いまこそ広げよう!「勤務間インターバル制度」の普及に向けて
勤務間インターバル制度は、労働者の健康確保と長時間労働の是正を目的として導入された重要な施策です。この制度は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保する仕組みで、2019年から企業の努力義務として位置づけられています。
過労死や過労自殺が深刻な社会問題となる中、働き方改革の一環として期待されていますが、その普及にはまだ課題が多く残されています。今回は、勤務間インターバル制度の概要から現状、課題、そして今後の展望までを詳しく解説します。
「勤務間インターバル制度」とは?
勤務間インターバル制度とは、労働者が終業後から翌日の始業までの間に一定時間の休息を取れるよう企業が努める仕組みです。この制度の導入目的は、労働者の心身の回復を図るとともに、健康を害するような長時間労働を防ぐことにあります。
特に欧州連合(EU)においては労働時間指令に基づき、1日あたり最低11時間の休息時間を義務化しています。日本においては、これを参考にしながらも柔軟な適用を前提とした努力義務として制度化されました。
制度化の背景と目的
勤務間インターバル制度が注目された背景には、以下の課題がありました。
1.過労死や過労自殺への対応
長時間労働が労働者の健康を損なう主因とされる中、勤務間インターバル制度はその解決策として期待されています。
2.国際基準への整合性
EUのような休息時間の明確な規定を持つ国際的な労働基準との整合性を図る必要がありました。
3.労働生産性の向上
健康的な働き方を実現することで、労働者のパフォーマンス向上が期待されています。
制度の法的位置づけ
勤務間インターバル制度の法的位置づけは明確化されてきた経緯があります。
努力義務としての位置づけ
2019年の労働時間等設定改善法の改正により、勤務間インターバル制度は企業に対する努力義務として導入されました。
これにより、企業は就業規則や労使協定の整備、勤務シフトの見直しなどの具体的な対応を求められるようになりました。ただし、現時点では罰則規定がないため、制度の実効性を高めるための取り組みが今後の課題とされています。
特定業種での義務化
2024年からは、医師や自動車運転業務従事者など特定の業種で義務化が進められます。医師については9時間のインターバル確保が義務付けられ、自動車運転業務従事者については9時間の義務化と11時間の努力義務が設定されました。これにより、過重労働が特に問題となっている業種での労働環境改善が期待されています。
目標達成に向けた取り組み
2021年に策定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、勤務間インターバル制度の導入率を2025年までに15%以上に引き上げることが目標とされました。
この目標には、制度の認知度を向上させるとともに、導入を促進する意図があります。また、制度を知らない企業の割合を5%未満に抑えることで、広報活動や啓発が強化されています。
労災認定基準への反映
2021年9月の労災認定基準の改正では、勤務間インターバルが短い勤務が過重労働の評価項目として追加されました。具体的には、インターバルが11時間未満の場合、その頻度や連続性が労災リスクの判断材料となります。この変更により、企業は労務管理の強化を求められると同時に、労働時間管理システムの改修や産業医との連携が必要となりました。
導入状況と課題
勤務間インターバル制度には導入上の課題が残されています。
現状の普及率
厚生労働省「就労条件総合調査」によると、2023年1月時点での勤務間インターバル制度の導入率は約6%にとどまっています。この低い導入率は、中小企業を中心とした認知度不足や導入コストへの懸念が影響していると考えられます。
一方で、従業員1,000人以上の大企業では15%程度の導入が進んでおり、企業規模による格差が顕著です。
中小企業における課題
中小企業では、人員配置の柔軟性が低いことや、労務管理システムの改修コストが高いことが導入の障壁となっています。また、勤務シフトの見直しにより業務プロセス全体の変更が必要になる場合もあり、現場の調整負担が増大している点も課題です。
義務化に向けた段階的アプローチ
政府は、勤務間インターバル制度の全面的な義務化に向けて、段階的な導入を検討しています。具体的には、緊急対応が求められる職種や繁忙期の特例措置など、現場の実態に即した柔軟な施策が検討されています。
また、中小企業に対する助成金の拡充や労働時間管理システムの導入支援も進められる見込みです。
「助成金」について
勤務間インターバル制度導入の支援策として、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)があります。この助成金は、勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業事業主を支援するものです。
対象となる事業主
- 労働者災害補償保険の適用事業主である中小企業事業主
- 全ての対象事業場で36協定が締結・届出されていること
- 原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること
- 交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
支給対象となる取り組み
以下のいずれか1つ以上を実施する必要があります。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取り組み
- 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
助成内容
- 助成率:費用の4分の3(一部の取り組みは5分の4)
助成上限額:
- 休息時間9時間以上11時間未満:100万円
- 休息時間11時間以上:120万円
- 賃金引上げを伴う取り組みの場合、最大480万円の加算あり
申請期限は、例年11月末頃に設定されていますが、予算額に達した場合はそれ以前に締め切られる可能性があります。
人員不足など新たな課題も
勤務間インターバル制度は、労働者の健康維持とワーク・ライフ・バランス向上を目指す重要な取り組みとして注目を集めています。2024年4月からは医師や自動車運転業務従事者など特定業種で義務化され、労働環境改善への大きな一歩となります。
しかし、制度導入に伴い新たな課題も浮上しています。医療現場での緊急対応、運輸業界の不規則な勤務形態への対応、中小企業の人員確保や業務効率化など、業種特有の課題が存在します。
これらの課題に対しては、業界団体や行政、企業が連携して創意工夫を重ねる必要があります。ICTの活用、柔軟な勤務シフトの導入、人材育成の強化などが考えられます。重要なのは、従業員の健康と安全を最優先に考えながら、各業界や企業の実情に合わせた解決策を見出すことです。