのに働けない苦しさや、金銭的な負担の増加などによって、患者がさらに追い込まれていくことも予想できます。
若年性認知症患者が働き続けるためには
若年性認知症を発症した場合、これまでと同じ仕事を継続できるとは限りません。必要に応じて働き方の変更が求められることもあるでしょう。しかし逆を言えば、働き方を見直すことで、働き続けられる可能性も十分にあるということです。例えば……
- 自分のペースで進められる業務(製造業務や事務処理作業など)へ転換する
- 対社外の仕事から社内対応の仕事に転換する
- 短期間で完結しやすい仕事へ転換する
- メモ、自身へのリマインドなどを細かに行う
……といった見直しをおこなうことで、会社を辞めずに働き続けている人もいます。記憶力に障害があったとしても、その場その場の判断力には問題がない人もいますので、短期間で完結しやすい製造業や事務処理業務などは、比較的続けやすいでしょう。また、新人の指導や資料作成といった社内向けの業務に異動させてもらうなどの配置転換も考えられます。
若年性認知症患者への就労支援
一方で、若年性認知症患者への支援や理解の輪も少しずつ広がりつつあります。例えば以下のような組織では、若年性認知症についての相談・アドバイスをおこなっています。
- 地域の包括センター
- 若年性認知症コールセンター
- 障碍者支援をおこなうNPO法人
- ・企業内の健康相談機関
病気そのものについてはもちろん、どのような業務なら対応できるのかについても、適切なアドバイスをもらえるでしょう。もちろん、会社の上司や産業医などにも相談することが大切です。自分の症状を理解してもらい、適切な部署に配置してもらうといったことが可能になるでしょう。
最後になりますが、認知症かもしれないという異変を感じたら、すぐに病院へ行きましょう。確かに、認知症だという事実は受け止め難いものです。しかし、専門医の治療のもとで、症状の進行を食い止められる可能性もあるのです。同時に、きちんと病気であることを説明すれば、病気と仕事を両立する手立ても考えやすくなるでしょう。(ライター:香山とも)