本当にできる? 同一労働同一賃金の実現可能性
2016年1月、安倍首相は施策方針演説の中で「同一労働同一賃金」について述べ、その実現に向けて取り組む姿勢を見せました。一方で、同一労働同一賃金を実現するにはいくかの課題があるといわれています。同一労働同一賃金の実現は可能なのでしょうか? そして、それに向けての課題とはどんなことなのでしょうか?
そもそも同一労働同一賃金って?
同一労働同一賃金とは、同質・同量の労働に対して、いかなる差異も関係なく同一額の賃金を払うという制度のことです。ここで言う差異とは年齢や学歴、性別、人種、民族そして雇用形態なども含まれます。欧米では同一労働同一賃金の考え方がすでに一般化されており、多くの国で実現されています。
今回の安倍首相の発言の狙いは、特に雇用形態による賃金の差を埋めようというものです。つまり正社員や非正規社員を問わず、同一・同量の仕事をしていれば賃金格差はないようにしようとする動きであり、「一億総活躍社会」の実現や格差是正に向けた取り組みの一環と言えます。すでに法制化に向けた動きもあり、2015年にはすでに同一労働同一賃金推進法が制定され、派遣労働者の待遇改善などが取り上げられました。また、契約社員やパート・アルバイトへの適用拡大も検討されています。
同一労働同一賃金の実現の課題
しかし一方で、日本においてはまだまだ同一労働同一賃金が実現していないのが実情です。同一労働同一賃金推進法にも、「できるだけ、正社員と非正規社員の差がつかないようにする」という努力義務が明記されるにとどまっています。なぜ、日本においては同一賃金同一労働の実現が難しいのでしょうか?
・年功序列型の賃金体系
欧米にない日本の雇用問題の特徴として年功序列型の賃金体系があります。50代と20代の社員が同じ仕事をしていたとしても、50代の方が高給取りということも珍しくないわけです。この年功序列型賃金には、「Aさんは会社が小さなときからずっと支えてきてくれた」「若手社員のときから薄給で会社に尽くしてきた」……といった報酬的な意味が込められており、会社からの恩返し的な側面があります。
実際、「若いときは給料が少なくても、会社に貢献していれば、年を取ってからしっかり高い給料が返ってくる」と信じて働いてきた中高年社員も数多くいるでしょう。しかし、同一労働同一賃金はこうした年功序列型賃金の特性をリセットしてしまいます。そのため、いきなり同一賃金同一労働を導入するのは一筋縄ではいかないと言われているのです。
・正社員ならではの「重荷を背負う」という慣習
年功序列制とリンクしますが、日本における正社員は、会社の人間として“ある程度の重荷を背負わなければならない”という暗黙の了解があります。例えば、転勤や人事異動、サービス残業、管理職試験、毎月の研修、接待……。こうした負担があるからこそ、非正規社員よりも高い給料が支払われている、というロジックが成り立つのです。逆を言えば、同一労働同一賃金を導入すると、「正社員ならではの負担を背負っているのに、負荷がない非正規社員と同じ賃金にするのは納得がいかない」と反対が出る可能性もあるでしょう。「正社員は責任も義務も重いから給料が高い」……この慣習を打ち破らないことには、同一労働同一賃金を実現するのは難しいといえそうです。
・正社員並みに給料を支払える企業が少ない
人件費を抑えるために非正規社員を雇用している企業も少なくありません。もし、同一労働同一賃金となれば、非正規社員に正社員並みの給料を支払うことになります。しかし、その実現することが難しいということになると、「正社員の賃金を下げるしかない」という議論となってきます。賃金が低い方に合わせるということは、労働者を一層苦しめることに他なりません。現実問題として、どうやって非正規社員の賃金を上げるかという議論が欠かせないのです。
同一労働同一賃金が実現されれば、労働者の生活向上にはつながります。しかし、日本でそれを実現するには、上記のような課題が無視できません。一つ一つの課題をひも解いて、実現に向けて歩んでいくことが重要だといえそうです。(ライター:香山とも)