「不本意非正規」の実態とこれからの課題
現在、「不本意非正規」が増えていることが社会的な問題となっています。不本意非正規とは、文字通り、正社員として働ける企業が見つからなかったことをおもな理由として、「不本意だけれども非正規で働いている人」のことを指します。
もちろん、働き方が多様化する中で、あえて非正規の働き方を選ぶ若者も増えていますが、まだまだ「正社員になりたい」という願望を持って社会に出る人が大多数。そんななかで、不本意非正規とはどういった問題を抱えているのでしょうか。実態と課題を紹介します。
不本意非正規の実態
正社員になりたくてもなれていない不本意非正規者は、どのくらい存在するのでしょうか。総務省の労働力調査によると、約2000万人にのぼる非正規労働者のうち、正社員を希望しているのにそのチャンスが得られない不本意非正規の人は約362万人、割合にして18.1%(2014年平均)を占めるとされています。
こうした人々は1993年ごろから続く就職氷河期から急増してきました。つまり個人の資質というよりは、社会的な影響により出てきた課題だといえるでしょう。中でも、25~34歳の若年層がに不本意非正規層の28.4%を占めています。また、こうした不本意非正規は地域によっても状況に違いがあり、国だけでなく地方自治体レベルでの対策も求められようとしています。
不本意非正規問題への対策
増加し続ける不本意非正規に対して、政府も対策を講じることを表明しました。2016年度から厚生労働省が、「正社員転換・待遇改善プラン」として、非正規雇用で働く人の正社員化や待遇の改善に向けた施策を講じる計画を打ち出したのです。具体的な対策としては、有期雇用の人が同じ職場で5年を超えて働いた場合には、企業に無期雇用への転換を申し込むことができるというものがあります。さらに、企業側においても、こうした求めに応じる義務が発生することを定めた「無期転換ルール」を周知徹底することなどが掲げられています。
不本意非正規の課題とは
しかしながら、こうした政府の方針に対して、以下のような疑問の声も上がっています。
- 企業が従うはずがない。法規制がなければ実現は難しい。
- 労働派遣法で認められた派遣社員がある限り、非正規社員は減らない。
- 若年層だけでなく、中高年の不本意非正規こそが問題ではないか。
- 正社員を増やすのではなく、非正規労働者の待遇改善を目指すべきだ。
こうした声と不本意非正規の過酷な状況を踏まえつつ、以下のような課題に取り組む必要があるでしょう。
【課題1】非正規と正社員との待遇格差こそが問題である
「同一労働同一賃金」を実現できるような具体的アクションが必要となります。「不本意非正規」であっても、正社員と同じ仕事をしていれば同等の賃金を払う必要があるというものです。企業側にとっては、「不本意非正規」を雇用することでコストの削減を見込んでいるため、この「同一労働同一賃金」を実現するためには法的規制も重要となってくるでしょう。また、社会保険等も同等に認められるように整備していく必要があります。
【課題2】不本意非正規の理不尽な雇い止めを防ぐ対策
正社員よりも雇用の安定感がない不本意非正規者。突然解雇されて、生活することもままならなくなるケースも少なくないようです。企業側の一方的な雇い止め、ルールを無視した雇い辞めを防ぐような施策も求められます。
【課題3】正社員へ登用されるための技能育成機会の充実
中途社員として正社員採用となる場合、それ相応のスキルが求められる可能性があります。そのため、不本意非正規者に対するスキル研修の充実などが求められてくるでしょう。
現在の状況を放置していくと、不本意非正規のまま社会保険料を支払えず、中高年を迎える人も増加するでしょう。そうなれば、経済的な貧困層も増え、その対策のためにさらなる社会的コストも増加してしまいます。より一層の不本意非正規層への対策が求められそうです。(ライター:香山とも)