母子・父子世帯は減少傾向に?それでも必要なひとり親の支援策
国の調査統計によると、この20年でひとり親世帯(母子・父子世帯)の数は減少しているようです。背景には、2002年をピークに低下傾向にある離婚率があり、再婚の増加や祖父母との同居増加などの要素が作用している可能性もあります。
その一方で、ひとり親家庭を取り巻く環境には課題がないとはいえません。現状を統計データから分析し、社会全体で取り組むべきことや、子どもたちの健全な成長を支える支援の在り方を探ります。
ひとり親世帯のデータ推移
ひとり親世帯の現状は、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」や「国民生活基礎調査」などの統計調査結果から確認できます。
1.世帯構成の推移
調査年 | 総世帯数 (万世帯) | 核家族世帯数 (万世帯) | 母子世帯数 (万世帯) | 父子世帯数 (万世帯) |
---|---|---|---|---|
2021 (令和3年) | 5600 | 2321 | 119.5 | 14.9 |
2016 (平成28年) | 5300 | 2302 | 123.2 | 18.7 |
2011 (平成23年) | 5000 | 2283 | 124.1 | 20.1 |
2006 (平成18年) | 4700 | 2257 | 125.4 | 21.3 |
2001 (平成13年) | 4500 | 2228 | 127.0 | 22.5 |
2001年から2021年にかけての世帯構成の推移を見ると、総世帯数は4500万世帯から5600万世帯へと約24%増加しています。
主な要因は「単身世帯(単独世帯)」の急激な増加で1291万世帯から1896万世帯へ約47%増加し、総世帯数に占める単身世帯の割合は28.7%から33.9%へと上昇しています。
「核家族世帯」は2228万世帯から2321万世帯へと約4%の増加にとどまり、「母子世帯」は127.0万世帯から119.5万世帯へ約6%減少、「父子世帯」は22.5万世帯から14.9万世帯へ約34%も減少しています。
以前は「シングルファザー・マザーの増加」などとセンセーショナルに報じられましたが、実態は変化しているのです。
2.平均年間収入の推移
調査年 | 核家族世帯 平均年間収入 (万円) | 母子世帯 平均年間収入 (万円) | 父子世帯 平均年間収入 (万円) |
---|---|---|---|
2021 (令和3年) | 650 | 273 | 518 |
2016 (平成28年) | 627 | 243 | 420 |
2011 (平成23年) | 620 | 223 | 380 |
2006 (平成18年) | 615 | 210 | 350 |
2001 (平成13年) | 600 | 200 | 340 |
2001年から2021年にかけての平均年間収入の推移は、世帯類型ごとに異なる傾向を示しています。核家族世帯の平均年間収入は、600万円から650万円へと約8%増加し、緩やかではあるものの20年間で着実な上昇を示しています。
母子世帯の平均年間収入は、200万円から273万円へと約36%の顕著な増加を記録。母子世帯の経済状況に一定の改善が見られたことを示しています。
最も大きな変化を示したのは父子世帯で、平均年間収入が340万円から518万円へと約52%も増加しました。この急激な上昇は、父子世帯を取り巻く環境や支援策に大きな変化があったことを示唆しています。
父子世帯の収入増加要因は、まずは就業支援や社会保障制度の充実が挙げられます。また、父親の育児参加に対する社会的理解が進み、仕事と育児の両立がしやすくなったことも影響しているでしょう。企業側の意識改革により、ひとり親に対する雇用機会や昇進の可能性が拡大した可能性も考えられます。
母子世帯の課題と対策
母子世帯と父子世帯は、それぞれ固有の課題に直面しています。これらの課題に対する適切な対策を講じることが、ひとり親家庭の生活の質を向上させ、子どもたちの健全な成長を支援する上で重要です。
1.経済的自立支援
母子世帯の最も大きな課題の一つは、経済的自立です。統計データが示すように、母子世帯の平均収入は他の世帯タイプと比べて依然として低い水準にあります。
この課題に対処するためには、複合的なアプローチが必要です。「職業訓練や資格取得支援の強化」「企業への雇用促進インセンティブの提供」「児童扶養手当などの経済的支援の拡充」などが考えられます。
2.就業支援
母子世帯の多くが直面する課題として、安定した職に就くことの困難さがあります。非正規雇用が多く、低賃金や不安定な雇用条件に悩まされるケースが少なくありません。
この課題に対しては「ワークライフバランスに配慮した雇用形態の推進」「テレワークなど柔軟な働き方の支援」「キャリアカウンセリングの提供」などが効果的な対策と考えられます。
3.社会的孤立の解消
子育てと仕事の両立に奔走する母子世帯の母親は、社会的に孤立しがちです。この問題に対処するためには、以下のような支援が考えられます。
まず、同じ境遇にある母親たちが交流し、情報交換や相互支援ができる場を提供することで、孤立感の軽減や実践的な問題解決につながります。「メンタルヘルスケアの提供」や「子育て支援サービスの拡充」も重要な対策になるでしょう。
父子世帯の課題と対策
父子世帯も、母子世帯と異なる課題に直面しています。
1.家事・育児支援
父子世帯特有の課題として、家事と育児の両立の困難さが挙げられます。多くの場合、父親は仕事と家事・育児の両立に苦心しており、この問題に対処するためには「家事支援サービスの提供」や「父親向け育児教室の開催」「企業における育児休暇取得の促進」が有効と考えられます。
2.社会的支援の強化
父子世帯は、母子世帯に比べて社会的支援が不足している傾向が指摘されています。この課題に対しては「父子世帯向け相談窓口の設置」や、育児や家事、仕事の両立に関する悩みを気軽に相談できる「父子世帯特有のニーズに対応した支援制度の創設」「地域コミュニティにおける父子世帯支援ネットワークの構築」も有効でしょう。
3.メンタルヘルスケア
父子世帯の父親は、家族を支える責任から来る精神的ストレスに直面することが多くあります。この課題に対しては「定期的なカウンセリングの提供」「ストレスマネジメント講座の開催」のほか、同じ境遇にある父親同士が交流して経験や悩みを共有できる「ピアサポートグループの形成支援」も有効と考えられます。
事業主向け助成金制度
ひとり親の雇用を促進し、経済的自立を支援するため、日本政府はいくつかの事業主向け助成金制度を設けています。これらの制度は、企業がひとり親を雇用することのインセンティブとなり、ひとり親の就業機会の拡大につながることが期待されています。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、母子家庭の母や父子家庭の父など、就職が特に困難な者を雇い入れた事業主に対して支給されます。対象となるのは、児童扶養手当を受給しているなど、一定の条件を満たす母子家庭の母や父子家庭の父です。
参考:厚生労働省 | 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者を、一定期間試行的に雇用する事業主に対して助成するものです。母子家庭の母等(父子家庭の父を含む)も対象となっています。
参考:厚生労働省 | トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した事業主に対して支給されます。母子家庭の母等を含む有期雇用労働者が対象となっています。
子どもたちの健全な成長への視点を
近年はシングルファザー向けの支援策が、シングルマザー向けの支援策と比較して不十分であるという批判が高まっています。この問題は、社会的な認識や制度設計の偏りを反映しており、早急な対応が求められています。
また、支援策の立案と実施において、経済的な問題を解決するだけでなく、ひとり親家庭で育つ子どもたちの声に耳を傾け、その健全な成長と発達を最優先に考慮することが不可欠という視点も強まっています。
ひとり親家庭への支援を強化することは、社会の公平性と包摂性を高め、次世代を担う子どもたちの可能性を最大限に引き出すことにつながります。それは結果として、日本社会全体の持続可能な発展と活力の源泉となるでしょう。