奨学金問題の苦しい現実と解決策
世帯収入が少しずつ下がり続けている昨今、学費のために奨学金を借りる大学生が増えています。しかし、就活に失敗して奨学金の返済が不可能となったり、返済するためにやむなくブラック企業で働き続けたりするケースも少なくありません。このような若者の増加が「奨学金問題」として認知されつつあります。奨学金問題と、現在検討されている解決策について紹介します。
所得と大学進学率の関係
各世帯の平均所得は、1990年代半ばを境にして下がり続ける一方となっています。その一方で、日本の大学の学費・入学金は各国と比較してもかなり高額と言われています。また、大学進学率もほぼ右肩上がりを続けており、6割近くの高校生が大学進学を希望しています。つまり、「収入は減っているけど、少し無理してでも大学に行こう」と思う進学希望者が増えているわけです。
奨学金の利用実態
世帯収入が少なく、大学に入学できるお金を工面できない場合に考えるのが、奨学金制度の利用です。実に学生らの4割が利用していると言われています。日本の奨学金は多くが、返済する必要がある貸与型。返済の必要がない給付型はまだまだ少ないのが実情です。
日本学生支援機構(JASSO)によると、2014年度の奨学金利用者は約141万人。ほぼ2人に1人が奨学金に頼って生活をしていることになるのです。そのなかで、返済を3カ月以上延滞している人は約17万3000人にのぼるといいます。そして、その債権額は2491億円ともいわれています。返済が滞るおもな理由は、家計の収入の低下や本人の低所得です。国の奨学金を大学在籍中(4年間)借りた場合、卒業時には約140万~580万円の借金を背負うということになります。金銭的にも精神的にも大変な負荷となることは間違いないでしょう。
実際に、就活がうまくいかず奨学金を払いきれないためにバイトをいくつも掛け持ちしたり、奨学金を払い続けるために過重労働のブラック企業で働き続けたりする若者たちも出てきています。現状が大きく打開される見込みが少ないとなると、今後はより一層奨学金を払えない若者が増加すると考えられるのです。
奨学金問題の解決策とは?
現在、奨学金問題の深刻化を懸念して、解決策の検討が進んでいます。大きく3つの例を紹介します。
1. 所得額に応じて返済額が決まる奨学金制度
「奨学金を返さなければいけない」という前提は変わりありませんが、就職後の所得額に応じて返納すべき奨学金を設定する制度の新設が、国で検討されています。これは、『新所得連動返還型奨学金制度』と呼ばれているものです。平成29年度から導入が検討されているこの制度は、以下の点が特徴的だといわれています。
・学生時代の世帯の所得状況は鑑みず、支払い額が決定される
・所得が一定額を超えるまでは、最低返還月額の2,000円を返還すればよい
・一定額を超えると、所得に応じた返還額が設定される
現行の奨学金制度も、「年収300万円を超えると、収入に関わらず一定額で返還開始(一部控除あり)」「学生時代の世帯(主に父母)が低所得の場合のみ適用される」などの所得に連動した返済の規定はあるものの、『新所得連動返還型奨学金制度』はそれを大きく発展させた制度になるとえるでしょう。
2. 給付型奨学金の拡充
企業や大学が、返済義務のない給付型奨学金制度を拡充する動きもあります。返済義務がないので、学生にとっては実質的な負担がゼロというメリットがありますが、すべての奨学金希望者にいきわたるわけではないでしょう。必然的に、学業成績の優秀な子に限定される傾向があると考えられます。
3. 奨学金を肩代わりする企業の登場
奨学金制度を充実させるだけでなく、学生が借りた奨学金を就職後の企業が肩代わりして支払うことも検討されています。例えばメガネチェーンのオンデーズ(2014年冬開始)や冠婚葬祭サービスのノバレーゼ(2012年開始)などは、新卒採用した学生たちの奨学金の一部を肩代わりする制度があります。企業にとっては、就活生への採用アピールになるだけでなく、若手社員が安心して働ける環境を提供するというメリットがあります。
奨学金問題は、大学卒業後のライフプランや就活、その後の転職にも大きな影響を与える問題です。奨学金によって、卒業者たちが不利なキャリアを歩むことがないように、行政や大学、企業らがサポートしていくことが求められそうです。(ライター:香山とも)