勤務間インターバル制度への期待と課題
現在、「勤務間インターバル」という制度に注目が集まっています。就業時間と始業時間の間に、一定の休息時間を設けるというこの制度については、過重労働の歯止めになると期待する声もある一方、実際にすべての企業が実施するのは難しいという現実的な指摘もあります。勤務間インターバル制度の概要と期待される成果、残された課題についてご紹介します。
勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル規制は、時間外労働などを含む1日の最終的な勤務終了時から次の始業時までに、一定時間のインターバル(休息時間)を確保することを規定した制度です。例えば、インターバルが11時間の場合、残業で夜23時に帰社したとすれば、仮に始業時間が朝9時だったとしても翌日の10時まで出社は免除されます。また、9時~10時の間の賃金もカットされません。従業員は休息時間をきちんと確保できるだけでなく、賃金ロスの心配もしなくてすむようになります。
ダイバーシティも進むなか、社員のワークライフバランスを進めていくために導入する企業も増えています。例えばEU加盟国では、1993年から「24時間につき最低連続11時間の休息時間」を義務づけました。日本企業でも、KDDIや三菱重工業、NECなどが採用し、話題となりました。
厚生労働省による勤務間インターバル制度促進案
この勤務間インターバル制度について、さらに注目が集まる事態となっています。この制度を就業規則として記載した企業に対し、2017年度から厚生労働省が最大100万円の助成金を支給する可能性があると報じられたからです。
この助成金は、長時間労働削減や有給休暇の取得促進に注力する中小企業を対象とした「職場意識改善助成金」に加えられるものとされています。どのくらいインターバルがあくことで助成金が支払われるかは、今後さらに検討するといわれています。これまで、大企業を中心に広がっていた勤務間インターバル規制でしたが、今後は中小企業にも広く広まっていくことが期待されています。
勤務間インターバル制度のメリット
勤務間インターバル制度には、おもに以下のようなメリットが想定されています。
・過重労働の是正につながる
この制度が広がれば、日本の社会問題ともいえる過重労働の是正につながります。「深夜1時まで残業→翌朝9時出勤」といった事態も避けられ、過労死などの働きすぎによる健康被害の抑制にも効果があるでしょう。
・ワークライフバランスが実現する
長時間労働に歯止めをかけることができれば、労働者がプライベートで使える時間が増えます。育児や介護、仕事以外での学び、副業などに時間を費やすことができ、ワークライフバランスを実現することができるでしょう。生き生きと人生を過ごせる人が増え、結果的に社会全体の改善に貢献します。
・ブラック企業の見極めに役立つ
勤務間インターバル制度が当たり前になれば、制度を採用しなかったり遵守しなかったりする企業は「悪目立ち」するようになります。そうした組織は、ブラック企業として社会から敬遠される可能性もあるでしょう。社会全体にとっても、ブラック企業が減ることは大きなメリットとなるはずです。
勤務間インターバル制度に残された課題
上記のようなメリットがある一方で、制度だけでは全面的に実施するのは難しいのではないかという指摘もあります。
・「制度」ではなく「法」にすべきではないか
「最低でも10時間のインターバルを取る」などは、労働者として当然の権利ではないかという声が挙がっています。罰則規定のない「制度」とするのではなく、労働関連の法規として実現を図っていくべきではないかとの意見もあります。
・インターバルが取りにくい業態にはどう普及させるのか
24時間営業のスーパーや飲食店、不規則勤務が常態化しているIT・ネット業界などにおいては、十分なインターバルを取ることは難しいのではないかという指摘がなされています。過重労働になりがちな業態において、どのように休息を取らせるかという点で、勤務間インターバル制度が十分な役割を果たすか議論がなされています。
・持ち帰り残業を助長させるのではないか
企業としては制度を導入したからには達成し、100万円の助成金も受けたいものです。しかし勤務体制全体の見直しが企業に浸透しなければ、結局は労働者に持ち帰り残業を強いるのではないかと懸念されています。
メリットは大きいものの、うまく活用するには検討の余地がありそうな勤務間インターバル制度。今後どのように企業で導入されていくのか、目が離せない状況です。(ライター:香山とも)