ガンとキャリアの両立、求められる支援
いまや日本人の半数がかかるといわれているガン。もはや誰にとっても珍しくない病気になりましたが、ガンの治療によって今まで通りに働き続けることが難しいとされ、本人が退職という道を選んだり、会社側から解雇されたりするケースがあるようです。ガン治療とキャリア、両方をあきらめずに継続させる方法はないのでしょうか。ガン治療とキャリア両立の現状と実態、求められるサポートを考えていきます。
ガン治療とキャリアの両立の難しさ
内閣府が2015年1月に発表したガン対策に関する世論調査結果によると、「ガン治療や検査のため、2週間に1回程度、通院しながら働く環境が整っているか」という質問に対して、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」という回答が計65.7%にのぼりました。ガン治療においては、毎月数回、病院へ通わなければいけない状況も十分に考えられますが、それができない……。実際、ガンを患った労働者の3割が依願退職や解雇の道を選ぶという実態もあります。
会社を辞めるにあたってのおもな理由は、「通院などで頻繁に休むようになる」「抗がん剤などの治療の副作用で体調不良となり仕事のパフォーマンスが下がる」といったことが挙げられています。実際に、ガン罹患後の1年間における労働時間は、週あたり40時間未満が約4割を占めるというデータも報告されています。ガンが発覚したあと、一時的に労働時間を抑える傾向があるのです。また、退職にまでは至らなくとも、異動や仕事内容の変更、勤務時間の短縮を経験したガン患者や元ガン患者も約2割にのぼっています。
求められるサポート体制とは
ガン患者が本人の望むキャリアを実現するためには、個人の努力だけでなく、周囲のサポートが欠かせません。まずは、本人が周囲にサポートをしてもらえるという意識をきちんと持ったうえで、会社や社会とコミュニケーションを取っていくことが必要です。では、企業と社会において具体的にどんなサポートが考えられるのでしょうか?
【企業側のサポート】
就労者からガン罹患の申告を受けたら、本人の希望もくみ取った上で、働き続けるのに現実的な部署を検討していくことが求められます。会社のダイバーシティを進める一貫として整備していくとよいでしょう。また、社員の状況に合わせて、時短勤務やリモート勤務、治療のための休職制度などを導入することも視野に入れる必要があります。休職中もきちんと本人と連絡を取れるようにするなど、コミュニケーション手段を確保することが必要です。
また、「直属の上司には言いにくい」「病気についてよくわからない者が相談されても判断しにくい」などのケースもあるでしょう。そのような関係性のストレスを解消するためにも、専門の相談窓口を設けるとよいでしょう。
【社会におけるサポート】
ガン患者が仕事や治療費について悩んだ場合、がん診療連携拠点病院に設置されている『がん相談支援センター』に相談をすることができます。こうした相談サポート制度を広げていくことが求められるでしょう。いったんガン治療のために仕事を辞めてしまった就労希望者に対して、ハローワークでの再就職サポートも求められるでしょう。
また、ガン治療にはお金がかかるものです。仕事を制限されている状況であれば、なおのことお金に関する悩みは深くなるでしょう。そうした際には、助成金の存在が重要となってきます。ガン患者の実態を踏まえた助成制度の充実も求められるでしょう。
こうしたガン患者本人を取り巻く状況を整備していくという視点は欠かせません。そして、就労者本人も雇用先に「自分はどこまでの仕事ならばできるのか」「医師にはどんな可能性があるといわれているのか」などを綿密に伝え、状況に合わせた働き方を自分自身でつくっていくという意識も欠かせないといえるでしょう。(ライター:香山とも)