増加する非正規公務員、背景と問題点
非正規社員の増加が問題視される昨今ですが、「非正規公務員」の急増も注目されています。一般的に公務員は「安定している」というイメージがありますが、そうではない現実があるようです。非正規公務員の増加と、ならびに増加に際しての問題点を考えていきます。
■非正規公務員の増加の背景と実態
2005年から「小さな政府」の方針により、政府の関与や影響を小さくしようという志向が強まりました。一方で、社会保障や雇用対策、少子高齢化、教育問題など、国が果たすべき役割は増加しているのが実態です。民間事業者にアウトソーシングする部分も増えていますが、それだけではまかなえないのが実態です。そこで、非正規公務員の増加が進んだのです。
2005年から2012年にかけての7年間で、非正規公務員の人数は約45万人から約60万人へと15万人も33%も増加しました。この数字は、公務員の約3分の1の職員が非正規公務員ということでもあります。職種別に見ると、学童指導員、消費生活相談員、図書館職員、学校給食調理員、保育士などで特に非正規公務員が増加しています。多くの非正規公務員は年間200万円以下という低い賃金水準で働いていますが、その6割以上が正規公務員と同じ勤務時間で働いています。こうした状況は今後も進行していくことが予測されます。
非正規公務員増加の問題点
非正規公務員が増加していくことによって、どんな問題が起こりえるのでしょうか。考えていきます。
・雇い止め増加への懸念
数年間勤めてきた非正規公務員が、納得できない雇い止めにあい、訴訟を起こすなどのトラブルが起こっています。今後、非正規公務員と国や自治体の間のこうした争いは増加していくと予測されます。
・低賃金労働の増加
年収200万円以下の非正規公務員は、生活することもままならない状況に陥る可能性があります。すでに「ワーキングプアを自治体がつくっている」「官製ワーキングプア」という批判も生まれており、自治体や行政が格差社会を助長しているのではないかと言われています。
・非正規公務員たちの不満の蓄積
非正規公務員だからといって、勤務形態が柔軟になったり、就労時間が短くなったりするわけではありません。一方、行政サービスは高度化・複雑化しており、仕事の責任は重くなるばかりです。こうした状況が続けば、非正規公務員の不満が蓄積していく可能性があります。将来的には、行政サービスの質の低下などにもつながりかねないでしょう。
・社会保障面でのデメリット
民間企業ならば、正規社員と同様の働き方である場合、年金や健康保険は正規社員と同様の厚生年金、健康保険組合などに加入します。しかし、非正規公務員は独自の規定があるため、公務員が加入する共済組合を利用することができません。このため、年金は厚生年金、健康保険は協会けんぽに加入しています。また、任期が二カ月以内の非正規公務員の場合には、国民年金、国民健康保険に加入しなければなりません。社会保障の部分でも守られにくいのが非正規公務員なのです。
・労働契約法やパート契約法が適用されない、守られていない身分
非正規社員の場合は、労働契約法やパート契約法によって不当な解雇などで守られています。もちろん、十分に守られている立場とはいえませんが、非正規公務員はこうした法でさえ適用されていないので、さらに権利を保護されにくい立場になっています。そのため、前記の雇い止めの問題も増加しやすいと懸念されます。
・公務員志望者減少の恐れ
非正規公務員の増加によって公務員のイメージが悪化すれば、ひいては公務員を志望する優秀な人材が減少する可能性もあります。自治体や各種行政サービスの健全な運営に陰を落とす可能性もあるでしょう。
非正規公務員は今後さらに増加していくと考えられます。どのように非正規公務員の権利保障を行っていくか、社会の要請と考慮しながら改めて制度設計していく必要があるといえそうです。(ライター:香山とも)