「最低賃金1000円」発言の背景とその影響
2015年11月、安倍首相が「最低賃金を、年率3%程度をめどとして、引き上げていくことが必要であります。これにより全国平均1000円となることを目指します」と発言しました。この最低賃金1000円以上の目標について、かなり高いハードルだと思った方も少なくないでしょう。実際に最低賃金底上げについては、さまざまな議論が出されています。この安倍首相の発言の背景にあるものはなにか、そして、発言に対する各所の反応はどんなものがあったのかをご紹介します。
最低賃金引き上げ発言の背景にあるもの
安倍首相の最低賃金引き上げ発言は、「アベノミクス効果が大企業にばかり恩恵を与え、一般の労働者には特に影響を与えていない」という指摘を受けての発言です。2015年、ア大企業はアベノミクスにより高収益を実現しました。
このような視点で見ると、景気が回復し、日本経済は豊かになったように思えますが、最近では、現場で働く労働者にとってはあまり関係がなかったということもわかってきています。多くの企業では、利益を労働者に還元することよりも、内部留保(企業内でプールされる資金)に回すことを優先しており、その金額は総額で350兆円にも上ると指摘されています。こうした中で、労働者にもきちんと利益を還元できるように、最低賃金を底上げするための検討がなされたわけです。非正規雇用者にとっては朗報となる話といえそうです。
日本の最低賃金
最低賃金は、企業が従業員に払う最低限の時給のことです。この賃金は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員など、すべての労働者に対して適用されます。全国一律ではなく、行政が目安を示した後、それぞれの地域の実情に応じて、都道府県ごとに最低賃金を決めていきます。現在の全国平均額は798円。東京の907円が最高額で、沖縄の693円が最低額です。
「最低賃金1000円」がもたらす影響と反応
最低賃金を1000円まで引き上げた場合、企業の人件費を大きな圧迫することは容易に想像できます。特に、非正規社員を抱えている中小企業の経営はかなり厳しくなるでしょう。アベノミクスによる景気向上があるとはいえ、その恩恵の多くは大企業が得ています。中小企業が確かな利益を上げられない中で、人件費ばかり増していくことになってしまうのです。人件費増加分を商品価格の増加で吸収できるようにしたり、下請け企業への不当な値引きを抑止したりしなければ、中小企業がかなり窮地に追いやられてしまうことになるでしょう。
一方、本当に最低賃金1000円で労働者の生活が改善されるのかという声もあります。先進国のなかで見ると、例えばフランスは9.6ユーロ(約1249円)、イギリスでは6.7ポンド(約1242円)とされています。世界的に見て、日本の最低賃金は1000円でも安いほうなのです。もちろん、給与が上がることは労働者にとってプラスでしょう。しかし、最低賃金1000円でも生活が苦しいままであれば、景気刺激策にもならず、企業の人件費を圧迫するだけ……という可能性もあります。
そのほか、資本主義の経済活動を政府の“鶴の一声”で左右させてもいいのか、といった意見もあります。賃金が上がることは労働者にとってよいことに変わりありませんが、その影響範囲を見極めたうえで、中小企業にも過度な負担とならないような最低賃金を設定していくことが今後の課題となってくるでしょう。(ライター:香山とも)