解雇解決金制度とそのメリット・デメリット
2015年10月末、厚生労働省において「解雇解決金制度」の導入が検討されました。これは、企業に不当に解雇された場合に、労働者と会社側の両者が合意すれば金銭の補償によって解雇を解決できるという制度です。不当解雇に対して労働者が泣き寝入りしなくて済むというメリットが挙げられる一方、「お金を支払えば自由に解雇できるのでは?」などの議論を呼んでいます。解雇解決金制度とはそもそもどういったものなのか、そして、そのメリット・デメリットをご紹介します。
解雇解決金制度とは?
現在、会社が労働者を解雇する際には、判例の積み重ねにより、以下の「4条件」を満たすべきとされています。
- 人員削減をしなければ会社の存続が困難である
- 解雇を避けるため、役職員の報酬減など努力を尽くした
- 解雇対象者の人選が妥当である
- 本人への説明などの手続きが適正である
これらの4条件が満たされていないにもかかわらず解雇された場合は、不当解雇か否かを裁判で争うわけです。もし「解雇は不当」という判決が出たなら、労働者が企業に戻ることができるように整備すべきとされています。
しかし、仮に裁判で「解雇が不当」と判断されても、すでに職場の人間関係が悪化しており、実際には職場復帰はしにくい労働者も少なくありません。そのため、復帰を補償するのではなく、金銭補償に切り替えた方がよいのではないかという主張がなされたのです。このように、「解雇不当と判断された場合に限って、企業側が金銭を支払うことで労働者を退職させることができる制度」が解雇解決金制度です。企業が金銭を支払いさえすれば、どのような場合でも、労働者を解雇できるという制度ではありません。
欧米の主要国ではすでに導入されていることから、日本でも導入が前向きに検討されています。しかしその度に、「安易なリストラが増えてしまうのではないか」という反対案が出されて、実現には至りませんでした。
解雇解決金制度のメリット&デメリット
解雇解決金制度のメリットとデメリットをそれぞれ整理してみましょう。
【メリット】
・労働者側の精神的負荷を減少させる
裁判などでもめた末に、会社に復帰することは労働者にとって精神的負担が大きいもの。金銭的な解決をすることで、解雇された労働者側のメンタルを支えるものとなるといわれています。
・解雇された労働者の泣き寝入りを防ぐ
現在、不当解雇に対して企業が労働者に金銭を支払うという判決がでても、結局支払いが行われないというケースが少なくありません。これは特に中小企業で顕著です。この場合、労働者は泣き寝入りするしかなくなります。解雇解決金がきちんと制度として導入されれば、こうした支払いも滞りなくおこなわれるようになると指摘されています。
・金銭解決がスムーズに行われる
これまでは金額の基準がなかったため、不当解雇に対する金銭解決がスムーズに進まず、時間だけがかかってしまうことがありました。解雇解決金制度が導入されれば、フローに則ってスムーズに支払いが実施されると予想されています。
【デメリット】
・「お金を払えば解雇できる」という風潮が蔓延する
労働者の解雇に対して抑止がきかなくなり、「お金を支払いさえすればクビにできる」という安易な解雇が続出する危険性があります。不当解雇だと判断されても、金銭を支払うことで労働者の職場復帰を拒む企業が出てくる可能性もあるでしょう。
このように労働者にとっては不利に働く危険性もある解雇解決金制度。そのため、運用には注意が払う必要があるとされています。例えば、「解雇解決金は労働者によって申し立てがあった場合のみ運用されるべき」という主張もなされています。制度を導入するのか、導入する場合、どのように企業側の制度の不正利用を防いでいくかが、争点にもなっていきそうです。(ライター:香山とも)