がん患者の「就労継続支援策」を考える
がんと診断されると、多くの人が仕事を続けられるかどうか不安を感じます。しかし、医療技術の進歩により、がん治療と仕事の両立が以前より可能になってきています。
とはいえ、現実には多くの課題が残されており、患者、医療機関、企業それぞれの立場で取り組むべき点があります。今回は、がん患者のキャリア継続における現状と課題、そして両立支援に向けた具体的な取り組みについて解説します。
現状と課題
がん治療と仕事の両立に関する認識は徐々に改善しています。2023年の調査では、がん治療のために2週間に一度程度通院しながら働き続けられる環境だと思う人の割合が増加傾向にあります。
実際に、仕事を持ちながらがん治療のために通院している人は、男性18.6万人、女性26.2万人、計44.8万人に上ることが明らかになっています。しかし、依然として多くの課題が残されています。
1.早期離職
がん患者の3~5人に1人が診断後に離職しており、この割合は過去10年間でほとんど改善が見られていません。さらに懸念すべきは、離職者の約4割が治療開始前に仕事を辞めているという事実です。
2.職場の支援体制の不足
多くの従業員が、がん治療と仕事の両立が困難だと感じています。その主な理由として、代替要員の不在や、休暇取得に対する職場の理解不足が挙げられています。
3.柔軟な勤務制度の不足
時間単位や半日単位の休暇制度、短時間勤務制度など、がん患者のニーズに合わせた柔軟な勤務形態の導入が十分ではありません。
4.経済的不安
治療費用や休業による収入減少に対する不安が、就労継続の障害となっています。
5.医療機関との連携不足
患者、医療機関、企業間での情報共有や連携が不十分であり、適切な就労支援につながっていない場合があります。
多様な支援者の役割
がん患者の就労支援には、様々な立場の支援者が関わっています。それぞれの専門性を活かして患者をサポートする主な支援者には以下のような方々がいます。
1.医療ソーシャルワーカー
医療機関に所属し、患者の社会生活上の問題に対して相談援助を行います。就労に関する相談も受け付け、必要に応じて他の専門機関と連携します。
2.産業保健スタッフ
企業内の産業医や保健師が、従業員の健康管理や職場環境の改善、復職支援などを行います。がん患者の就労継続や復職に関して、医療面からのサポートを提供します。
3.両立支援コーディネーター
患者、企業、医療機関の間を調整し、スムーズな職場復帰や就労継続を支援します。患者の状況に応じた両立支援プランの作成などを行います。
4.ハローワークの就職支援ナビゲーター
がん患者・経験者の就職を専門的に支援します。個々の希望や状況に応じた職業相談、職業紹介を行います。
5.社会保険労務士
労働・社会保険に関する専門家として、休職中の給付金や傷病手当金の申請支援、復職時の労務管理アドバイスなどを行います。
6.キャリアコンサルタント
患者の職業生活全般に関する相談に応じ、専門的な立場から助言や指導を行います。キャリアプランの再考や職場とのコミュニケーション方法などについてサポートします。
7.ピアサポーター
がん経験者自身が、同じ経験を持つ患者に対して情報提供や精神的サポートを行います。就労に関する実体験に基づくアドバイスも提供します。
希望を持って生きられる社会に
がん患者に対しては、さまざまな支援者が連携しながら、がん患者の個別の状況やニーズに応じた包括的な就労支援を提供しています。患者自身が適切な支援者にアクセスし、必要なサポートを受けられるよう、医療機関や企業、行政が連携して情報提供や支援体制の整備を進めています。
がん治療と仕事の両立支援は、患者、医療機関、企業、そして社会全体で取り組むべき重要な課題です。一人ひとりが「がんになっても働き続けられる」という意識を持ち、互いに支え合う環境づくりが求められています。
周囲の支援者は、患者の声に耳を傾け、個々の状況に応じたきめ細やかな支援を提供することが大切です。がんと診断されても、希望を持って自分らしく生きられる社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることから始めていきましょう。